独占欲

３

「お茶をお持ちしました」

　ワゴンの上には西洋風のティーポットとカップが二つあって、松下はティーポットを手にすると、慣れた手つきで二つのカップに紅茶を注いだ。
　すると、途端に紅茶の香りが部屋に満ち、僕は胸にチクリとした痛みを感じた。

　兄様が椅子の両横に取り付けられた車輪を操り、部屋の中央に置かれた古びた丸テーブルまで移動する。

「智樹も座りなさい」
「は……い……」

　促されるまま、兄様の向かいのソファーに腰を降ろすと、松下が紅茶の入ったカップをそれぞれの前に置いて行く。

「こちらは翔真様の……。それからこちらは智樹様のお茶でございます」

　兄様がカップを手にしたのを見て、僕も同じようにカップを手にする。

「頂こうか？」
「……はい」

　兄様がカップに口を付ける……が、僕はどうしてもカップに口を付けることが出来なくて……

「智樹、早く飲まないと、せっかくの美味しいお茶が冷めてしまうよ？」
「智樹様、どうかお飲み残しのないよう……」

　カップを両手に持ったまま、いつまでも口を付けようとしない僕に、二人が急かすように言うが、それでも僕はどうしてもカップを口に運ぶことが出来ずにいた。



　だって……
　だってこのお茶を飲んだら僕は、僕ではなくなってしまうから……