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5. 欲求
慮外の協力者
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「……厳しいわね」
光弾が目の前で消えるのを見た私は、防御魔法を破棄しながら呟いた。
半球状の障壁魔法の端に立って魔術式を形成していたユートが手を下ろす。魔力の供給がなくなった魔術式は、すぐに空気へと溶けていった。
「中等部の試験なら、ギリギリ合格できたかもしれないけどね……」
「やっぱり、高等部の試験は難しいですよね……」
「そうなのか。困ったな……」
難しい顔をするシイキとフルルの会話に、到着したユートが交ざる。彼の場合、この程度の距離なら魔法を使うより自分から近づいた方が早いようだ。
遠くにいる魔物をいち早く攻撃するという目的を達成するだけなら、ユートもそれなりの成績を残せるだろう。しかし試験で評価されるのはあくまで、魔法のみを用いた遠距離攻撃の性能だ。初めて会ったときからは多少大きくなったとはいえ、未だに魔術式の小さなユートにとって、合格は絶望的だった。
「そうだ! 防御魔法をちょっと変えて、ボールみたいにしたらどう? それを投げて的に当てれば!」
「残念だけど、肉体を利用しているという理由で評価対象外になるわ」
「でも、どうしてダメなんでしょう? 遠くにいる魔物を攻撃することはできますよね?」
「あくまで魔法学院だから、というのもあるでしょうけど、一番の理由は連携がしにくいからかしらね。例えば武器を持っている人たちが隊列を組む際、槍で戦う人の中に剣で戦う人が混じってたら扱いに困るでしょう? 魔導士でもそれは同じで、攻撃手段の基礎から違うというのは良くないのよ」
「あー、そっか。投石ができても、どのくらいの実力か判断つかないもんね」
そう。シイキの言う通り、投擲という攻撃手段は魔導士にとって未知のものだ。魔法であればある程度、どのような動きをするのか、どういった働きが期待できるかは推し量れるが、それ以外の手段は正確な実力が判断できない。たとえ魔法と遜色ない働きができたとしても、他の魔導士に信頼されない以上、魔導士としての実力としては見なされないのだ。
未来の魔導士を育て上げる機関が、魔導士にとって大切な連携する能力を軽んじるような採決を下すことはない。実戦形式の試合でならともかく、試験において投擲による攻撃が認められることはまずありえないだろう。
「……試験内容は一通り確認したし、今から二対二に分かれるわ。フルルとシイキは、お互い苦手な部分を教え合って。ユートは私と練習しましょう」
「う、うん」
「はい……」
「分かった」
実技試験の心配がない二人は、大半の試験で合格基準に届かなかったユートを気にしつつも離れていく。私は心境を顔に出さないよう努めながら、ユートを連れて移動した。
せめて一ヶ月、いえ、二週間あれば。……なんて、仮定の話をしても仕方ないわね。残された時間は、今日も含めて四日、筆記試験の実施日も加えれば六日間ある。その中で最大限、できることをしないと……。
「ごめんな、シルファ」
振り返ったところで、ユートが謝罪を口にする。私は自分の髪を払った。
「謝る必要は無いわ。何度も言っているでしょう? 私たちはチームなの。助け合うのは当然なのよ。あなただってシイキやフルルの練習には惜しみなく協力しているじゃない」
「それは俺が力になれると思ったからだ。二人とも魔力の使い方さえ覚えれば伸びるって期待して、実際その通りになった。だけど、俺は……」
「これ以上、強くなれないと?」
「そうじゃない! ただ……いくらシルファでも、魔力放出量を増やす方法は知らないだろ? だから多分、折角協力してくれているのに、期待には応えられないだろうって思って……いや、悪い、結果が出てないのにこんなこと言うべきじゃないよな。ごめん」
苦笑するユートに、私は少なからず動揺した。いつも前向きな彼がまさか、こんな弱音を吐くなんて。
しかし一方で、その意見はもっともだとも思った。魔力の操作とは違い、放出量の問題は技術でどうこうできるものではない。身長が突然伸びたりしないのと同じで、ゆっくりとしか増えないのだ。そして、限界もある。
彼も当然そのことを理解している。私なんかよりも余程、身に沁みているに違いない。だからこそ出た弱音だとも捉えられた。
こればかりはどうしようもない。そんな彼の絶望を垣間見た私は、覚悟を決める。
「……やる前から諦めるのは良くないけど、あなたの気持ちも理解できるわ。これまで伸び悩んできた魔力放出量が、残り一週間足らずで劇的に成長するというのは、まず起こり得ないもの」
「……だよな。ならやっぱり、シルファに付き合わせるわけには」
「なら、別の手段を取ればいい」
私が被せた言葉に、ユートは目を大きくする。
「別の手段……? そんなものがあるのか?」
「あるわ」
きっぱりと断言した。断言してしまった。もう後には引けない。
「残りの時間を全て使って、私が――」
その時、ふと視界の端に映るシイキたちが気になった。二人は障壁魔法の外を見ていて――
「なっ」
半透明の壁の向こうに、四人の男女がいた。こちらを見ている彼らの姿は、忘れもしない。
「ライト先輩?」
私の視線を追ったユートがその名を呼ぶ。大きな鞄を肩にかけたライト先輩は笑って手を振っていた。
……障壁魔法越しでも話せはするけど、ここは直接聞くのが無難かしらね。
私が障壁魔法の中心にある、スイカ大の半球状の石、魔法石に向かうと、意図を察したシイキがフルルを連れてやってくる。魔法を消すと、先輩方が近づいてきた。
「やぁ! また会えたね」
「そりゃ会えるだろ。同じ学院にいるんだから」
「それより先に言うことがあるでしょっ。ごめんね、みんな。練習を中断させちゃって」
「ん……誰?」
「こんにちは。私たちに何かご用でしょうか?」
挨拶もそこそこに本題を尋ねる。するとライト先輩は、満面の笑みを浮かべて答えた。
「僕たちと試合してくれない?」
「試合、ですか?」
予想していた答えだったが、やはり疑問が浮かんだ。どうして私たちと? 本戦に出場したとは言え、私たちより強いチームは他にもいるのに。
「そう。ほら、僕たちって強いからさ、中々試合してくれるチームがいないんだよね」
私の疑問に答えるように、ライト先輩が言葉を続ける。困ったように笑う先輩からは、全く嫌味が伝わってこない。
「私たちに相手が務まるとは思えませんが」
「うん。だから僕たちは一人ずつ相手するよ。一対四なら試合になりそうでしょ?」
ライト先輩は、名案だとでも言いたげにそう提案する。なめている、わけではないのだろう。私自身、それならいい勝負ができそうだと思った。
思ってしまって、悔しくなる。
「魅力的な提案ですが、お断りします」
私は深く頭を下げて固辞の意を示した。悔しかったからじゃない。ライト先輩たちとの試合、それも四対一という形ならこちらからお願いしたいくらいだ。学院トップの実力を間近で見る機会なんて、そうはない。
しかし今はそれよりも優先することがある。
「私たちは今、来週の試験に向けた練習をしています。試合という形式では練習になりませんので」
「本戦出場者が魔法の試験対策? 今の一年の試験ってそんなにレベルが高いのか?」
「あ、でもそっか。ユートくんには厳しいかもね」
「そういうことです」
頭を上げた私はフローラ先輩の言葉に頷く。
「え? どうして?」
しかしライト先輩は、心から不思議そうに目を丸くした。
「どうしてって、ユートくんは小さな魔術式しか作れないからよ。ライトも知ってるでしょ」
「それは知ってるけどさ、でも」
そこまで言って、口が笑みの形をとる。
「じゃあこうしよう。僕たちと試合をしてくれたら、解決策を教えてあげるよ」
「本当ですか!?」
強く反応したのはユートだった。ライト先輩は大きく頷く。フローラ先輩は複雑そうな表情を浮かべた。
「勿論。それと魔法の指導もしてあげる。今から一週間、放課後から門限ちょっと前まで」
「えええっ!?」
続く言葉に、ユートを除く三人の声が重なった。シイキが震える声で尋ねる。
「い、いいんですか?」
「うん。元々試合をしてくれたらお礼としてそのくらいはしないとって話してたんだ。ね、みんな」
「土日は休み……」
「あ、そうだった。土日は無しで」
ステラ先輩の指摘に照れ笑いを浮かべて訂正するライト先輩。しかしそれ以上の訂正はなかった。フローラ先輩はどこか複雑そうな表情をしているけれど何も言わないし、ウォレス先輩は何かを思い出したかのようにうんうんと頷いている。
「今から一週間って……そんなに予約ができるんですか?」
「あ、魔法競技場は使わないよ。僕たちは専用の障壁魔法石を持ってるからね。いつでも学院の敷地内で練習できるんだ」
フルルの質問に対する答えに頷く。成績優秀者に貸与されるという障壁魔法石を、チーム・ライトが持っていないはずがない。明日以降、魔法競技場の予約が確保できていない現状を鑑みれば、ライト先輩の提案は渡りに船と言えた。
「……試合というのは、先輩方がお一人ずつ私たち四人と戦うという認識でよろしいですか?」
「うん、合ってるよ」
「四試合を行うことで、向こう一週間指導までしていただけると」
「その通り。あ、でも一週間後にまた試合してほしいかも」
「………………」
実技試験は丁度一週間後に終わる。ライト先輩たちとの試合はその後であることを考えれば、今四試合することでこの先一週間、正確には五日間の練習環境を確保できることになる。指導だって、こんな機会でもなければまず受けることなんてできない。
断る理由は、なかった。
「先程の発言は撤回します。是非、お願いします」
私の言葉に続き、ユートたちも声を上げた。頭を下げるユートとシイキに合わせて、私とフルルもお辞儀をする。
「ありがとう! 快諾してくれて嬉しいよ」
「じゃあ早速しようぜ! 最初俺な」
「ウォレス、少しくらい時間をとらせてあげなさい」
「……立つの疲れた」
「ステラ! 障壁がないのに魔法を使おうとしない!」
「むー」
「僕は後でもいいから、ウォレスが一番でいいよ」
「よっしゃ! ありがとな。暴れたくてウズウズしてんだ」
……最初はウォレス先輩か。相手が決まったところで、私はチームメンバーの顔を見る。そこには緊張に強張りつつも、確かな自信が滲む表情があった。
復習の必要は、なさそうね。
「プランAよ」
三人が頷く。確認はそれで十分だった。
「お待たせしました。こちらはいつでも大丈夫です」
「お、話が早くていいじゃん! そんじゃ配置につくぞ」
言うが早いか、ウォレス先輩は駆け足で離れていく。ライト先輩は鞄を地面に置くと、中から障壁魔法石を取り出した。
「障壁魔法なら、私が」
「いやいや、今まで練習していてこれから四連戦する君たちに、負担をかけさせるわけにはいかないよ」
「……ありがとうございます」
「ところで、本当にもういいの? 打ち合わせとか、しなくて大丈夫?」
「その点は大丈夫です」
フローラ先輩の言葉に対し、口で笑みを作る。
「先輩方の戦い方やその対策については、何度も話し合いましたから」
「……そう。それなら良かったわ」
フローラ先輩が私と同じ笑みを浮かべたところで、障壁魔法が発現した。不意にステラ先輩が魔術式を形成する。
「やっと横になれる……」
淡い光に包まれたステラ先輩の体が宙に浮く。飛翔魔法らしい。私は隣にいるユートの目元に手を添えた。……スパッツを穿いているのね。
「ステラ! もう、はしたないんだから……」
「シルファ? 何も見えないんだが」
「今はそれでいいわ。さ、私たちも位置に着くわよ」
「は、はい」
「えっと、先輩たちは三人とも、審判をしてくださるんですか?」
「うん。危ないなって思ったら魔法で止めるから、気兼ねなく戦ってね」
ウォレス先輩を心配してるのか、私たちを心配してるのか。どちらともとれる発言に、シイキは曖昧に笑って離れた。シイキもまた、人数で勝っていても不安があるようだ。
「しかし四対一か。初めてだな、こういうの」
「そうね。チーム・ライトのメンバーでもないと、こんな無謀なことできないもの」
「で、でも、いくら先輩たちが相手でも、一人なら!」
「どうかな……。向こうも勝算があるから提案したんだろうし」
シイキの言う通りだ。一対四でも勝てる見込みがあるからこそ、破格の条件を提示してまで試合を申し込んだに違いない。
それだけの自信と、その裏付けとなる実力を持つ相手だ。たとえ四対一でも、勝てるかどうかは――
「いや、勝てるだろ」
あっさりと、ユートは断言した。勝てるかも、ではなく、勝てると。当たり前のように言うユートに、私も少なからず驚く。
「ど、どうしてですか?」
「対抗戦を見て、ウォレス先輩の実力は大体見れたからな。使う魔法も共有できてるし、俺たち四人なら勝てる相手だ」
「勝てる相手、か……。流石だね、ユート君」
「……ユートの言う通りね。勿論油断はできないけど、今の私たちなら勝てるわ」
ユートに同調し、二人に、そして自分に言い聞かせるように告げる。
そうよ。一人じゃ手も足も出なかったけど、四人なら勝てる。勝てないわけがない。
「グリマール魔法学院のチーム対抗戦、その本戦に出場した私たちの実力が、同じ学生一人に劣るだなんてことあってはならないわ。……勝つわよ」
静かな決意の言葉に、強い声が返ってきた。
光弾が目の前で消えるのを見た私は、防御魔法を破棄しながら呟いた。
半球状の障壁魔法の端に立って魔術式を形成していたユートが手を下ろす。魔力の供給がなくなった魔術式は、すぐに空気へと溶けていった。
「中等部の試験なら、ギリギリ合格できたかもしれないけどね……」
「やっぱり、高等部の試験は難しいですよね……」
「そうなのか。困ったな……」
難しい顔をするシイキとフルルの会話に、到着したユートが交ざる。彼の場合、この程度の距離なら魔法を使うより自分から近づいた方が早いようだ。
遠くにいる魔物をいち早く攻撃するという目的を達成するだけなら、ユートもそれなりの成績を残せるだろう。しかし試験で評価されるのはあくまで、魔法のみを用いた遠距離攻撃の性能だ。初めて会ったときからは多少大きくなったとはいえ、未だに魔術式の小さなユートにとって、合格は絶望的だった。
「そうだ! 防御魔法をちょっと変えて、ボールみたいにしたらどう? それを投げて的に当てれば!」
「残念だけど、肉体を利用しているという理由で評価対象外になるわ」
「でも、どうしてダメなんでしょう? 遠くにいる魔物を攻撃することはできますよね?」
「あくまで魔法学院だから、というのもあるでしょうけど、一番の理由は連携がしにくいからかしらね。例えば武器を持っている人たちが隊列を組む際、槍で戦う人の中に剣で戦う人が混じってたら扱いに困るでしょう? 魔導士でもそれは同じで、攻撃手段の基礎から違うというのは良くないのよ」
「あー、そっか。投石ができても、どのくらいの実力か判断つかないもんね」
そう。シイキの言う通り、投擲という攻撃手段は魔導士にとって未知のものだ。魔法であればある程度、どのような動きをするのか、どういった働きが期待できるかは推し量れるが、それ以外の手段は正確な実力が判断できない。たとえ魔法と遜色ない働きができたとしても、他の魔導士に信頼されない以上、魔導士としての実力としては見なされないのだ。
未来の魔導士を育て上げる機関が、魔導士にとって大切な連携する能力を軽んじるような採決を下すことはない。実戦形式の試合でならともかく、試験において投擲による攻撃が認められることはまずありえないだろう。
「……試験内容は一通り確認したし、今から二対二に分かれるわ。フルルとシイキは、お互い苦手な部分を教え合って。ユートは私と練習しましょう」
「う、うん」
「はい……」
「分かった」
実技試験の心配がない二人は、大半の試験で合格基準に届かなかったユートを気にしつつも離れていく。私は心境を顔に出さないよう努めながら、ユートを連れて移動した。
せめて一ヶ月、いえ、二週間あれば。……なんて、仮定の話をしても仕方ないわね。残された時間は、今日も含めて四日、筆記試験の実施日も加えれば六日間ある。その中で最大限、できることをしないと……。
「ごめんな、シルファ」
振り返ったところで、ユートが謝罪を口にする。私は自分の髪を払った。
「謝る必要は無いわ。何度も言っているでしょう? 私たちはチームなの。助け合うのは当然なのよ。あなただってシイキやフルルの練習には惜しみなく協力しているじゃない」
「それは俺が力になれると思ったからだ。二人とも魔力の使い方さえ覚えれば伸びるって期待して、実際その通りになった。だけど、俺は……」
「これ以上、強くなれないと?」
「そうじゃない! ただ……いくらシルファでも、魔力放出量を増やす方法は知らないだろ? だから多分、折角協力してくれているのに、期待には応えられないだろうって思って……いや、悪い、結果が出てないのにこんなこと言うべきじゃないよな。ごめん」
苦笑するユートに、私は少なからず動揺した。いつも前向きな彼がまさか、こんな弱音を吐くなんて。
しかし一方で、その意見はもっともだとも思った。魔力の操作とは違い、放出量の問題は技術でどうこうできるものではない。身長が突然伸びたりしないのと同じで、ゆっくりとしか増えないのだ。そして、限界もある。
彼も当然そのことを理解している。私なんかよりも余程、身に沁みているに違いない。だからこそ出た弱音だとも捉えられた。
こればかりはどうしようもない。そんな彼の絶望を垣間見た私は、覚悟を決める。
「……やる前から諦めるのは良くないけど、あなたの気持ちも理解できるわ。これまで伸び悩んできた魔力放出量が、残り一週間足らずで劇的に成長するというのは、まず起こり得ないもの」
「……だよな。ならやっぱり、シルファに付き合わせるわけには」
「なら、別の手段を取ればいい」
私が被せた言葉に、ユートは目を大きくする。
「別の手段……? そんなものがあるのか?」
「あるわ」
きっぱりと断言した。断言してしまった。もう後には引けない。
「残りの時間を全て使って、私が――」
その時、ふと視界の端に映るシイキたちが気になった。二人は障壁魔法の外を見ていて――
「なっ」
半透明の壁の向こうに、四人の男女がいた。こちらを見ている彼らの姿は、忘れもしない。
「ライト先輩?」
私の視線を追ったユートがその名を呼ぶ。大きな鞄を肩にかけたライト先輩は笑って手を振っていた。
……障壁魔法越しでも話せはするけど、ここは直接聞くのが無難かしらね。
私が障壁魔法の中心にある、スイカ大の半球状の石、魔法石に向かうと、意図を察したシイキがフルルを連れてやってくる。魔法を消すと、先輩方が近づいてきた。
「やぁ! また会えたね」
「そりゃ会えるだろ。同じ学院にいるんだから」
「それより先に言うことがあるでしょっ。ごめんね、みんな。練習を中断させちゃって」
「ん……誰?」
「こんにちは。私たちに何かご用でしょうか?」
挨拶もそこそこに本題を尋ねる。するとライト先輩は、満面の笑みを浮かべて答えた。
「僕たちと試合してくれない?」
「試合、ですか?」
予想していた答えだったが、やはり疑問が浮かんだ。どうして私たちと? 本戦に出場したとは言え、私たちより強いチームは他にもいるのに。
「そう。ほら、僕たちって強いからさ、中々試合してくれるチームがいないんだよね」
私の疑問に答えるように、ライト先輩が言葉を続ける。困ったように笑う先輩からは、全く嫌味が伝わってこない。
「私たちに相手が務まるとは思えませんが」
「うん。だから僕たちは一人ずつ相手するよ。一対四なら試合になりそうでしょ?」
ライト先輩は、名案だとでも言いたげにそう提案する。なめている、わけではないのだろう。私自身、それならいい勝負ができそうだと思った。
思ってしまって、悔しくなる。
「魅力的な提案ですが、お断りします」
私は深く頭を下げて固辞の意を示した。悔しかったからじゃない。ライト先輩たちとの試合、それも四対一という形ならこちらからお願いしたいくらいだ。学院トップの実力を間近で見る機会なんて、そうはない。
しかし今はそれよりも優先することがある。
「私たちは今、来週の試験に向けた練習をしています。試合という形式では練習になりませんので」
「本戦出場者が魔法の試験対策? 今の一年の試験ってそんなにレベルが高いのか?」
「あ、でもそっか。ユートくんには厳しいかもね」
「そういうことです」
頭を上げた私はフローラ先輩の言葉に頷く。
「え? どうして?」
しかしライト先輩は、心から不思議そうに目を丸くした。
「どうしてって、ユートくんは小さな魔術式しか作れないからよ。ライトも知ってるでしょ」
「それは知ってるけどさ、でも」
そこまで言って、口が笑みの形をとる。
「じゃあこうしよう。僕たちと試合をしてくれたら、解決策を教えてあげるよ」
「本当ですか!?」
強く反応したのはユートだった。ライト先輩は大きく頷く。フローラ先輩は複雑そうな表情を浮かべた。
「勿論。それと魔法の指導もしてあげる。今から一週間、放課後から門限ちょっと前まで」
「えええっ!?」
続く言葉に、ユートを除く三人の声が重なった。シイキが震える声で尋ねる。
「い、いいんですか?」
「うん。元々試合をしてくれたらお礼としてそのくらいはしないとって話してたんだ。ね、みんな」
「土日は休み……」
「あ、そうだった。土日は無しで」
ステラ先輩の指摘に照れ笑いを浮かべて訂正するライト先輩。しかしそれ以上の訂正はなかった。フローラ先輩はどこか複雑そうな表情をしているけれど何も言わないし、ウォレス先輩は何かを思い出したかのようにうんうんと頷いている。
「今から一週間って……そんなに予約ができるんですか?」
「あ、魔法競技場は使わないよ。僕たちは専用の障壁魔法石を持ってるからね。いつでも学院の敷地内で練習できるんだ」
フルルの質問に対する答えに頷く。成績優秀者に貸与されるという障壁魔法石を、チーム・ライトが持っていないはずがない。明日以降、魔法競技場の予約が確保できていない現状を鑑みれば、ライト先輩の提案は渡りに船と言えた。
「……試合というのは、先輩方がお一人ずつ私たち四人と戦うという認識でよろしいですか?」
「うん、合ってるよ」
「四試合を行うことで、向こう一週間指導までしていただけると」
「その通り。あ、でも一週間後にまた試合してほしいかも」
「………………」
実技試験は丁度一週間後に終わる。ライト先輩たちとの試合はその後であることを考えれば、今四試合することでこの先一週間、正確には五日間の練習環境を確保できることになる。指導だって、こんな機会でもなければまず受けることなんてできない。
断る理由は、なかった。
「先程の発言は撤回します。是非、お願いします」
私の言葉に続き、ユートたちも声を上げた。頭を下げるユートとシイキに合わせて、私とフルルもお辞儀をする。
「ありがとう! 快諾してくれて嬉しいよ」
「じゃあ早速しようぜ! 最初俺な」
「ウォレス、少しくらい時間をとらせてあげなさい」
「……立つの疲れた」
「ステラ! 障壁がないのに魔法を使おうとしない!」
「むー」
「僕は後でもいいから、ウォレスが一番でいいよ」
「よっしゃ! ありがとな。暴れたくてウズウズしてんだ」
……最初はウォレス先輩か。相手が決まったところで、私はチームメンバーの顔を見る。そこには緊張に強張りつつも、確かな自信が滲む表情があった。
復習の必要は、なさそうね。
「プランAよ」
三人が頷く。確認はそれで十分だった。
「お待たせしました。こちらはいつでも大丈夫です」
「お、話が早くていいじゃん! そんじゃ配置につくぞ」
言うが早いか、ウォレス先輩は駆け足で離れていく。ライト先輩は鞄を地面に置くと、中から障壁魔法石を取り出した。
「障壁魔法なら、私が」
「いやいや、今まで練習していてこれから四連戦する君たちに、負担をかけさせるわけにはいかないよ」
「……ありがとうございます」
「ところで、本当にもういいの? 打ち合わせとか、しなくて大丈夫?」
「その点は大丈夫です」
フローラ先輩の言葉に対し、口で笑みを作る。
「先輩方の戦い方やその対策については、何度も話し合いましたから」
「……そう。それなら良かったわ」
フローラ先輩が私と同じ笑みを浮かべたところで、障壁魔法が発現した。不意にステラ先輩が魔術式を形成する。
「やっと横になれる……」
淡い光に包まれたステラ先輩の体が宙に浮く。飛翔魔法らしい。私は隣にいるユートの目元に手を添えた。……スパッツを穿いているのね。
「ステラ! もう、はしたないんだから……」
「シルファ? 何も見えないんだが」
「今はそれでいいわ。さ、私たちも位置に着くわよ」
「は、はい」
「えっと、先輩たちは三人とも、審判をしてくださるんですか?」
「うん。危ないなって思ったら魔法で止めるから、気兼ねなく戦ってね」
ウォレス先輩を心配してるのか、私たちを心配してるのか。どちらともとれる発言に、シイキは曖昧に笑って離れた。シイキもまた、人数で勝っていても不安があるようだ。
「しかし四対一か。初めてだな、こういうの」
「そうね。チーム・ライトのメンバーでもないと、こんな無謀なことできないもの」
「で、でも、いくら先輩たちが相手でも、一人なら!」
「どうかな……。向こうも勝算があるから提案したんだろうし」
シイキの言う通りだ。一対四でも勝てる見込みがあるからこそ、破格の条件を提示してまで試合を申し込んだに違いない。
それだけの自信と、その裏付けとなる実力を持つ相手だ。たとえ四対一でも、勝てるかどうかは――
「いや、勝てるだろ」
あっさりと、ユートは断言した。勝てるかも、ではなく、勝てると。当たり前のように言うユートに、私も少なからず驚く。
「ど、どうしてですか?」
「対抗戦を見て、ウォレス先輩の実力は大体見れたからな。使う魔法も共有できてるし、俺たち四人なら勝てる相手だ」
「勝てる相手、か……。流石だね、ユート君」
「……ユートの言う通りね。勿論油断はできないけど、今の私たちなら勝てるわ」
ユートに同調し、二人に、そして自分に言い聞かせるように告げる。
そうよ。一人じゃ手も足も出なかったけど、四人なら勝てる。勝てないわけがない。
「グリマール魔法学院のチーム対抗戦、その本戦に出場した私たちの実力が、同じ学生一人に劣るだなんてことあってはならないわ。……勝つわよ」
静かな決意の言葉に、強い声が返ってきた。
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【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
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