冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
7 / 77
第1章 英雄の娘、冒険に出る

006 旧友への報告

しおりを挟む

 エーアステ一家は夕食を取った後、入浴を済ませてきた。

「はあ……疲れた」

 口に出た通り、リーベは疲れ切っていた。

 入浴後は普通、清々しい心地になれるはずだが、エルガーの件で質問攻めに遭ってしまい、一層疲れるハメになった。彼女がこんなげっそりとした気分で風呂屋から帰宅するのはこれが初めてだった。

「そうね。今日は夜更かししないで寝るのよ?」

 口には出さないが、シェーンも行動の節々に疲労が滲んでいた。それに加え悩ましげな目をしている……今回の騒動について責任を感じているのだ。

 娘が気を遣って心配の言葉を掛けようとした時、エルガーがリーベに尋ねる。

「リーベ。今日、ディアンの爺さんは来たか?」

 即答しかねたが、隠し立ては出来そうにないため、正直に答えた。

「……来たよ?」
「そうか……なんか言ってたか?」

 どう答えたものか悩んでいると、「そうか」と手拭いや着替えを娘に押しつけ、家の外に出る。

「悪いが、ちょっと出かけてくる」
「待って!」

 母と声が被ったので、リーベは引いた。

「ディアンさんを尋ねるにしても、こんな夜更けに行く必要は――」
「あの爺さんは昼夜逆転してんだ。それに、今日中に話を付けなきゃなんねえんだ。悪いが先に休んでいてくれ」  

 そう言い残すとエルガーは家の前を去って行った。その後ろ姿が街頭の薄明かりを受けて白む中、シェーンは溜め息交じりに言う。

「仕方ないわね……わたしたちは先に休んでいましょうか」
「……うん」

 ドアを開け、屋内に踏み込みながらリーベは父の去って行った方角を一瞥いちべつした。

 そこに人影はなく、靴音も聞こえてこなかった。

 仕方ないと2階へ上がろうとするが、母がホールに居座る様子を見せた。だからも自分も一緒にとリーベは思ったが、「いつもお寝坊なんだから、早くお休みなさい」と断られた。食い下がろうにも、日頃の行いのせいで致し方なかった。







 
 不承不承、魔法のランプ片手に引き上げてきたリーベを出迎えてくれたのはトイプードルのぬいぐるみだった。暗闇の中、主人の帰りを待っていてくれたこの忠犬はダンクと言う名で、彼女の1番の友達だった。

「ただいま、ダンク~」

 枕元にランプを置き、ダンクをギュッと抱きしめる。
 ダンクは王都有数の職人が縫い上げた名犬で、抱きしめると雲のように柔らかく、本物の犬であるかのようにもふもふだった。

「はあ~……」

(ダメだ。このままじゃ寝ちゃいそう……着替えなきゃ)

 ダンクは男の子という設定のため壁の方を向かせると、リーベは黄色いパジャマに着替える。それからベッドに潜り、ダンクを抱きしめると、抗い難い眠気に襲われ、程なくして夢の世界へと旅立っていった。






……20年前の出来事。
 エルガーたちは魔物の軍勢を迎え撃つべく、徒党を組んでテルドルの南方へと向かった。
 隊を構成するのは冒険者が20人と兵士が30人……これだけ聞けば結構な軍隊に思えるだろうが実際は違う。統率の取れた兵士たちに、クランごとに独立独行する冒険者たちが編成されるのだ。それはまさに烏合の衆で、実際、魔物と遭遇した時には深刻な混乱をきたしたものだ。

『誰が戦うんだ』『アイツらがやるだろう』と、言った具合に役割を押し付け合い、そのせいで大小の怪我を負う者もいた。そんな彼らがどうして魔物の大軍を退けられたのか。

 それはある人物が身を挺して結束を訴えたからだ。

 魔物との緒戦を凌いだ時、彼らはいがみ合っていた。それを仲裁しようとエルガーが無防備に背中を晒したその時、魔物が飛び掛かってきたのだ。

 その窮地から彼を救い出したのは隻腕の画家――ディアンだった。エルガーを庇い右腕が失ったにも関わらず、彼は強靱な精神力をもって、自らの不幸を利用して隊を統一したのだ。

『お前らもこうなりたくなかったら、コイツの指示に従え!』

 ディアンのその言葉は、20年経った今でもエルガーの耳に――そして胸に残っていた。

 彼のお陰でテルドルは守られ、エルガーは愛する人を守ることが出来た。

 故にエルガーは、ディアンこそが真の英雄だと。賞賛を受けるべき人間だと心の底から思っていた。

「……あ」

 夜道を行くエルガーはふと酒場が目に付いた。あの戦いの後でディアンと酒を交わしたあの酒場だった。

 ディアンは利き腕を無くした為に残った左手でジョッキを保持していたが、慣れないせいで何度も零すハメになった。その痛ましい姿を前にエルガーは、罪悪感に押しつぶされそうになった。だからせめてもの慰めになればと、ある誓いを立てた。

『俺がおまえの分まで、死ぬまで戦ってやる』と。

 エルガーは思う。

 ディアンはきっと、自分が戦果を立てることで冒険者としての尊厳を保ってきたのだと……にも拘わらず、エルガーは誓いを反故にした。

 これがどれ程に罪深いことか。

「…………ふっ」

【断罪】と呼ばれた自分が、今まさに断罪されようとしている。

 皮肉な現実を自嘲すると、彼は再び歩き出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...