英雄は明日笑う

うっしー

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第四章 禁断の書

第三十一話 それぞれの想い

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「レスター……。結局……話せなかったな」
 本気でクロレシアの犬になったのか、俺達の関係はもう戻らないのか……。こうなってしまった原因を作ったクロレシアをさらに憎まずにはいられなかった。


「必ず……復讐してやる」
「ヤエまで……道具みたいに……。絶対に許さないよ……」
 俺もナナセもクロレシア城の方を見て、憎しみをたぎらせながら呟いた。結局なにもできなかった自分にも腹が立つ。俺は拳を握り締めて歯噛みした。


「……復讐って、し終わったら心が晴れるの……?」
 突然、タケルがぽそりと呟いた。何事だと俺もナナセもそちらを見る。
「あたし、うっしーが死んじゃったって思ったときね、あそこにいる人たちがすごく憎くて許せないって思ったよ。でもね、あたし多分あの人たちみんな殺しちゃってもきっとスッキリしなかったと思うんだ。だってうっしーが生き返って戻ってくるわけじゃないもん」
 そこで一旦言葉を切り、こちらを見上げてくる。何故かドキリとした。


「うっしーは嬉しい? もし自分が死んじゃってたとしてさ、あたしがあいつらみんな殺しちゃったら嬉しい?」
 そう聞かれればタケルが俺のために怒って憎んで復讐している状況を想像して、答えはすぐに出た。
「微妙だな……」
「でしょ!? そんな事するぐらいなら、あいつらが酷いこと出来ないようにする方がよっぽど有意義だよねって思ったんだ! だからー」


 ビシッといきなり眉間に指を突き付けられた。そのままぐりぐりと左右に捩じられる。ちょっと……痛ぇんだけど……。
「せっかくの顔が台無しだよ!! そんな顔してたらみんなつられちゃうんだから!」
 タケルの言葉につい左右を見渡して、全員しかめっ面してるのを確認して吹いた。なんでテンや桔梗までそんな辛そうな顔してるんだよ。つい声をあげて笑ってしまった。


「そうだな。殺すんじゃなくて、あいつらが悪さできないような世の中にすればいいんだよな。そうすればレスターだってもしかしたら……」
 許してくれるかもしれない……。
 俺は離れて行くクロレシアの……、城ではなく大地の方を見た。木々は枯れ腐敗して灰色に近くなっている大地。それはどんどん進行しているのか、クロレシア城のすぐそこまで迫ってきていた。
 全ての原因を作ったのはクロレシアじゃない。そうだ、俺には復讐なんかじゃなくてやるべきことがあったんだ。


「あははははっ!」
 急にナナセが声をあげて笑い出した。何事かと全員が注目する。
「ご、ごめん。タケルの言う通りだと思って。復讐なんかしたってヤエが幸せになるわけじゃない。なんだか気分が一気に晴れたよ。うっしー、もちろん約束は継続してくれるんだよね?」
「ああ」
 ヤエ救出の手助けの事だとすぐわかったから即答する。ナナセは満足そうにうなずいた。
「それじゃぁ……」


 一瞬の沈黙の後、いきなりナナセが奇声を発する。あの財布でも落としたような声だ。
「ああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!!!! フレス!! 会いたかったよぉぉぉ! フレスゥゥゥ~~~~~!!!!! 相変わらずキミの毛並みはっ……はぅぅ~ん!」
「………………」
 もう何も言うまい。久しぶりの再会なんだから仕方ねーよな……。頬ずりどころか全身で泳ぎ出しそうなほどスリスリなでなでしている姿は……見ないふりだ。それがあいつの為だろう。


「ナナセ……気でも狂ったか……」
 初見だったんだろう、桔梗が目を真ん丸にしてナナセを見ていた。そこにテンがスキップでもしそうな勢いで近づいていく。何だ、と俺が思う間もなくテンは桔梗の前に来ると唇を尖らせて嬉しそうに笑った。
「ぼく頑張ったよ! ご褒美ちょうだい、おねぃさん~」
「ああ、そうだったな。ほら」
 そのまま桔梗はとんがったテンの口に菓子を押しつける。途端にテンがガッカリした表情になった。


「どーゆーことさ!? ちゅーはぁ!?」
「お前にやる褒美がちゅーとは一言も言ってないぞ。よく頑張ったな、テン」
「えええええーーーーーー!!!!」
 なにやってんだ、アイツら……。良く分からずに見ていたら俺の真横に頬を赤らめて先程のテンと同じ顔をしたタケルが迫ってきていた。
「うっしぃー。あたしもご褒美ぃー」
「はあぁ!?」


 俺の膝の上に乗りかかってくるタケルの額を手のひらで押し返しつつ慌てて俺は桔梗に問いかけた。
「どういうことだ、これは!?」
「ああ……先ほどの戦いでな、頑張ったらお前からちゅーのご褒美が貰えるぞ、と言ったんだ。士気を高めておかなければあのコタロウ相手ではすぐに殺られていただろうからな。仕方がないだろう?」
「だからって勝手にっ……!!」
 迫りくるタケルを押し戻しながらも、桔梗を恨むことはできなかった。その通りだって思ったからさ。
 俺は諦めさせようとタケルを押し返したまま叫んだ。



「分かった! じゃぁ、やるべきことが全部終わったらな!! そうしたらくれてやってもいい!!」
「ホント!?」
 俺の上に乗りかかったままでタケルが嬉しそうに笑う。俺も釣られて苦笑した。全てが終わったら……か。
「俺も、もっと力をつけないとな……」
 復讐じゃなく、腐敗した大地を戻すために……。覚悟も新たに、すでに見えなくなりつつあるクロレシアの大地を見つめた。



「うっしー。ごめん、もう、限界……」
 先程までフレスヴェルグにスリスリなでなでしていたナナセが、いきなりそうぼやいた途端真下にあったふさふさの羽毛と周囲に展開されていたらしい魔法の膜が突如消えた。おかげで一気に冷気が押し寄せてきたかと思えば、俺達五人まとめて落下を始める。
「ナナセェ!! 魔力切れならもっと早く言えぇぇ!!!!」
「わああぁぁっ!!」
 再び死の恐怖かと思ったけど真下は海じゃなくて地面だったし、激突する直前に桔梗が風の魔法でクッションを作ってくれたおかげで全員無事、とまではいかないまでも着地した。無事じゃないのは俺だけだけどな。


「うっしー、だいじょぶ?」
「どうでもいいから、早くナナセをどけろ……」
 何故か俺の真上に気絶してたナナセが降ってきたんだよ!! おかげで鼻から地面に激突したんだ。桔梗の奴、絶対俺をおもちゃとしか思ってねーだろ。テンもヒトの赤い鼻見てイシシと変な笑い漏らしてやがるし。文句を言おうと立ち上がったら桔梗の奴は話題を逸らしやがった。



「ここは……クロレシアの南東に位置する無人島か……」
 桔梗の言葉に辺りに生えていた木々がざわめく。そういえば、クロレシア王都にいる間は木々の声も聞こえて来なかったよな……。それだけあそこの木たちが弱っているんだ。桔梗も俺も木々の声に耳を傾けた。
 木々によるとここは無人島とはいえ狩りや漁に来るための船は出ているらしい。船……。それしか移動手段がないなら仕方ないが、と俺は苦笑した。

 ちなみに船はシフォン大陸、という所から来ているらしい。それを聞いた途端、桔梗がビクリと反応を示した。何かあるんだろうかと問いかけてみると、いきなり俺の両肩を鷲掴まれる。
「契約実行の時だ!! うっしー、私の故郷を救ってくれ!!」
 ものすごい勢いで迫ってくる桔梗に俺もたじたじだ。いったい何があったのか……、桔梗の事だから聞いても答えてはくれないんだろうが……。


 それでも約束だし、こんなに必死な桔梗を放っておくわけにもいかず、了解の返事を返すために口を開こうとした。が、いきなり真横から轟音が響き渡る。その音で目を覚ましたのかナナセが飛び上がった。
「何!? 魔物!? 戦争!?」
「ごっめ~ん。あたしのお腹」
 後頭部をぽりぽり掻きながら恥ずかしそうにタケルがそう言う。こいつの腹は相変わらずこんな音で鳴るのか、恐ろしい……。ナナセがきょとんとした後恥ずかしそうに、かわいい音だねって言ってたが、アイツは間違いなく難聴だ。


 とにもかくにも、この話題はしゃしゃり出てきたテンによって終了した。
「はい、はーい! ぼくおねぃさんの作った料理が食べたい!!」
「私の?」
「うん!! おねぃさんとタケルが作ってくれたらぼく何でも食べちゃう~❤」
 そのままテンは食材集めに行くと駆け出した。出来ればタケルには料理に関わってほしくないと思ったのは俺だけか。

「木々の話によると船は明日の朝にしか来ないらしいからな。今日はどこか寝る場所を探そう。」
 そのまま俺達は寝られそうな場所を探して移動した。



「俺も食材と、……テン探しに行ってくるわ」
 野営場所を決めて鍋代わりのものを見つけた後、それだけ言って回れ右をした。
「タケル、僕らも二人でっ……」
「うっしー! あたしも行くぅ!!」
 俺の元にタケルが近づいて来ようとしたが、こんな所でまでつき纏われてたまるかと、何故だかがっくりしていたナナセに疫病神を押しつけて俺は急ぎ足でその場を離れた。


 食材を集めて桔梗の元へと運ぶのと、まだ野営場所を知らないテンを探すことを俺はしばらく繰り返した。ある程度食材を届けてからは本格的にテン探しだ。俺よく考えたらアイツの事まだほとんど知らないんだよな。禁書の精霊だってこと、女好きだってこと、それ以外は何も……。
 日はかなり傾いてきている。今日一日が濃すぎて、もう一年ぐらい経った気分だ。海沿いの木々の隙間に……オレンジに反射した光の中に、テンの金色の髪が見えた気がして、俺はそちらに近づいた。





「なんだ、お前かよ……」
 お山座りでぼーっとしていたテンは、俺が近づいたことに気が付いたんだろう、慌てて懐に何かをしまいこちらをちらりと見た後、視線を戻してそれだけを言う。
 女の子達に対する口調とは全く違ってて俺は苦笑した。
「悪かったな、俺で」
「ホント、最悪……」
 そのままテンは自身の膝に顔をうずめた。いつもと違う様子のテンに俺は首をかしげながらも隣に腰を下ろす。拒まれるかと思ったけど、テンは微動だにしなかった。
「食材探してたんじゃなかったのかよ? おまえ」
 どう見ても何も持っていないテンに呆れ顔でそう問いかける。テンは膝に顔を埋めたままくぐもった声で答えた。



「お前みたいなバカと違ってぼくには色々考えることがあるんだよ」
「……どうせ俺はバカだよ」
 改めて言われると腹立たしいが、間違ってないからそれだけを言い返す。テンがか細い声で呟いた。
「……んで、お前みたいなバカ……心配しなきゃ……んねーんだよ……」
 一瞬、耳を疑った。心配? テンが? 俺の事心配してくれたって? あの、女にしか媚びないテンが?


「ははっ……」
「何笑ってんだよボケ!!」
 怒りのままに立ち上がったテンと目が合ってさらに笑いが込み上げてきた。強気に口元を歪めて余計に笑ってやる。
「バカは死なないってよく言うだろ?」
「テメーはとっとと死ね!!」
 そのまま背中を横に置いてあったはずの分厚い禁書で叩かれた。角で背骨を抉られ、痛みで悶える。その間にテンが早足で歩き出した。


「死ぬときは……ぼくに分からないようにしろよな!!」
「それ無理だろ……」
 言いながらもなぜか嬉しくて、俺はテンを追いかけた。


 野営場所に戻ってきたのはちょうど日が沈んでからだ。ナナセも船着き場を見に行っていたらしく、ちょうど戻ってきたタイミングだった。桔梗とタケルが俺達三人を笑顔で迎え入れてくれる。
「ちょうど出来たところだ。さぁ、食べてくれ」
「二人は食べないのか?」
 俺は近くにあった切り株に腰かけつつ桔梗とタケルに問いかけた。
「私たちは料理する前に食材をつまんでしまってな。もうかなりお腹いっぱいなんだ。お前たち、先に食べててくれ」


 桔梗から器を受け取り、俺は鍋の中を覗き込んだ。
「うわっ……」
 鍋の中は本当にすごかった。つい声が漏れてしまうほどに。それはそれは見事な……。


「闇…………」
「…………鍋……」


 俺とナナセが同時に呟く。
 混沌とした黒いどろりとした液体に蛍光の黄色が混ざり合っている。いったいどんな食材で調理したらこんな色が作り出せるのかというほどに恐ろしい色合いだ。呆然としていた俺から器を取り、タケルがその中に鍋の中の怪しい液体を注いでくれた。


「はい! うっしー」
 そ、そうだ、見た目はこんなでも味はうまいかもしれないよな!? 俺は勇気を出して鼻を衝く刺激臭を吸わないようにして一口含んだ。
「うおええぇぇ……」
 口に広がる酷い味にたまらず吐き出す。いや、無理だって! これは人間の食すもんじゃねぇ!! というか生物せいぶつの食すもんじゃねぇ。俺の反応を見たタケルが首をかしげて今度はナナセに恐ろしい液体を差し出した。ナナセ、やめておけ。真剣にそう思って見つめていたが、タケルの笑顔にやられたのかナナセがそれを口に含んだ。って、あいつ飲んだぁ!? 直後直立したままバタリと後ろに倒れた。永眠じゃない事を願うばかりだ。そして俺はテンを見る。


「桔梗とタケルの作ったもんなら何でも食べるんだったよな……?」
 恐る恐るそう聞いてみる。テンがから笑いを漏らした。
「いっぱい食べろよ、テン」
 にっこり微笑む桔梗にテンは泣きながら鍋を覗き込む。俺はテンの肩を叩いて励ましの言葉をかけた。
「俺より先に死ぬなよ、テン」


「あ、あは、アハハ……、うえ~ん、あはは、うぇっ! うう~。あははははー!」
 その日は朝まで泣き笑いの声が響いていた……。
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