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55.しっかりしろ!
しおりを挟むゲキファを連れて、俺はコキーラと一緒に中庭まで来た。
この時間はあまり人がいない場所で、晴れて気持ちがいい風が吹き、美しい花が咲く花壇が並んでいる。
そしてその前に、やけに赤い俺と、ずーーーっと黙ってるゲキファ、狼狽えたままのコキーラが立っている。
周りが静かなだけあって、余計に間が持てない。しかし、照れてる場合じゃない。そもそも、照れる必要もない。だって、俺がさっき言ったことは、全部嘘。口から出まかせの、その場を切り抜けるための言葉なんだから。
「……おい、ゲキファ。勘違いするなよ。俺は……」
「なんで……?」
そう聞いたゲキファは、なぜかひどく眉をひそめていた。その顔を見ているだけで、なぜか俺まで落ち着かなくなる。
「なんで、俺と付き合ってるなんて言ったんだ……? ヴァデスがそんなこと言わなくても、俺がつきまとってるだけだって言っておけば、あいつらは納得しただろ」
「俺を舐めるな」
「……え?」
「あの時、森の中で貴様を巻き込み、結果、貴様は大怪我をして、ああいった必要のない疑いをかけられた。それなのに、ゲキファが俺につきまとっていただけだと、貴様にだけ恥をかかせるようなことを言えと、貴様は俺にそう言うのか? 俺はそこまで恥知らずじゃない」
「ヴァデス……」
「俺と貴様は付き合っていないが、貴様は俺に気がある。だから半分だけは本当だ。貴様には…………か、感謝もしている。貴様が来てくれたおかげで、俺はロフズテルの使い魔に近づけた。ひどく悔しいし、認めたくはないが……俺だけでは、できなかったことだ。それなのに、貴様があんなふうに口汚く罵られることが嫌だった。だからああ言った」
「ヴァデス…………」
「それに、貴様が俺に付き纏っているなどと言えば、また良からぬ推測を生むぞ! 交際していると言った方が、どちらかと言えばマシだろう。愛なんてものは、説明できないものだろうからな。俺はよく知らないが」
「…………」
「とにかく……」
顔を上げたら、ゲキファと目が合う。嘘だったと言っているのに、そいつは微笑んでいた。
そこで、一緒にいたコキーラが、俺たちに恐る恐る声をかけてきた。
「あの……ゲキファ様……?」
「……」
ゲキファ様と、そう呼ばれてゲキファは一瞬、顔を顰めた。そして初めて、コキーラと向き合う。
「……コキーラ。何度も言うようだけど、俺のことをそんなふうに呼ばなくていい。ここでは、学ぶもの同士、対等でいたい。これから先、一緒にあの港町を守るために、お前が俺の後ろについているのは嫌だ」
「……ゲキファ様……」
俺も腕を組んで、コキーラを睨みつけた。
「俺もゲキファをゲキファと呼ぶだろう。あの港町には、さまざまな種族が集まる。それを相手にするのに、貴様がそんな風では、ゲキファも心許ないんじゃないか? 手を取り、意見を交わせる者が必要なはずだ」
「……クソ猫……」
「……クソ猫はやめろ。まあ、貴様らがそうしてギクシャクしたままでいてくれた方が、俺はゲキファと伯爵家をいいようにできる! 好きなだけギクシャクしていろ!」
「ふざけるな!! 貴様の思い通りになんか、させるものか!」
怒鳴るコキーラは、ゲキファに向き直る。
「ゲキファっ…………こ、この猫には……気をつけた方がいいっ!」
「……心配いらない」
そう言って、ゲキファは微笑んで、俺の背後に回る。
「俺はヴァデスを好きだから」
「……おい。何でここでそうなる」
せっかく対等を提案されたコキーラが忠告しているのに、あっさり跳ね除けてベタベタするな!
即、ゲキファから離れるが、それで懲りる男でないことは、既に分かってしまっている。
俺が触れるなと言ったからだろう、ゲキファは俺に手を伸ばしてくることはなかったが、離れようともしない。
「コキーラの忠告は嬉しい。だけど、ヴァデスは俺の好きな人だから、悪く言わないように」
「え……ほ、本当に……そいつが好きなんですか?」
「うん。付き合ってるってのは、ヴァデスの、俺を庇うための嘘だけど、いつかはそうなる予定だから」
勝手なことを言うな。そんな予定を勝手に作るな!! 何でこんな奴と俺が付き合うんだ!!!
即座にそいつから離れるが、ゲキファはそんなこと、ものともしない。
「さっきの続きだけど、本当に、付き合うってことにしちゃ、だめ?」
「だめ!! 絶対!!」
「そっか……残念……だ、な…………」
ゲキファの声が小さくなっていく。その体がぐらりと揺れて、眠いのかと思ったくらいだ。
けれどそいつは、そのまま倒れてしまう。
「ゲキファ……? どうした……?? おいっ……!! ゲキファっ……!!」
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