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身代わりの結婚

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 ここまで特に感情を見せず、淡々とした口調で話している碧斗さんの本心がまったくわからない。
 明確なのは、会社のために結婚するという理由だけだ。

 翔君が、心配そうに私を見ている。
 彼は私が碧斗さんを好きだったと知っているが、フランスに渡ってからはそんな話をほとんどしていない。今の私が碧斗さんをどう思っているのかわからず、これでいいのかと問いかけたいのだろう。
 そんな翔君に、私は揺れる瞳で見つめ返すしかできなかった。

 続いて、そっと碧斗さんをうかがい見た。その途端、彼から私に向けられていた鋭い視線に気づいて、驚いて目を見開く。

 そこに、怒りの感情はないと思う。
 私の本心を探るような、それでいて拒否はさせないと捉えてしまおうというような強い意志がひしひしと伝わってくるから、目が逸らせなくなった。

「結婚式の日取りはもう決まっている。それに、招待状の発送の中止も間に合った。今すぐ名前を変えて出せば、近々になってしまうとはいえ許される範囲内でしょう。もとより、会社関係の人間には先に日程を知らせてあるので大きな問題はありません」

 私と目を合わせたまま、碧斗さんが淡々と語る。
 やはり姉との話は具体的に進んでいたのかと、複雑な気持ちになった。

「うちの上層部は、碧斗の言う通りの認識だろうな。スケジュールも……そうだな。一部の人間はあらためて私が直接声をかけた方がよいだろうが、今すぐ知らせを出せばまあ大丈夫だろう」

 おじ様が確認するようにつぶやく。
 おば様は会社に関わっていないのもあってか、いっさい口を挟まなかった。それでも唇をぎゅっと引き結んでいる様子から、不満があるという本音が伝わってくる。

「うちとしては……」

 遠慮がちに言いかけた父が、私の意志を確認するかのようにチラリと見る。が、私から具体的になにかを返しはしなかったし、父も言葉で確かめないまますぐに正面へ向き直ってしまった。

「これまで通り話を進めてくださるのなら、ありがたいばかりです。なにも言うことはありません」

 波川屋の従業員の行く末を考えれば、そう応えざるを得ないのは私もわかっている。私が碧斗さんの求めに応じれば、話は丸くおさまるのだから。
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