【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

身代わりの結婚

８

「式の日取りとか、すでに決まっていることの変更は難しいが、できる限り君の希望に沿うと約束する」

「それは兄さんの言い分だ。音羽の気持ちはどこにある？」

　再び声を発した翔君を、まるで余計な口出しはするなとでもいうように碧斗さんが鋭く睨んだ。

　ふたりを仲違いさせかねず、慌ててしまう。

「わ、私は、碧斗さんの言う通りでかまいません。迷惑をかけたのはこちらなのですから、すべてを受け入れます」

　そう言いきって、私を心配してくれる翔君の方を見る。

「翔君、心配してくれてありがとう。そろそろ帰国して日本で活動をしようかと考えていたところだし、タイミング的にもちょうどよかったの」

「本当か？」

　翔君のその問いかけは、なにも私の仕事に関することだけでないとわかっている。
　碧斗さんは長年、私の実の姉と婚約者として過ごしてきた。そんな彼との結婚を受け入れられるのかと、翔君は心配してくれているのだ。

「ええ、本当よ」

　大切な友人に心配をかけたくなくて、しっかりと目を合わせてうなずいた。

　ふと強い視線を感じて、碧斗さんを見る。
　彼は眉間に薄っすらとしわを寄せて若干不快そうな表情をしているが、なにか気に障るような発言をしてしまっただろうか。

「俺は、音羽が傷つくようなことは絶対に許せない」

　緊迫した室内に、翔君の真剣な声が響く。
　非があるのは完全に波川家なのだから、こんなふうに擁護されるのは間違っている。さすがにこの辺りでおさめてくれないかと、視線で訴えた。

「翔君。私はだいじょ……」

「翔に言われるまでもない。俺は、妻になる女性を蔑ろにする気はいっさいない」

　私の言葉を遮って、強い口調で碧斗さんが言いきった。

「もちろん、よい関係をつくれるように歩み寄る努力をする。だから翔。お前に心配されることはないと誓う」

　こんな状況でも碧斗さんはどこまでも誠実で、自分の気持ちよりも私を優先する。

　しばらく睨み合っていたふたりだったが、翔君がふっと表情を緩めたのをきっかけに碧斗さんも緊張を解いた。

「約束だぞ、兄貴」

「ああ」

「音羽。なにかがあったら、いつでも俺に言うんだぞ」

　碧斗さんの目の前でそんな言い方をされても、反応に困ってしまう。曖昧な笑みでやりすごすしかなかった。