69 / 85
69.こんなにも
しおりを挟む
「た、隊長っ……!!」
慌てて、声をかけて駆け寄った。
すると隊長は、僕に振り向いてくれる。
「早かったな」
「そんな……隊長の方こそ…………」
話しているだけで心臓が高鳴っていく。隊長が、僕のことを待っていてくれたんだ……
だけど、周りを見渡してみても、明らかに僕と隊長の二人しかいない。
「あ、あのっ……! 部隊の方々は……」
「部隊の奴らはいない。今日は、城壁の周りだけだからな」
「え!!??」
「それなら、二人でもできるだろう?」
「え…………えっ、と……」
確かに、できるけど……
……ど、どうしよう……二人きりだ。
いや……二人だからって、やることは変わらない。城の安全を保つことは大事なことだし、僕だって、侯爵家の城を守る為に、ここまで来たんだから……
それは分かっているけど……隊長と二人でいたら、どうしても隊長のことばっかり考えてしまう。
二人で歩き出すと、隣を歩く隊長が、優しい声で言った。
「待たせて悪かったな」
「え……!?? ま、待つなんて……僕は今来たところです。全然待っていません……」
「会議の間は待っていただろう?」
「え…………だ、大丈夫です!! 準備……で、忙しかったので…………」
むしろ、もっと待ってもよかった。だって、これからどうしようとか、まだ全然考えられていない。会話の内容も、事前に考えておくつもりだったのに……
「えっと……あのっ……」
ダメだ……何も話せない……
しかも、見上げようとしたら、すぐに彼と目があってしまう。だって、すぐそばにヴァンフィルイト様がいたから。
な、なんでこんなに近くに…………
「あ、あのっ…………僕っ……」
「逃すと思っているのか?」
言って、彼は僕の手を握る。
「た、隊長!!??」
「俺から逃げられると思うのか? ここは俺の城だぞ」
「え……え!? あ、えっと、そのっ……ぼ、僕はっ……そんなっ……に、逃げようとなんて……していたわけじゃ……」
嘘だ。していた。逃げる気満々だった。
だって……また何か失敗をして、隊長に迷惑をかけてしまうような気がするんだ。これまで、なんでも失敗してきた僕だから。
こんな僕を認めてくれて、隣にいて欲しいって言ってくれて、僕を必要としてくれる人、隊長だけだ。
だから僕は部隊の一人として、隊長の役に立てれば、それだけで嬉しい。そうしていたい。そうじゃないと、怖いんだ。
僕はずっと、ただの失敗ばかりの役立たずだったし、隊長もそのうちそれに気づくかもしれない。今まで、たまに部隊で一緒に戦うだけだったから気づかなかっただけで……これから僕がここにいさせてもらえる間に、こんなものをそばに置かない方がいいって思うかも……
こんなこと考えなければいいのに、どうしても不安になってしまう。こんな僕の化けの皮が剥がれて、ただのダメな僕が露呈する気がする。
そうなったとしても、隊長は優しいかもな……だって、伯爵様の部隊で、ただのクズだと言われていた僕でも誘ってくれるような人だ。普通、伯爵家に目をつけられた役立たずなんて誘わない。隊長なら、僕がダメな奴だって分かっても、仕方がないなって言って、僕を部下として部隊においてくれるかもしれない。
だけど……僕がそんなの耐えられない。僕が迷惑をかけることが嫌だし、僕に迷惑をかけられる隊長を見ることが辛いんだ。
自分がそんなことばかりしている失敗ばかりの奴だって思い知る時が来た時に、きっと僕は我慢できない。そんな苦痛を、いつかまた味わうことが怖くてたまらない。
そうなる前に、きっとまた僕は逃げてしまいそう。それまで、せめて部隊として……それなら、部隊がなくならない限り僕は隊長の側で戦える。役職ありきの関係だけど、崩れない。結局、ずるい手段で隊長のそばにいたいだけだ……キスされて、婚約なんて言われているのに。僕は知らないふりをして逃げて、それでいて図々しく隊長のそばにいようとしている。こんなクズが隊長の部隊でいいのかな……
「あ、あのっ……隊長っ……!」
振り向いたら、隊長は僕の手を強く握ってくれた。
「あ…………」
隊長に手を握ってもらえるのは嬉しいし、こうしていると、ひどく高揚しているのが分かる。手をぎゅってされて、それだけで嬉しくて、自分までいつの間にか握り返していた。
隊長に背を向けて逃げ出そうとしているくせに……隊長に触れられたら、嬉しくて、離したくなくる。ずっとそうされたくなる……もっと強くされたっていいのに…………
「……俺に触れられるのは、嫌か?」
「え!??」
そんなわけがない。もしかして、そんな風に見えたのか!??
慌てて、僕は首を横に振った。
「違うっ……! 違います!! そんなこと、絶対に有り得ません!!」
「……そうか……よかった」
そう言って、隊長はどこか、ホッとしたように微笑む。
その表情だけで、気持ちが和らぐ。僕が勝手に怯えているだけで、隊長は優しい。だから、こんな風に怯えることはないんだ。それなのに……僕は馬鹿だ……なんでいつまで経ってもこんな風に怖いんだろう……こんなことじゃ、隊長を傷つけてしまうかもしれないのに。
「えっ……と…………ほ、本当に……いや、ではないので……ごめんなさい……」
俯いたままで言う。
そう言えば、前にもこんなことを聞かれたな……触れられるのは嫌かって。
嫌なんかじゃない。
きっと、僕がいつまで経ってもこんな風だからだ。だから、ヴァンフィルイト様を不安にさせている。
「あの…………僕……」
だんだん、申し訳なく思えてきて、言い淀む。隊長も、なんでこんな面倒くさくて鬱陶しい奴を隣に連れてるんだ? もっと隊長にふさわしくて、隊長のお役に立てる人がいるはずなのに。
「え……と…………僕、あの……わ!!」
いきなり、抱き寄せられた。
肩には、隊長の手が回っている。隊長の手は力強くて、肩を抱かれただけで捕まったみたいな気になる。
「あの……」
「何を謝っているんだ? 俺はこうしていられて、デフィトリュウィクが隣にいて、こんなに嬉しいのに」
慌てて、声をかけて駆け寄った。
すると隊長は、僕に振り向いてくれる。
「早かったな」
「そんな……隊長の方こそ…………」
話しているだけで心臓が高鳴っていく。隊長が、僕のことを待っていてくれたんだ……
だけど、周りを見渡してみても、明らかに僕と隊長の二人しかいない。
「あ、あのっ……! 部隊の方々は……」
「部隊の奴らはいない。今日は、城壁の周りだけだからな」
「え!!??」
「それなら、二人でもできるだろう?」
「え…………えっ、と……」
確かに、できるけど……
……ど、どうしよう……二人きりだ。
いや……二人だからって、やることは変わらない。城の安全を保つことは大事なことだし、僕だって、侯爵家の城を守る為に、ここまで来たんだから……
それは分かっているけど……隊長と二人でいたら、どうしても隊長のことばっかり考えてしまう。
二人で歩き出すと、隣を歩く隊長が、優しい声で言った。
「待たせて悪かったな」
「え……!?? ま、待つなんて……僕は今来たところです。全然待っていません……」
「会議の間は待っていただろう?」
「え…………だ、大丈夫です!! 準備……で、忙しかったので…………」
むしろ、もっと待ってもよかった。だって、これからどうしようとか、まだ全然考えられていない。会話の内容も、事前に考えておくつもりだったのに……
「えっと……あのっ……」
ダメだ……何も話せない……
しかも、見上げようとしたら、すぐに彼と目があってしまう。だって、すぐそばにヴァンフィルイト様がいたから。
な、なんでこんなに近くに…………
「あ、あのっ…………僕っ……」
「逃すと思っているのか?」
言って、彼は僕の手を握る。
「た、隊長!!??」
「俺から逃げられると思うのか? ここは俺の城だぞ」
「え……え!? あ、えっと、そのっ……ぼ、僕はっ……そんなっ……に、逃げようとなんて……していたわけじゃ……」
嘘だ。していた。逃げる気満々だった。
だって……また何か失敗をして、隊長に迷惑をかけてしまうような気がするんだ。これまで、なんでも失敗してきた僕だから。
こんな僕を認めてくれて、隣にいて欲しいって言ってくれて、僕を必要としてくれる人、隊長だけだ。
だから僕は部隊の一人として、隊長の役に立てれば、それだけで嬉しい。そうしていたい。そうじゃないと、怖いんだ。
僕はずっと、ただの失敗ばかりの役立たずだったし、隊長もそのうちそれに気づくかもしれない。今まで、たまに部隊で一緒に戦うだけだったから気づかなかっただけで……これから僕がここにいさせてもらえる間に、こんなものをそばに置かない方がいいって思うかも……
こんなこと考えなければいいのに、どうしても不安になってしまう。こんな僕の化けの皮が剥がれて、ただのダメな僕が露呈する気がする。
そうなったとしても、隊長は優しいかもな……だって、伯爵様の部隊で、ただのクズだと言われていた僕でも誘ってくれるような人だ。普通、伯爵家に目をつけられた役立たずなんて誘わない。隊長なら、僕がダメな奴だって分かっても、仕方がないなって言って、僕を部下として部隊においてくれるかもしれない。
だけど……僕がそんなの耐えられない。僕が迷惑をかけることが嫌だし、僕に迷惑をかけられる隊長を見ることが辛いんだ。
自分がそんなことばかりしている失敗ばかりの奴だって思い知る時が来た時に、きっと僕は我慢できない。そんな苦痛を、いつかまた味わうことが怖くてたまらない。
そうなる前に、きっとまた僕は逃げてしまいそう。それまで、せめて部隊として……それなら、部隊がなくならない限り僕は隊長の側で戦える。役職ありきの関係だけど、崩れない。結局、ずるい手段で隊長のそばにいたいだけだ……キスされて、婚約なんて言われているのに。僕は知らないふりをして逃げて、それでいて図々しく隊長のそばにいようとしている。こんなクズが隊長の部隊でいいのかな……
「あ、あのっ……隊長っ……!」
振り向いたら、隊長は僕の手を強く握ってくれた。
「あ…………」
隊長に手を握ってもらえるのは嬉しいし、こうしていると、ひどく高揚しているのが分かる。手をぎゅってされて、それだけで嬉しくて、自分までいつの間にか握り返していた。
隊長に背を向けて逃げ出そうとしているくせに……隊長に触れられたら、嬉しくて、離したくなくる。ずっとそうされたくなる……もっと強くされたっていいのに…………
「……俺に触れられるのは、嫌か?」
「え!??」
そんなわけがない。もしかして、そんな風に見えたのか!??
慌てて、僕は首を横に振った。
「違うっ……! 違います!! そんなこと、絶対に有り得ません!!」
「……そうか……よかった」
そう言って、隊長はどこか、ホッとしたように微笑む。
その表情だけで、気持ちが和らぐ。僕が勝手に怯えているだけで、隊長は優しい。だから、こんな風に怯えることはないんだ。それなのに……僕は馬鹿だ……なんでいつまで経ってもこんな風に怖いんだろう……こんなことじゃ、隊長を傷つけてしまうかもしれないのに。
「えっ……と…………ほ、本当に……いや、ではないので……ごめんなさい……」
俯いたままで言う。
そう言えば、前にもこんなことを聞かれたな……触れられるのは嫌かって。
嫌なんかじゃない。
きっと、僕がいつまで経ってもこんな風だからだ。だから、ヴァンフィルイト様を不安にさせている。
「あの…………僕……」
だんだん、申し訳なく思えてきて、言い淀む。隊長も、なんでこんな面倒くさくて鬱陶しい奴を隣に連れてるんだ? もっと隊長にふさわしくて、隊長のお役に立てる人がいるはずなのに。
「え……と…………僕、あの……わ!!」
いきなり、抱き寄せられた。
肩には、隊長の手が回っている。隊長の手は力強くて、肩を抱かれただけで捕まったみたいな気になる。
「あの……」
「何を謝っているんだ? 俺はこうしていられて、デフィトリュウィクが隣にいて、こんなに嬉しいのに」
51
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
捨てられた花屋のオメガは、雨の日に現れたスパダリ社長に溺愛される~抑制剤をやめたら、運命の番に捕まりました~
水凪しおん
BL
花屋『フルール・リリエン』で働くオメガの藍沢湊は、かつて家柄を理由に番(つがい)に捨てられたトラウマから、アルファを頑なに拒絶して生きてきた。
強力な抑制剤でフェロモンを隠し、ひっそりと暮らす湊。しかしある雨の日、店に現れたIT企業社長のアルファ・橘蓮に見初められてしまう。
「この花、あなたに似ている」
毎日店に通い詰め、不器用ながらも真っ直ぐな愛を注ぐ蓮。その深い森のような香りに、湊の閉ざされた心と、抑え込んでいた本能が揺さぶられ始めて――?
傷ついたオメガ×一途で完璧なスパダリ社長。
雨上がりの紫陽花のように涙に濡れた恋が、あたたかな陽だまりに変わるまでの、救済と溺愛のオメガバース。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。
佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】みにくい勇者の子
バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……? 光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。 攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる