愛玩人形

第４章 迷夢…

９

　客の出入りも激しくなり、どうにも落ち着かなくなった僕達は、店の二階にある二木君の自室へと場所を移した。

　僕の部屋の半分にも満たない狭い部屋には、所狭しと本が積み上げられていて、僕はその一冊を手に取ると、パラパラと頁を捲った。

　「へぇ、二木君てこんなの読むんだ。意外だな」

　積み上げられた本はどれも、所謂純文学と呼ばれる物ばかりで、僕はその量もさることながら、意外性に驚きの声を上げた。

　「まあな。実はさ俺、将来は作家になりたいと思ってるんだ」
　「そうなんだ、凄いじゃないか、夢があるなんて」


　僕なんて、夢を見る権利すら与えて貰えないのに……


　櫻木の家に産まれた時から僕の人生はもう決められていて、父様に言われるがままの道を歩くことしか、僕には出来ないし、許されてはいない。

　「俺ん家こんな仕事してるだろ？　お陰で餓鬼の頃なんて友達の一人もいなくてな。おかげで本を読むことだけが、俺の唯一の楽しみだったんだ。それで俺もいつかは……、なんて思うようになってな。ま、そんな簡単な事じゃないとは思うけど」

　時折苦笑しながらも、それでも夢を語る二木君のことが、僕は少しだけ羨ましく思える。と同時に、夢を語ることすら許されない自分自身を惨めに感じてしまう。


　どんなに家が裕福であっても、どんなに豊かな生活をしていても、僕には何も無い。

　唯一、智子を愛する権利すら、僕には……