10 / 113
姉の婚約
9
しおりを挟む
一段落ついたところで、父の方からあらためて今回の事業提携に対する感謝を述べた。仕事に関する話はすでに別でされていたようで、ここでは今後の協力を確認するにとどめる。
そうして少し話した後に、この場で姉と碧斗さんの婚約が正式に結ばれた。
「ははは。これでようやく、あいつとの約束が果たせるというもの」
そう発したのは、小野寺のおじい様だ。
妹の私に対しては傲慢なところのある姉だが、他者に対しては話し上手で社交的になる。
美人で話題も豊富な彼女に、小野寺のおじい様は満足そうな顔をした。
当人である碧斗さんの表情は、大きくは変わらない。
口もとには終始感じのよい笑みを浮かべ、落ち着いた丁寧な口調で話す。そんな彼の姿からは、この婚約を積極的に受け入れているのか、それともできれば拒否したかったのかは判断できなかった。
母はこれでうちも安泰だと安堵し、父は友人であるおじ様と握手を交わしている。
両家がこれほど望んだ婚約なのだから、ふたりの結婚はそれほど遠くない話なのだろう。
それからすぐに二社の業務提携の話が具体的に進められ、それほど待たずして茶房の件が本格的に動きだした。さらにほかの案件も持ち上がっているようで、母は終始機嫌がいい。
姉と碧斗さんも、婚約者として順調に関係を築いているようだ。
「こんにちは。一嘩さんを迎えにきました」
インターホンが鳴って玄関に出向いた母に、碧斗さんがあいさつをしているのが聞こえてくる。
「一嘩、碧斗さんがいらっしゃったわよ――ごめんなさいね。少し待ってもらえるかしら」
「ええ」
母の呼びかけに、二階の自室にいた姉が「はいはい」と適当な返事を返す。
私と姉の部屋は隣り合っており、室内の音が漏れ聞こえてくる。クローゼットを少々乱暴に開閉する音がしたが、この様子だとまだまだ時間がかかるのかもしれない。
ふたりが婚約してから、一カ月ちかくが経っている。
彼がうちまで姉を迎えに来て、そのまま車でどこかに出かけていく姿を私も数回見かけていた。
ふたりはすっかり打ち解けたのか、姉はこうして彼を待たせるようになった。
ちょうど私が部屋を出ようとしたタイミングでの来訪だったため、なんとなく自室にとどまってしまった。
でも、毎回この調子ではたまらない。ここは私の家でもあるのだし、変な遠慮をしているのも嫌でかまわず部屋を出ることにした。
そうして少し話した後に、この場で姉と碧斗さんの婚約が正式に結ばれた。
「ははは。これでようやく、あいつとの約束が果たせるというもの」
そう発したのは、小野寺のおじい様だ。
妹の私に対しては傲慢なところのある姉だが、他者に対しては話し上手で社交的になる。
美人で話題も豊富な彼女に、小野寺のおじい様は満足そうな顔をした。
当人である碧斗さんの表情は、大きくは変わらない。
口もとには終始感じのよい笑みを浮かべ、落ち着いた丁寧な口調で話す。そんな彼の姿からは、この婚約を積極的に受け入れているのか、それともできれば拒否したかったのかは判断できなかった。
母はこれでうちも安泰だと安堵し、父は友人であるおじ様と握手を交わしている。
両家がこれほど望んだ婚約なのだから、ふたりの結婚はそれほど遠くない話なのだろう。
それからすぐに二社の業務提携の話が具体的に進められ、それほど待たずして茶房の件が本格的に動きだした。さらにほかの案件も持ち上がっているようで、母は終始機嫌がいい。
姉と碧斗さんも、婚約者として順調に関係を築いているようだ。
「こんにちは。一嘩さんを迎えにきました」
インターホンが鳴って玄関に出向いた母に、碧斗さんがあいさつをしているのが聞こえてくる。
「一嘩、碧斗さんがいらっしゃったわよ――ごめんなさいね。少し待ってもらえるかしら」
「ええ」
母の呼びかけに、二階の自室にいた姉が「はいはい」と適当な返事を返す。
私と姉の部屋は隣り合っており、室内の音が漏れ聞こえてくる。クローゼットを少々乱暴に開閉する音がしたが、この様子だとまだまだ時間がかかるのかもしれない。
ふたりが婚約してから、一カ月ちかくが経っている。
彼がうちまで姉を迎えに来て、そのまま車でどこかに出かけていく姿を私も数回見かけていた。
ふたりはすっかり打ち解けたのか、姉はこうして彼を待たせるようになった。
ちょうど私が部屋を出ようとしたタイミングでの来訪だったため、なんとなく自室にとどまってしまった。
でも、毎回この調子ではたまらない。ここは私の家でもあるのだし、変な遠慮をしているのも嫌でかまわず部屋を出ることにした。
2
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」
(三度目はないからっ!)
──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない!
「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」
倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。
ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。
それで彼との関係は終わったと思っていたのに!?
エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。
客室乗務員(CA)倉木莉桜
×
五十里重工(取締役部長)五十里武尊
『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる