冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
59 / 96
第1章 英雄の娘、冒険に出る

058 ザ・ミルキー

しおりを挟む
 パウロ宅の斜向いに共同浴場はあった。

 リーベがノックをしてから入ると正面には目隠しの衝立てがあって、その陰では村の女性たちが談笑しながら脱衣を進めていた。

「どちら様?」

 壮齢の女性が発した言葉により、リーベに視線が集まる。

「あの今晩、パウロさんのお宅でお世話になる事になった冒険者なんですけど――」
「ああ!」

 女性は手を打ち合わせた。

「じゃあ、あなたがエルガーさんの娘さん?」
「はい、リーベと言います。よろしくお願いします」

 一礼すると場はざわめき、彼女に向けられる視線は熱烈なものへと変わっていく。

「へえ……こんなに可愛いんだもん。あの人が自慢したくなるのもわかるわ」
「あ、ありがとうございます……」

 気恥ずかしくなって俯いていると、女性は短い声をあげる。

「あ、そうだ。私、パウロの妻のアリサよ。よろしくね?」
「こちらこそ。あの、今晩は――」
「聞いてるわ。冒険者はいつもうちに泊まってくからね」
「そうなんですか。お世話になります」
「ええ」

 アリサは微笑むと「立ち話もあれだし、続きはお風呂でしましょ?」と言う。

「そうですね――あ、すみません。ちょっと色々あってわたし、いま汚いんですけど」
「構わないわよ――ねえ?」

 彼女が周囲に問い掛けると、みんな(鼻を摘まんでいた人も含めて)は「ええ」と同意してくれた。唯一の例外として、年端もいかない少女が「おねーちゃん、くさーい」と無慈悲に言う。

 リーベは周囲の慰めの言葉に乾いた笑みを返しつつも、心の中では泣いていた。






  ライル村は小さな集落であるからして、浴場も相応に小さかった。しかし人数が少ないために窮屈ではないし、設備に関してはテルドルのそれと変わらず、不便は感じなかった。

 今この浴槽に浸かってるリーベを除けば全てこの村の住人である。そんなコミュニティに対し、リーベは当初疎外感を抱いていたが、この村の人間は余所者に対して寛容かんようで、湯船より温かく受け入れてくれた。

 自己紹介や質疑応答を終え、彼女への感心が薄れていった頃、アリサは問う。

「さっきギルドの人がおっきなカエルを運んできてね、私、びっくりしちゃったわ。アレはリーベちゃんが倒したの?」
「いえ、わたしは見学してただけで、アレはおじ――師匠たちが倒したんです」
「というと、ヴァールさんたちが?」

 肯定しつつ、ヴァールたちが度々この村を訪れていた事を思い出した。

「そうそう、ヴァールさんと言えば、もう一人弟子を取ったってパウロに聞いたけど、どんな子なの?」

『子供っぽくて可愛い人ですよ』と言いそうになるが、フロイデの名誉のためにグッと堪え、別の表現を探す。 

「そうですね……とっても強い人なんです。剣も上手で、魔物を見ても動じなくて」
「へえ、頼もしいわね」
「はい! わたし、今日も助けられちゃって――」

 自分の言葉に不甲斐なさを感じ、口籠もる。

(冒険者なんだし、自分の身くらい、自分で守れるようにならないとな……)

「リーベちゃん?」
「あ、すみません」
「よほど疲れてるみたいね。晩ご飯は食べられそう?」
「はい大丈夫です」
「そう。今晩はチーズフォンデュにしようと思うんだけど、どうかしら?」

(ライル村の牛乳を使ったチーズフォンデュ……)

 彼女はごくりと喉を鳴らした。

「おいしそう……!」
「ふふ、決まりね」

 アリサはすくと立ち上がると湯船を出ようとした。

「もう上がっちゃうんですか?」
「料理しなきゃならないからね」
「あ、じゃあわたしもお手伝いさせてください」
「え、でもお客さんだし――」
「わたし、料理大好きなんです!」
「あらそう? ならお願いしちゃおうかしら?」
「任せてください!」

  2人は知り合ったばかりにも拘わらず、親しげに笑みを交わすと一緒に湯船を上がった。







 食卓の中央に置かれた鍋からは湯気と共にミルキーな香りが立ち上っている。

 それはリーベの内で鳴りを潜めつつある子供心をはなはだしくるものであったが、今は人前であるということもあり、彼女は慎んだ。

 その一方で――

「おお……伸びる……!」

 フロイデはフォンデュピックの先端でバゲットにチーズソースがねっとりと絡みつく光景に、無邪気に目を煌めかせていた。

 その様子にアリサは苦笑を浮かべ、『この子が本当に強いの?』と疑問を籠めてリーベに目配せする。

「はは……」

 笑って誤魔化すと、リーベはピックでプチトマトを刺してソースにくぐらせる。

 赤と乳白色のコントラストが素晴らしいそれを口に運ぶ。

 チーズと牛乳の濃厚な風味が口内を見たし、一拍遅れてプチッと、トマトの酸味が弾ける。

「ん! おいしい!」
「初めて食ったが、中々いけるな」

 ヴァールが腸詰めを頬張りながら言うとフェアが続く。

「牛乳で作ったのは初めて食べますが、優しい味わいがして美味しいですね」

 チーズフォンデュは白ワインで作るか、牛乳で作るかで大分味わいが違ってくる。リーベは両方食べたことがあるが、牛乳で作るほうがまろやかで好きだった。

「やっぱり素材が良いと違いますね?」

 パウロに向って言うと彼は穏やかに笑った。

「リーベちゃんは褒めるのが巧いね」
「本当の事を言ってるだけですよ?」
「ははは! そうかい。気に入ってもらえたなら嬉しいよ」
「ほんと。そう言ってもらえるとあの子たちを頑張って育てた甲斐があるわね」

『あの子たち』とは乳牛のことだ。

「牛乳って毎日絞ってるんですか?」
 尋ねるとパウロが「そうだよ」と答えてくれる。
「早朝と夕方の2回採るんだ」
「へえ、早朝かあ~」

 チラリとヴァールを見やると、彼は大きく溜め息をついてパウロに言う。

「明日、コイツに乳搾りやらせてやってくんないか?」
「いいですよ?」
「やった!」

 喜んでるとアリサが尋ねてくる。

「なに、リーベちゃんは乳業に興味があるの?」

  その目は同好の士を見つけたときのそれだった。

 しかし生憎とそうではなかった。若干申し訳なく思いつつも、素直なところを口にする。

「ええと、牛に会うの初めてで、せっかくならやってみたいな~って……」
「ふふ、そんな顔しないで? 好奇心が強いのは良いことよ?」
「アリサさん……」

 彼女の寛大さに胸が温まる中、リーベの隣から物騒な音が響く。

「お、おごっ……!」

 振り向くとフロイデが喉を押さえて悶えていた。

「だ、大丈夫ですか⁉」
「おいマジかよ!」

 一座が騒然とする中、フェアがサッとやって来て、フロイデの腹を左手で押さえながら右手で背中を叩く。するとスポンとプチトマトが飛び出し、彼の取り皿の上に転がった。

「げほ! げほおっ! ……ふう…………」

 彼は真っ赤になった顔を上げると袖で口下を拭いながら振り替える。

「あ、ありがと。フェア」
「いえ。あなたももう子供じゃないんですから、落ち着いて食事をしてください。いいですね?」
「ごめん、なさい……」

 フロイデが俯きがちに謝るとフェアは彼の頭を一撫でしてから席に戻った。

「まったく、騒々しいヤツだな」

 ヴァールに言わせたまま、フロイデは吐き出したトマトを口に戻し、恥じ入るように丹念に咀嚼した。

「まあ大丈夫なら良かったよ」

 パウロが言う。

「トマトは詰まりやすいから、気を付けてね?」
「……うん。気を付ける」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...