H･I･M･E ーactressー

第27章 日常12：僕、さよなら…、だよ

３

　別にさ、僕の方から手伝ってくれって頼んだわけじゃないから、僕が謝る必要もないとは思うんだけど、やっぱり誕生日だと聞いてしまうと、申し訳ない気持ちになる。

　でも当の松下さんは、汗で乱れた前髪を軍手を嵌めた手で掻き上げ……

　「どうせ暇だったし、丁度運動したいとも思っていたから、全然かまわないよ」

　そう言ってギリシャ彫刻のような顔をクシャッと綻ばせた。


　ってゆーか、引っ越しが運動って……、やっぱり松下さんて不思議な人だ。


　「あ、そうだ……。じゃあさ、手伝って貰ったお礼と、お誕生日のお祝いも兼ねて、晩ご飯皆で一緒にしません？」


　うん、僕にしては名案かも♪


　って思ったのも束の間……

　「それいいかも。勿論、智樹の奢りなんでしょ？」

　和人がキラーンと目を輝かせるから、僕は固まるしかなくて……


　確かに誘ったよ？
　でもそれは、松下さんがお誕生日だからであって、和人は違うじゃん？

　それに和人に奢るってことは、イコール相原さんにも奢るってことになるわけで……

　相原さんと言ったら、ハンバーガー五個食べてもケロッとしてるくらい痩せの大食いで有名なのに、そんな人にまで奢ってたら、凄い出費じゃん？

　ただでさえ新しいマンション（今度はアパートじゃなくてマンションなの♪）の契約費用だってけっこうかかっちゃったし……

　でも……、そうだよね……

　本当なら業者に頼むところ、相原さんの声掛けもあって和人や松下さんもお手伝いに来てくれたわけだし……

　実際、その分の費用は浮いたしね？

　だからお礼……って程でもないけど、仕方ないか。

　それに和人や相原さんには、これまでお仕事でもプライベートでも、沢山お世話になってるもんね？

　あ、勿論、これからだってそのつもりだけどさ、これでも感謝はしてるんだ。

　もし和人や相原さんがいなかったら、今頃僕はあの世に……ってことはないだろうけど、きっと未だに立ち直れずにいただろうから……


　「もぉ……、仕方ないなぁ……。でもあんまり高い所は無理だからね？」

　奢ると決めたものの、財布の紐だけはしっかり締めておかないとね？