悪女と蔑まれ処刑される令嬢は執着してくる元宰相閣下にだけは捕まりたくない。あなたにだけは嫌われたくないので溺愛しないで! 追ってもこないで!

迷路を跳ぶ狐

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35.求めるように

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 レイディルクライトルは、通された部屋で、そこまで案内してくれた執事に振り向いた。

「あ、あのっ……ディーフェヴィルト様はっ……!? グラティローナ様は、ディーフェヴィルト様を拘束する気です!!」
「はい。存じ上げております」
「落ち着いている場合ではありませんわ!! ここはどうか、私にお任せください!!」
「私の方も、そうしたいのは山々です。あなたの方が、穏便にこの場を収めてくれそうだ。しかし、ディーフェヴィルト様は許しませんので」
「あなたにご迷惑はかけません!」

 レイディルクライトルは、部屋の扉に駆け寄った。

 すると、またそこが突然開いて、ディーフェヴィルトが入ってくる。

「レイディルクライトル!!」
「きゃあっ…………ディーフェヴィルト様!??」

 驚くレイディルクライトルに、ディーフェヴィルトはにっこり笑って、ソファを指差す。

「ここ、座って」
「ま、待ってください! グラティローナ様はっ……!?」
「もう帰るって」
「か、帰る?? そんなまさかっ……」
「俺の使い魔に乗せて返したよ」
「……ど、どちらにです?」
「王都に。捕縛するように言われていたから」
「…………」

 気になって、窓の方に振り向くが、すでに全ての窓はカーテンで隠されていた。外の様子は窺い知ることはできない。けれど、やけに静かだ。

 振り向けば、ディーフェヴィルトは、レイディルクライトルに微笑んだ。

「彼らは帰ったよ。レイディルクライトル…………せっかく君が来てくれたのに、邪魔されたくないからね……」
「……ディーフェヴィルト様…………」

 こうして向き合っていると、嬉しいのに顔を合わせていることが辛くなる。

 すでに、一族との縁は切るつもりでいる。とっくにそうされていたようなものだったし、利用されるためだけの縁には、うんざりしていた。切れるとしたらそれは嬉しいが、これでレイディルクライトルは貴族ですらない。これからは、ディーフェヴィルトとこうして話すことも、難しくなるかもしれない。

 けれど、ディーフェヴィルトはレイディルクライトルに微笑んで言った。

「会いに来てくれて……嬉しいよ」
「ディーフェヴィルト様…………」
「今度、ここの地域一帯を、領地としてもらうことになったんだ」
「え!!??」
「この辺りの魔物を管理することを条件にね。彼らでは手に負えないようだったし、押し付けられたのかもしれないけど」
「そんな…………さ、宰相として、王城に戻るのではなかったのですか?」
「打診されたけど……断った。俺は、ここが好きなんだ……」
「ディーフェヴィルト様…………」
「もちろん、君が俺の冤罪を晴らすために動いてくれたことは……すごく嬉しい。ありがとう……」
「ディーフェヴィルト様…………私の方こそ、あなたのおかげでこれまでやってこれたのです。ありがとう……ございました……」
「レイディルクライトル……」
「お、おめでとうございます!! ディーフェヴィルト様!!」

 レイディルクライトルは、心から思ったことを口にした。ディーフェヴィルトはここを気に入っていたようだったし、そうなればいいと思っていた。それが叶ったのだ。

 祝福するレイディルクライトルに、ディーフェヴィルトも嬉しそうだ。

「ありがとう……レイディルクライトル。そ、それで…………その……こ、ここを守る魔法使いが必要なんだ。だけど、まだ、俺しかいないし…………」
「で、でしたらっ…………あのっ……ぜひっ……!! ち、力になりたいです!!」
「え…………?」
「先日……夜会の場で無礼な真似をしてしまいましたし…………そのお詫びというわけではありませんが……あの時のドレスのお礼もまだです!! 洗ったのですが……」
「……ドレスはいいんだ。そうじゃなくて……俺は…………」
「え…………?」

 レイディルクライトルは、首を傾げた。

(そのために呼んだのではなかったの……?)

 けれど、ディーフェヴィルトは、しばらくの間、黙っていた。

 そして、やっと顔を上げる。

「……君はまた、冒険者に戻るんだろう?」
「はい…………そうしたいと思います……」
「じゃあ………………依頼しようかな? 俺と、領地を守るために、魔物退治に行ってくれる?」

 彼が微笑むのを見て、レイディルクライトルも嬉しかった。

「もちろんです!! ディーフェヴィルト様!!」







「日和ったのですか? ディーフェヴィルト様」

 廊下に出ると、早速執事にそう言われ、お茶の用意をしたワゴンを押すメイドに睨まれて、ディーフェヴィルトは、複雑な思いで振り向いた。

「……突然あんな話を始めたら怖いんだろう?」

 聞くと、執事は顔色を変える。

「……きっ……聞いて……いらしたのですか…………」
「なんでそんなに驚くの?」
「も、申し訳ございません……ディーフェヴィルト様が人の話を聞くなど、どうかしてしまったのかと思いまして……人の話を聞ける方だったのですね……」
「……俺だって、たまには聞く。彼女に嫌われたくないから……」

 すると今度はメイドがたずねてきた。

「それで……これでよかったのですか?」

 言われて、少し肩を落とす。せっかくレイディルクライトルが来てくれたのだ。本当は、もう帰すことすらしたくないが、彼女を苦しめるような真似はしたくない。やっと彼女も、欲しかったものを手に入れたのに。

「いずれ、彼女が俺を求めるまで待つよ」
「殊勝ですね」
「それより、お茶の用意をして。俺もすぐに行くから」

 いうと、執事もメイドも、部屋の方に向かって行く。

 その後ろ姿を見送り、彼らがレイディルクライトルのいる部屋に入って行くのを見て、ディーフェヴィルトは呟いた。

「絶対に、彼女は求めるようになるから……」

 自身への決意を呟いて、ディーフェヴィルトは、レイディルクライトルのいる部屋に向かった。


*悪女と蔑まれ処刑される令嬢は執着してくる元宰相閣下にだけは捕まりたくない。あなたにだけは嫌われたくないので溺愛しないで! 追ってもこないで!*完
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