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08:いざこざ
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オーガモスの死骸を証拠にそれを浮かせながら俺とマヤ様は屋敷に戻る。
「ん? 誰かいますね」
「どこに?」
「屋敷の前に三人、いますね」
「……こんなところから分かるんだ」
今はまだカントリーハウスどころか周りの町まで見えていない。
「俺の眼は一度行った場所にはかなり汎用性が高いです。人もそうですけど一度視ればどこにいるか、どういう状況なのかを把握できます」
「あー、そうなんだ……ちなみにその眼を騙すことってできたりする?」
「催眠魔法とか改竄魔法は無理ですよ。自分はアカシックレコードを視るとまず整合性が取れているかどうかを認識します。太古の昔より始まった記録からの整合性なので一部を騙したところですぐに分かります」
「それなら全部を変えないと無理ってこと?」
「それができるならもう何でもできるでしょうね。ただし星の起源より変えないといけないわけですけど。この今の世界だけを変えたとしても太古の昔がある限りは変えた今を証明できます。つまるところ無理ってことです」
「へー、なんだかよく分からないけどすごいってことだけは分かったわ」
そんなことを話しつつ屋敷に急いで戻る。
さっきの話をしたこともあってかマヤ様がかなり急いで戻っているから俺もそれに合わせる。ただこれ以上に早く移動する術が俺にある。
「マヤ様、飛ぶのでこちらにお手を」
「ありがとう」
マヤ様が素直に俺の手をとれば屋敷が見えるところまで『転移魔法』を使って移動した。
「到着です」
「……すご!」
何かを考えるのをやめたマヤ様は俺がすごいと言い切った。
ただそれは一瞬のことで屋敷の前にいる三人の獣人がいることでそちらに向かう。
「だから! てめぇらに渡す食料はないって言ってるだろ!」
「嘘つけ! 匂ってくるぞお前らからよぉ!」
マチルダさんが獣人たちと言い争いをしているのが見えた。
「マチルダ」
「戻ってきてくれたか!」
マヤ様がマチルダさんに声をかければマチルダさんは俺とマヤ様を見て嬉しそうな顔をする。
俺にもそんな顔を向けるのを見るにどうやら存分に困っているようだな。
「うちに何かご用ですか?」
マヤ様はマチルダさんの隣に立ちそう聞く。
俺はマチルダさんが立っていない方のマヤ様の横に立ち獣人三人を見る。
獣人三人は全員男で猫型の獣人だと分かった。
「な、なんだよこいつ……」
この三人のリーダーと思わしき獣人が俺を見てギョッとしていた。
「お初にお目にかかります、自分はベオウルフ騎士団より参りましたセオ・オースティンと申します。七聖者の称号を冠する騎士でございます」
俺はビビらせるように七聖者を口にした。
「は、はぁ!? なんでこんなところに七聖者がいるんだよ!」
「し、七聖者って……?」
「バカかお前! 七聖者は人間側が特別強いやつに与える称号のことだよ!」
「えぇ!?」
「しかも亜人や魔人を多く殺しているやつらだ……!」
一人は七聖者のことを知らなかったようだが他の獣人が説明してくれてよかった。
ただ俺は亜人や魔人を殺したことはないし、七聖者と呼ばれるわけも知らないようだ。まあそんなこと丁寧に教えることはしない。他種族を多く殺しているほど強いのに変わりはないんだから。
「マチルダさん、この方々はどのようなご用で?」
「食料を渡せってうるさいんだよ。うちにこいつらに渡せるような食料はないって言ってんのに」
「持ってるのは分かってるんだよ。屋敷の中を見せろよ」
「失礼。どうしてあなたはそんな強気な態度で食料をねだっているのですか?」
どうしてこいつがこんなことを言うのか気になるから聞いてみる。
「は、はぁ? そ、そりゃ、持ってるなら分けるべきだろ……」
「なぜですか?」
「こ、こっちは生きるのに必死なんだよ!」
「それはどこも同じだと思いますよ。そもそもなぜ領民ではないあなたにそのような施しをしなければならないのですか?」
「俺たちはフロスト領に住んでるから領民だよ!」
「いいえ、それは領民ではありません。ただ住み着いているだけです。税は納めましたか? それにディナトス王国は獣人を国民とは認めていません。なのであなたが領民を主張しようが意味がないんですよ」
「えっ、そうなのか?」
俺の言葉にそう反応するのはマチルダさん。
「はい。ディナトス王国は他種族が国民になることを認めていません。なので獣人が人権を得るためには奴隷になるしかなかったんですがそれも廃止になったので獣人がこの国で人権を得ることは無理です」
ま、貴族が勝手に領民にするのはいい。だがそこを摘発された場合は罰金を払う必要がある。
ディナトス王国はかなりの他種族排斥国家になっている。それもこれも力を持つ大国であり、かなり昔に獣人から手痛い仕打ちを受けたためだ。
「ふざけんな! 俺たち獣人をなんだと思っているんだ! 人間風情が!」
「おぉ、人間を見下しているのにもかかわらず獣人を見下されるのはよくないと仰られるか。随分と都合のいい生き方をしてきたご様子で」
「なんだと!」
七聖者のことを分かっていない獣人が俺に襲いかかろうとするがリーダーではない獣人が止める。
「フン、所詮は人間か。我らを助けていい気分になっているだけとはな」
「はは、ご冗談を。助けてもらっておきながら付け上がられては困りますからね。しつけが必要なご様子で」
俺の言葉にキレたリーダーの獣人が俺、ではなくマヤ様に襲いかかろうとした。
この中で一番弱いのはたぶんマヤ様だ。マヤ様とマチルダさんがどちらが強いかは断言できないが、獣人であることと魔法力を見るにマチルダさんだと予想する。
まあただ、騎士の前で仕えている家のご令嬢に襲いかかろうとするのはなんとも怖いもの知らずだ。
俺はその獣人の腹に蹴りを入れて遥か彼方に飛ばしてやった。
まあ内蔵ぐちゃぐちゃになって生きてはいないだろうな。ここで死なれては困るから死体を処理した感じだ。あっ、今死んだ。さすが獣人、タフだ。
「今の行為、敵対行動と見なします」
俺は前に出て威圧する。
「ま、まま待ってくれ! 俺たちに戦う意思はない!」
「なに言ってんすか!? こいつが獣人を見下すようなことを言ったからっすよ! しめましょうよ!」
「おい黙れ! 俺はこんなところで死にたくないんだよ!」
「油断しなきゃ人間なんて楽勝っすよ!」
まあ確かに獣人の肉体は人間よりも強靭だ。だからそう思う獣人がいてもおかしくはない。
だがそれでも人間に勝っておらず、むしろディナトス王国に負け続けているのは魔法があるからだ。ディナトス王国は魔法大国でありそもそも人間は魔人と魔法力は変わらない。
俺はこいつらを見逃すためにもう一段階威圧するためにルミナススターを引き抜いた。
獣人二人は俺がルミナススターを引き抜いたことで圧倒されている。イキっていた獣人も呼吸は浅くなり冷や汗を垂らしている。
このまま逃げるつもりがないのならまた吹き飛ばすことになるが、すぐに冷静な獣人が口を開いた。
「お、俺たちは引く! だから勘弁してくれ!」
「言葉が違いますね。あなた方の命は俺が握っているのですよ?」
「……申し訳、ございませんでした」
冷静な獣人は俺たちの前で頭を下げる。それを見ていたイキっていた獣人が俺に鋭い視線を向けてくるが俺がチラッと見れば体を震わせていた。
「どうなさいますか? マヤ様」
この場でそれを決めることができるのはマヤ様だけだ。俺が勝手に決めてはおかしいからな。
ただ俺はこいつらを泳がせたいから、右目のウィンクをマヤ様に向けた。
「今回だけは不問にします。次はありません」
それに気づいてくれたマヤ様が少し頷いてそう判断してくれた。
「マヤ様がこう仰られたので早く行ってください」
安心している二人にそういえば脱兎のごとく走り去っていった。
「悪い、助かった」
「こちらこそ悪いな。本来なら騎士である俺が最初からやらなければいけなかった。ありがとう」
「ただやりたいことをやっただけだ。お前に礼を言われる筋合いはない」
「そうですか」
「マチルダ、怪我はない?」
「ないぞ。荒事になる前に助けに来てもらったからな」
それにしてもあれくらいの獣人ならマチルダさんなら簡単に追い返せるし殺せると思うんだが。
「それにしても、少しまずいことになったな」
「何がだ?」
どうやらマチルダさんが我慢していたことが聞けるようだ。
「あいつらはフロスト領にいる獣人の中でもフロスト家を乗っ取ろうとしている一派だ。ジェイダンの甘いところをいいように突いて食料を略奪している」
「先程マヤ様が仰られた獣人たちですか」
マヤ様は頷く。
「なんだ、そこまで話しているのか。それなら話が早いな。その一派は今回のことでいちゃもんをつけにここに来るぞ」
「マチルダさんはそうならないように武力行使ではなく穏便に帰ってもらおうとしていたんだな」
「そういうことだ。でも今回は食料のにおいを嗅ぎ付けられて中々帰らなかったんだよ。お前がうまいもんを作るから悪いんだぞ」
「うまいことに越したことはないと思ったが、どうやら今回に限っては悪手だったようだ」
まあそれを聞いたところで俺は同じものを作っていたとは思うが。
「武力行使をするなら全員殺しておくべきだったな。あいつらプライドが高いからすぐにチクるぞ」
「あぁ、そのことなら大丈夫。もう手は打ってある」
すでにあの二人を直接見たから追跡ができている。それに『アストラル・レスクリベレ』で仕込んでおいた。
「見逃せってことで良かったのですよね?」
「はい、ありがとうございます」
「……ふーん、何か考えているのならあたしは何も言わない。そういうことは任せるぞ」
「お任せを」
マヤ様から色々と聞いておいて良かった。そうじゃなければ見逃していなかった。
「マチルダ? 来客はどうなったんだい?」
屋敷の扉の向こうからジェイダン様の声が聞こえてきた。
そういやよくジェイダン様が来なかったなと思ったが、広範囲に張っている感知結界の他に屋敷に外の音が聞こえない防音結界が張られていることが分かった。
その防音結界は解除されマチルダさんは屋敷の扉を開ける。
「今さっき帰ったぞ」
「そうなのか。おっ! セオ君にマヤ! もう戻っていたのか!」
「ただいま」
「はい。ただいま戻りました」
マヤ様の話を聞く限り、ジェイダン様がいたら絶対に相手が獣人で食料を欲していたら与えていたな。
あの食料をフロスト家の人たちや本当に困っている人たちが食べるのならいい。だがそれを甘さや弱みで食料を消費されるのは今のところ給与の当てが使われていない領土の俺に失礼だと思わないのだろうか。
マヤ様たちがあの食料を一日で食べるのも別にいい。満足してもらえるのなら嬉しい限りだ。
「それで蛾のモンスターはどうなったのかな!?」
「それなら無事に討伐しました」
「おぉ! 本当か!」
上空で待機させておいたオーガモスの死骸を屋敷の前におろす。
「はい、この通りです」
「おぉ……!」
「きゃっ! こ、こんなところに置くんじゃねぇよ!」
ジェイダン様はオーガモスの死骸に感嘆の声をあげ、マチルダさんは俺を盾にしてオーガモスを恐る恐る見ていた。
「このモンスターはSランクモンスターのオーガモスです」
「ほぉ、Sランクモンスターだったんだね」
「Sランク……だからあたしの仲間はやられたのか」
「オーガモスがいた場所はまだオーガモスを駆除しただけですからまだ危険です。ただ明日には安全な場所にしておきますのでご安心ください」
「そのオーガモスをやってくれただけでかなり楽になったよ! マチルダもそう思うだろう?」
「それはそうだろ。あれは面倒なことこの上なかったからな……」
その後フレヤ様とレイラ様とルナ様も屋敷から出てくればオーガモスの死骸に驚きながらも喜んでくれた。
過激派獣人たちはともかくとしても、心配事を一つ減らしたことはデカイな。
「ん? 誰かいますね」
「どこに?」
「屋敷の前に三人、いますね」
「……こんなところから分かるんだ」
今はまだカントリーハウスどころか周りの町まで見えていない。
「俺の眼は一度行った場所にはかなり汎用性が高いです。人もそうですけど一度視ればどこにいるか、どういう状況なのかを把握できます」
「あー、そうなんだ……ちなみにその眼を騙すことってできたりする?」
「催眠魔法とか改竄魔法は無理ですよ。自分はアカシックレコードを視るとまず整合性が取れているかどうかを認識します。太古の昔より始まった記録からの整合性なので一部を騙したところですぐに分かります」
「それなら全部を変えないと無理ってこと?」
「それができるならもう何でもできるでしょうね。ただし星の起源より変えないといけないわけですけど。この今の世界だけを変えたとしても太古の昔がある限りは変えた今を証明できます。つまるところ無理ってことです」
「へー、なんだかよく分からないけどすごいってことだけは分かったわ」
そんなことを話しつつ屋敷に急いで戻る。
さっきの話をしたこともあってかマヤ様がかなり急いで戻っているから俺もそれに合わせる。ただこれ以上に早く移動する術が俺にある。
「マヤ様、飛ぶのでこちらにお手を」
「ありがとう」
マヤ様が素直に俺の手をとれば屋敷が見えるところまで『転移魔法』を使って移動した。
「到着です」
「……すご!」
何かを考えるのをやめたマヤ様は俺がすごいと言い切った。
ただそれは一瞬のことで屋敷の前にいる三人の獣人がいることでそちらに向かう。
「だから! てめぇらに渡す食料はないって言ってるだろ!」
「嘘つけ! 匂ってくるぞお前らからよぉ!」
マチルダさんが獣人たちと言い争いをしているのが見えた。
「マチルダ」
「戻ってきてくれたか!」
マヤ様がマチルダさんに声をかければマチルダさんは俺とマヤ様を見て嬉しそうな顔をする。
俺にもそんな顔を向けるのを見るにどうやら存分に困っているようだな。
「うちに何かご用ですか?」
マヤ様はマチルダさんの隣に立ちそう聞く。
俺はマチルダさんが立っていない方のマヤ様の横に立ち獣人三人を見る。
獣人三人は全員男で猫型の獣人だと分かった。
「な、なんだよこいつ……」
この三人のリーダーと思わしき獣人が俺を見てギョッとしていた。
「お初にお目にかかります、自分はベオウルフ騎士団より参りましたセオ・オースティンと申します。七聖者の称号を冠する騎士でございます」
俺はビビらせるように七聖者を口にした。
「は、はぁ!? なんでこんなところに七聖者がいるんだよ!」
「し、七聖者って……?」
「バカかお前! 七聖者は人間側が特別強いやつに与える称号のことだよ!」
「えぇ!?」
「しかも亜人や魔人を多く殺しているやつらだ……!」
一人は七聖者のことを知らなかったようだが他の獣人が説明してくれてよかった。
ただ俺は亜人や魔人を殺したことはないし、七聖者と呼ばれるわけも知らないようだ。まあそんなこと丁寧に教えることはしない。他種族を多く殺しているほど強いのに変わりはないんだから。
「マチルダさん、この方々はどのようなご用で?」
「食料を渡せってうるさいんだよ。うちにこいつらに渡せるような食料はないって言ってんのに」
「持ってるのは分かってるんだよ。屋敷の中を見せろよ」
「失礼。どうしてあなたはそんな強気な態度で食料をねだっているのですか?」
どうしてこいつがこんなことを言うのか気になるから聞いてみる。
「は、はぁ? そ、そりゃ、持ってるなら分けるべきだろ……」
「なぜですか?」
「こ、こっちは生きるのに必死なんだよ!」
「それはどこも同じだと思いますよ。そもそもなぜ領民ではないあなたにそのような施しをしなければならないのですか?」
「俺たちはフロスト領に住んでるから領民だよ!」
「いいえ、それは領民ではありません。ただ住み着いているだけです。税は納めましたか? それにディナトス王国は獣人を国民とは認めていません。なのであなたが領民を主張しようが意味がないんですよ」
「えっ、そうなのか?」
俺の言葉にそう反応するのはマチルダさん。
「はい。ディナトス王国は他種族が国民になることを認めていません。なので獣人が人権を得るためには奴隷になるしかなかったんですがそれも廃止になったので獣人がこの国で人権を得ることは無理です」
ま、貴族が勝手に領民にするのはいい。だがそこを摘発された場合は罰金を払う必要がある。
ディナトス王国はかなりの他種族排斥国家になっている。それもこれも力を持つ大国であり、かなり昔に獣人から手痛い仕打ちを受けたためだ。
「ふざけんな! 俺たち獣人をなんだと思っているんだ! 人間風情が!」
「おぉ、人間を見下しているのにもかかわらず獣人を見下されるのはよくないと仰られるか。随分と都合のいい生き方をしてきたご様子で」
「なんだと!」
七聖者のことを分かっていない獣人が俺に襲いかかろうとするがリーダーではない獣人が止める。
「フン、所詮は人間か。我らを助けていい気分になっているだけとはな」
「はは、ご冗談を。助けてもらっておきながら付け上がられては困りますからね。しつけが必要なご様子で」
俺の言葉にキレたリーダーの獣人が俺、ではなくマヤ様に襲いかかろうとした。
この中で一番弱いのはたぶんマヤ様だ。マヤ様とマチルダさんがどちらが強いかは断言できないが、獣人であることと魔法力を見るにマチルダさんだと予想する。
まあただ、騎士の前で仕えている家のご令嬢に襲いかかろうとするのはなんとも怖いもの知らずだ。
俺はその獣人の腹に蹴りを入れて遥か彼方に飛ばしてやった。
まあ内蔵ぐちゃぐちゃになって生きてはいないだろうな。ここで死なれては困るから死体を処理した感じだ。あっ、今死んだ。さすが獣人、タフだ。
「今の行為、敵対行動と見なします」
俺は前に出て威圧する。
「ま、まま待ってくれ! 俺たちに戦う意思はない!」
「なに言ってんすか!? こいつが獣人を見下すようなことを言ったからっすよ! しめましょうよ!」
「おい黙れ! 俺はこんなところで死にたくないんだよ!」
「油断しなきゃ人間なんて楽勝っすよ!」
まあ確かに獣人の肉体は人間よりも強靭だ。だからそう思う獣人がいてもおかしくはない。
だがそれでも人間に勝っておらず、むしろディナトス王国に負け続けているのは魔法があるからだ。ディナトス王国は魔法大国でありそもそも人間は魔人と魔法力は変わらない。
俺はこいつらを見逃すためにもう一段階威圧するためにルミナススターを引き抜いた。
獣人二人は俺がルミナススターを引き抜いたことで圧倒されている。イキっていた獣人も呼吸は浅くなり冷や汗を垂らしている。
このまま逃げるつもりがないのならまた吹き飛ばすことになるが、すぐに冷静な獣人が口を開いた。
「お、俺たちは引く! だから勘弁してくれ!」
「言葉が違いますね。あなた方の命は俺が握っているのですよ?」
「……申し訳、ございませんでした」
冷静な獣人は俺たちの前で頭を下げる。それを見ていたイキっていた獣人が俺に鋭い視線を向けてくるが俺がチラッと見れば体を震わせていた。
「どうなさいますか? マヤ様」
この場でそれを決めることができるのはマヤ様だけだ。俺が勝手に決めてはおかしいからな。
ただ俺はこいつらを泳がせたいから、右目のウィンクをマヤ様に向けた。
「今回だけは不問にします。次はありません」
それに気づいてくれたマヤ様が少し頷いてそう判断してくれた。
「マヤ様がこう仰られたので早く行ってください」
安心している二人にそういえば脱兎のごとく走り去っていった。
「悪い、助かった」
「こちらこそ悪いな。本来なら騎士である俺が最初からやらなければいけなかった。ありがとう」
「ただやりたいことをやっただけだ。お前に礼を言われる筋合いはない」
「そうですか」
「マチルダ、怪我はない?」
「ないぞ。荒事になる前に助けに来てもらったからな」
それにしてもあれくらいの獣人ならマチルダさんなら簡単に追い返せるし殺せると思うんだが。
「それにしても、少しまずいことになったな」
「何がだ?」
どうやらマチルダさんが我慢していたことが聞けるようだ。
「あいつらはフロスト領にいる獣人の中でもフロスト家を乗っ取ろうとしている一派だ。ジェイダンの甘いところをいいように突いて食料を略奪している」
「先程マヤ様が仰られた獣人たちですか」
マヤ様は頷く。
「なんだ、そこまで話しているのか。それなら話が早いな。その一派は今回のことでいちゃもんをつけにここに来るぞ」
「マチルダさんはそうならないように武力行使ではなく穏便に帰ってもらおうとしていたんだな」
「そういうことだ。でも今回は食料のにおいを嗅ぎ付けられて中々帰らなかったんだよ。お前がうまいもんを作るから悪いんだぞ」
「うまいことに越したことはないと思ったが、どうやら今回に限っては悪手だったようだ」
まあそれを聞いたところで俺は同じものを作っていたとは思うが。
「武力行使をするなら全員殺しておくべきだったな。あいつらプライドが高いからすぐにチクるぞ」
「あぁ、そのことなら大丈夫。もう手は打ってある」
すでにあの二人を直接見たから追跡ができている。それに『アストラル・レスクリベレ』で仕込んでおいた。
「見逃せってことで良かったのですよね?」
「はい、ありがとうございます」
「……ふーん、何か考えているのならあたしは何も言わない。そういうことは任せるぞ」
「お任せを」
マヤ様から色々と聞いておいて良かった。そうじゃなければ見逃していなかった。
「マチルダ? 来客はどうなったんだい?」
屋敷の扉の向こうからジェイダン様の声が聞こえてきた。
そういやよくジェイダン様が来なかったなと思ったが、広範囲に張っている感知結界の他に屋敷に外の音が聞こえない防音結界が張られていることが分かった。
その防音結界は解除されマチルダさんは屋敷の扉を開ける。
「今さっき帰ったぞ」
「そうなのか。おっ! セオ君にマヤ! もう戻っていたのか!」
「ただいま」
「はい。ただいま戻りました」
マヤ様の話を聞く限り、ジェイダン様がいたら絶対に相手が獣人で食料を欲していたら与えていたな。
あの食料をフロスト家の人たちや本当に困っている人たちが食べるのならいい。だがそれを甘さや弱みで食料を消費されるのは今のところ給与の当てが使われていない領土の俺に失礼だと思わないのだろうか。
マヤ様たちがあの食料を一日で食べるのも別にいい。満足してもらえるのなら嬉しい限りだ。
「それで蛾のモンスターはどうなったのかな!?」
「それなら無事に討伐しました」
「おぉ! 本当か!」
上空で待機させておいたオーガモスの死骸を屋敷の前におろす。
「はい、この通りです」
「おぉ……!」
「きゃっ! こ、こんなところに置くんじゃねぇよ!」
ジェイダン様はオーガモスの死骸に感嘆の声をあげ、マチルダさんは俺を盾にしてオーガモスを恐る恐る見ていた。
「このモンスターはSランクモンスターのオーガモスです」
「ほぉ、Sランクモンスターだったんだね」
「Sランク……だからあたしの仲間はやられたのか」
「オーガモスがいた場所はまだオーガモスを駆除しただけですからまだ危険です。ただ明日には安全な場所にしておきますのでご安心ください」
「そのオーガモスをやってくれただけでかなり楽になったよ! マチルダもそう思うだろう?」
「それはそうだろ。あれは面倒なことこの上なかったからな……」
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