全能で楽しく公爵家!!

山椒

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王都でも渦中

053:侵入者。

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 天空商会書籍専門店第一支店から離れた後、本屋に向かってシルヴィー姉さんとルーシー姉さんのお土産の本や俺が少し気になった本を買って宿に戻った。

 あといるのかは分からないが、アリスたちに分かりやすいような本もこっそりと購入した。

 宿に戻る頃にはすでに陽が傾いており、まだお父上様とお母上様は戻っていなかった。

 人が見ていないところでフェイ、グリーテンの転移魔法で俺の部屋に戻った俺たちは魔道具を外して元の公爵家子息のアーサー、完璧メイドのベラ、七聖法のグリーテンに戻った。

 戻った俺の姿を見たベラはホッとしていたが、グリーテンは少しだけ残念そうな顔をしていたところを見るに、二人の本質が垣間見えた。

 グリーテンは一度家に戻り、ベラは用事があるということで俺は部屋で一人になった。

「あっ、メルシエさんにメッセージを送ろ」

 夕食まで時間があるから、本を読もうと思ったがどうせだから王都に来たということをメルシエさんにメッセージを送ることにした。

 世界中を駆け回っているメルシエさんが今王都にいるかは分からないが、とりあえずメッセージを送ることにした。

『今、パーシヴァル家にパーティーに招待されて王都にいます。メルシエさんはどちらにいますか?』

 シルヴィー姉さんとルーシー姉さんにメッセージを送ろうとすると、すぐさまメルシエさんからメッセージが返ってきた。

『本当ですか!? 僕はブリテン王国から出ています……』
『会えたら嬉しいと思っていたので残念です……』
『すぐに終わらせて帰ってきます! いつまで王都に滞在するのですか!?』
『明後日にパーティーがあって、そこからもお父さんに用事があるみたいなのでいつまで滞在するのかは分かりません』
『分かりました! すぐに戻ります! そして天空商会を案内しますね!』
『無理せずに頑張ってください!』
『善処します!』

 世界中を回っているメルシエさんと王都で出会うよりもランスロット家で出会う方が確率が高そうだと思いながらメルシエさんとのメッセージを終えて、スマホをベッドに置く。

 そしてベッドに置かれている本を手に取った。今日本屋で買った本で、小説ではなく神に関する分厚い本だ。

 七天教会のことを聞いたから、神について知ろうと思って買った。残念ながらランスロット家はそういう本はないし、ベラの授業では神について教えてくれなかった。

 前世の世界で神というファンタジーでしか聞かない眉唾物と同じかと思ったが、この世界では神は確かに存在しているのに教えることはない。

 何か意図がなければそれをしないはずだ。そう思いながら『七天』という本を開けようとする。

「……いるな」

 だが、この宿に誰かが侵入してきたことに気が付いた。しかも悪意を持って的確に俺の方に来ている。

 狙いは俺か? ここにランスロット家が泊っていることは誰でも知っていることだからランスロット家を狙おうと思えば狙える。

 でもここの宿はそういう侵入者に対して貴族を守るために色々と護衛がいたり魔道具を展開しているが、誰も反応していない。

 侵入者が通っている道は的確に抜け道となっている。まるであらかじめそれが分かっているかのように素早くこちらに来ている。

 まさか今日という日に人生で初めて狙われるとは思わなかったな。まあ来るなら来るといい。ちょうど夕食前で少し運動がしたいところだったんだ。

 スローライフができていると思っていたが、公爵家以外で厄介なことが持ち込まれるとは思っていなかったな。

 もしかして今日知った七天教会の刺客か? ランスロット家が関わっているのだから、それはあり得そうな話だ。

 いつまでも様子を見てもらうのはメンドウだから、相手が来やすいように『七天』を開いて隙だらけな状態を演出する。

 本を読みつつ、侵入者の方に意識を向けるとすでに俺の部屋の窓の外側におりこちらを見ているのが分かる。

 完璧な隠密はさすがと言わざるを得ない、その相手が俺じゃなければ気づくことはなかっただろう。さて、どうやって来るのか。

「あれ……?」

 窓が侵入者によって開いたことに五歳の俺は疑問を浮かべて窓の方を見る。その時にはすでに侵入者は俺の背後に移動していた。

 隠密よし、速さよしと来たか。普通の人なら見えないだろうが、俺はバッチリとフードで顔を隠している侵入者の姿を捉えていたが。

「動くな、喋るな、反応する時は頭を動かせ」

 俺の首にひんやりとした刃物を当て、冷たい声音でそう言ってくる女性。少しだけ俺の首から血が出ているのが分かる。

 全く、暗殺者か? それとも誘拐が目的か? どちらにせよ五歳にすることではないだろ。普通は錯乱すると思うが。

「いい子だ、私もお前のような子供を殺すようなことはしたくない。お前は私と来てもらう」

 誘拐か。さて、どこの組織か聞きたいのだが喋るなと言われているからなぁ。それにここで誘拐されてもいいと思っているんだが、姉さんたちやベラに心配させるのは良くないからなぁ。

「……何も、怖くないのか? 今から誘拐されるんだぞ?」

 喋るな、動くなって言われているんだからそう聞かれたとしてもどう反応していいのかわからんぞ?

「今なら喋ってもいい、だが大声を出すな」

 そう言われて刃物を当てる場所を変えて、刃物を意識させてくる侵入者。

「別に怖くないですよ。それが公爵家だと認識しているので」

 そもそも誘拐ごときで俺を怖がらせることなんてできるわけがない!

「そうか……立派な公爵家子息だ。あれとは大違いだ」
「あれ?」
「いや、何でもない気にするな。とにかくお前は連れていく」

 あ~、連れていかれるよ~と女性に抱えられそうになりながら内心どうしようかと悩んでいたら、部屋の扉が勢いよくこちらに飛んできたことで女性は俺を抱えて扉を避ける。

 その飛んできた扉の影に殺気を秘めた冷たい眼差しのベラがおり、ベラは魔法で俺を抱えている侵入者の腕を放させて俺を素早く自身の胸に抱き寄せた。

「お怪我は?」
「ないよ~」
「それは何よりです。少しお待ちください」

 俺を背後に置いて相手を見据えるベラ。一方の侵入者は腕の調子を確認しつつ、ベラを見る。

凶神きょうしん……!」
「その名前は捨てたわ。そういうあなたは静粛せいしゅくね」
「まさかお前とまた会うとは思わなかったぞ。こういう暗殺の場で」
「私もよ。でも、あなたはこの世で一番許されないことをしようとしたわ」

 ベラから大きな殺気が侵入者に放たれる。

「悪いが、お前と正面きって戦うつもりは……!?」

 侵入者がこの場から逃げようとするが、すでにベラと侵入者が話している時点で仕掛け終わっている。

 この部屋に結界が張られており、たぶん俺以外では誰も出入りすることも、魔法で外と連絡を取ることもできない空間が出来上がっている。

 侵入者が動揺しているうちに、ベラは侵入者の側頭部に蹴りを入れる。それを侵入者が腕でガードするが受けきれずに横によろけ、さらにベラは侵入者の胴体に蹴りをいれ、それだけで肋骨が何本かイカれながら侵入者は倒れた。

「おぉ~、すごい」
「ありがとうございます」

 ベラって案外強いんだなぁと呑気に思いながらあっけなく侵入者を捕らえることができた。
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