わたしの愛した世界

伏織

文字の大きさ
112 / 176
七章

7-16

しおりを挟む
「どうしたの?」廊下の角から、赤い水たまりのようなものが見える。猛烈にこの身を襲う嫌な予感に、唇を縫い付けられてしまったようだ。私は足を踏み出すことしかできなかった。エリザを押しのけ、ゆっくりと廊下を進む。
建てられて数年しか経っていない建物の廊下は、ホラー映画の様にギシギシ鳴る、ということはなかった。ただコツコツと靴の音が響いた。きっと響いているのは、私の頭の中だけなのだろう。

廊下の角を曲がると、手のひら程の大きさの血だまりがあった。そこから血を擦ったような筋が伸び、階段に向かっていた。階段にも、所々小さな血の跡があり、点々と、下に続いている。足跡が擦れたような跡になっているところもある。
血の跡を踏まないようにしながら、私は点々と続く血の跡を追って階段を降りた。階段の一番下のところからカウンターの中に向かって、引きずるような血の筋が伸びていた。


心臓が今までに無いほどの速さで脈打っている。口から飛び出してきそう、とはよく言ったものだ。まさにそのとおりではないか。立ち止まった私に追いついたエリザが、私の肩に柔らかい手をふわりと乗せた。


「大丈夫?私が確認しに行くね」

「いえ、ここにいて下さい。一人で行きます」


見ずともこの先の様子は予想がつくが、ちゃんと見ておかないといけない。それに、まだ息がある人も居るかもしれない。


カウンターの奥の二つある扉のうち、片方が開いているのが見えた。その先にはソファーやテーブルなどがあり、居間であることが分かった。血痕は開いている扉の前で途切れていた。


扉には、やたら大きなドアストッパーが付いていた。まるで女性の足のような形のそれは、白く、そして足首の近くに大きな切り傷があった。ここまでの血痕はあの切り傷からの出血なのだろう。ふくらはぎから上のほうは部屋の中に入っており、こちらからは血の枯れた白いふくらはぎと、捲れたスカートの裾だけが見えた。


私は一度エリザを振り返り、覚悟を決めてドアの中から部屋に入った。思っていた通り、部屋の入口で仰向けに倒れている女性の死体が転がっていた。その顔には見覚えがある。宿の奥さんだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

処理中です...