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第一章 劈頭編
5話目 東雲あかり(三)
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「本っ当に、申し訳ありませんでした!!!」
そうして、目を覚ました東雲は盛大に謝罪をしたのだった。東雲は見藤に事情を話す。―― 実家が神社であること、霊感体質であること。お守りをくれた祖父のこと、頻繁にお守りをなくしていたこと。
「いやァ。流石の見藤も小娘に顔を見ただけで気絶されたら堪ったもんじゃないな! くはは!」
「いや、さっきのはお前が……」
東雲は話の折々で、ちらちらと見藤に視線を送っていた。まだ怖がられていると思ったのか、見藤は申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。
「霊感体質の人間は、霊や怪異に好かれやすいからな。気を付けるといい。お守りを頻繁に紛失していたのも、その守りが邪魔だったんだろう」
「怖かったわね、もう大丈夫よ」
「霧子さん……!」
冒頭、頭から地面へ倒れこみそうになった東雲を抱きとめ、目覚めるまで介抱した霧子に東雲はすっかり懐いていた。女性同士の安心感もあるのか、霧子と東雲はすっかり打ち解けている。
「まぁ、これでこの件は解決だな」
「そうですね。ありがとうございます、見藤さん」
「久保くんは依頼料天引きだからな」
「えぇー……」
「当然だ」
ソファーの向かいに座っている男二人の会話に霧子はくすくす笑っている。そして、そんな様子を見ていた東雲が、意を決したように口を開く。――その先の爆弾発言を予測できないのは、当然のことだった。
「あ、あの……失礼を承知でお聞きしますが!!! 見藤さんは、ご結婚されていますか!!?? いえ、この際、恋人とか!!??」
「…………………………はい?」
東雲の言葉に一同、目を丸くするのだった。
それから捲し立てるように喋り始める東雲を誰も止められなかった。
「いや、あの、うち実家が神社なんですけど、私一人っ子なものでして……。神社を継いでくれそうな人を探しとるんです!! できれば、霊なんてのが視える人がいいなぁ思うてて!! お祓いとかあるんで!? どうですか、見藤さん!! お婿に来てください!!!」
――なんとも頓珍漢で、熱烈な告白だった。
最後の言葉は、どうですかと聞いておきながら断定的な物言いだ。あまりの熱の入りように、方言が出ていることに東雲は気付いていない。
一同が東雲の剣幕に圧倒され、何も言えずにいる ――。
「どうですか、見藤さん!!!!」
ダァン! とこれまた物凄い勢いで前のめりになり、見藤と東雲を隔てるローテーブルを両手で強く叩いた。
見藤と霧子も、久保でさえ、出会った時の怯えた印象と全く異なる東雲。その姿を目にして、本当に同一人物かと混乱しているようだ。
霊感体質により、暗く俯きがちになっていたために抑圧していた、東雲の本来の行動力。その抑圧が解き放たれ、爆発した彼女の行動力は恐ろしい。
しばらく放心していた一同だったが、真っ先に東雲の言葉を理解したのは見藤だった。あまりの内容に珍しく、慌てふためいている。
「…………え、えぇ!? お断りします!!!」
「なぜですか!!!」
「いや、駄目だ……!!! 俺は犯罪者にはなりたくないぞ!!」
「私、とっくに成人していますよ!!」
「そういう問題じゃないデス……! そもそも、俺は霧子さんを ――」
その先の言葉を噤んでしまった見藤は霧子に助けてくれと目線を送る。だが、霧子は目の前で何が起こっているのか理解できておらず、放心状態で助け船は期待できない。
怪異に遭遇しても平静さを失わない見藤が、東雲の爆弾発言によって右往左往している様子はあまりにもおかしかったようだ。猫宮がケタケタと笑っている。
そんな猫宮を恨めしそうに見やりながらも、見藤は東雲にはっきりと断りを入れる。
「いや……いやいや!! 君の幸せを第一に考えなさい!! 若い行動力が怖い!」
「正直言って、見藤さん。私の好みです!」
「いや、お断りさせて頂きます!!!!」
見藤がはっきりと断ってもこの押し様で、おっさん年甲斐もなく渾身の悲鳴である。
「き、霧子さん!!!」
「はっ……!? そ、そうよ! そういう問題じゃないのよ!」
会話の内容がワンテンポ遅れているが、ようやく覚醒した霧子の参戦である。
「と、とにかく、こいつは駄目よ……!!??」
「どうして霧子さんの方が動揺してるんですか……」
霧子の慌てた様子に、久保の率直な感想は誰も聞いていなかった。
この一連のやり取りをみれば、見藤と霧子の関係性は示されたようなものだが、行動力の化身である東雲には通用しなかった。
「見藤さんと霧子さんはどういったご関係で!!??」
「それ聞いちゃうんだ!!??」
空気を読まない東雲に久保は突っこみを入れるが、そもそも気になっていた見藤と霧子の関係。久保の好奇心も相まって東雲の追及を本気で止める気はなかった。薄情者である。
白黒はっきりと答えを求められた二人だが、見藤は現実逃避をしているのか目を瞑って眉間を押さえている。一方の霧子は顔を赤く染めて「えっと、あの」と、その後に言葉が続かない。
すると、見藤は深い溜め息をつき――。
「まず、そういうことなら君のお眼鏡には敵わない。……残念ながら、霊は視えない。視えるのは怪異の類だけだ」
「え……、でも、お守りのお兄さん……。どうしてですか……?」
「何故かって、言われてもな……」
食い下がる東雲に、説明するのが面倒になった見藤は霧子に視線を送る。
「えっ、それは、その、こいつのことは私が一番よく知っているけど……」
「その言い方は勘弁してくれ……」
再び頭を抱えることになった見藤。――――こうして、怪異相談事務所に賑やかな面子がひとり、増えたのだった。
そうして、目を覚ました東雲は盛大に謝罪をしたのだった。東雲は見藤に事情を話す。―― 実家が神社であること、霊感体質であること。お守りをくれた祖父のこと、頻繁にお守りをなくしていたこと。
「いやァ。流石の見藤も小娘に顔を見ただけで気絶されたら堪ったもんじゃないな! くはは!」
「いや、さっきのはお前が……」
東雲は話の折々で、ちらちらと見藤に視線を送っていた。まだ怖がられていると思ったのか、見藤は申し訳なさそうに眉を下げるだけだった。
「霊感体質の人間は、霊や怪異に好かれやすいからな。気を付けるといい。お守りを頻繁に紛失していたのも、その守りが邪魔だったんだろう」
「怖かったわね、もう大丈夫よ」
「霧子さん……!」
冒頭、頭から地面へ倒れこみそうになった東雲を抱きとめ、目覚めるまで介抱した霧子に東雲はすっかり懐いていた。女性同士の安心感もあるのか、霧子と東雲はすっかり打ち解けている。
「まぁ、これでこの件は解決だな」
「そうですね。ありがとうございます、見藤さん」
「久保くんは依頼料天引きだからな」
「えぇー……」
「当然だ」
ソファーの向かいに座っている男二人の会話に霧子はくすくす笑っている。そして、そんな様子を見ていた東雲が、意を決したように口を開く。――その先の爆弾発言を予測できないのは、当然のことだった。
「あ、あの……失礼を承知でお聞きしますが!!! 見藤さんは、ご結婚されていますか!!?? いえ、この際、恋人とか!!??」
「…………………………はい?」
東雲の言葉に一同、目を丸くするのだった。
それから捲し立てるように喋り始める東雲を誰も止められなかった。
「いや、あの、うち実家が神社なんですけど、私一人っ子なものでして……。神社を継いでくれそうな人を探しとるんです!! できれば、霊なんてのが視える人がいいなぁ思うてて!! お祓いとかあるんで!? どうですか、見藤さん!! お婿に来てください!!!」
――なんとも頓珍漢で、熱烈な告白だった。
最後の言葉は、どうですかと聞いておきながら断定的な物言いだ。あまりの熱の入りように、方言が出ていることに東雲は気付いていない。
一同が東雲の剣幕に圧倒され、何も言えずにいる ――。
「どうですか、見藤さん!!!!」
ダァン! とこれまた物凄い勢いで前のめりになり、見藤と東雲を隔てるローテーブルを両手で強く叩いた。
見藤と霧子も、久保でさえ、出会った時の怯えた印象と全く異なる東雲。その姿を目にして、本当に同一人物かと混乱しているようだ。
霊感体質により、暗く俯きがちになっていたために抑圧していた、東雲の本来の行動力。その抑圧が解き放たれ、爆発した彼女の行動力は恐ろしい。
しばらく放心していた一同だったが、真っ先に東雲の言葉を理解したのは見藤だった。あまりの内容に珍しく、慌てふためいている。
「…………え、えぇ!? お断りします!!!」
「なぜですか!!!」
「いや、駄目だ……!!! 俺は犯罪者にはなりたくないぞ!!」
「私、とっくに成人していますよ!!」
「そういう問題じゃないデス……! そもそも、俺は霧子さんを ――」
その先の言葉を噤んでしまった見藤は霧子に助けてくれと目線を送る。だが、霧子は目の前で何が起こっているのか理解できておらず、放心状態で助け船は期待できない。
怪異に遭遇しても平静さを失わない見藤が、東雲の爆弾発言によって右往左往している様子はあまりにもおかしかったようだ。猫宮がケタケタと笑っている。
そんな猫宮を恨めしそうに見やりながらも、見藤は東雲にはっきりと断りを入れる。
「いや……いやいや!! 君の幸せを第一に考えなさい!! 若い行動力が怖い!」
「正直言って、見藤さん。私の好みです!」
「いや、お断りさせて頂きます!!!!」
見藤がはっきりと断ってもこの押し様で、おっさん年甲斐もなく渾身の悲鳴である。
「き、霧子さん!!!」
「はっ……!? そ、そうよ! そういう問題じゃないのよ!」
会話の内容がワンテンポ遅れているが、ようやく覚醒した霧子の参戦である。
「と、とにかく、こいつは駄目よ……!!??」
「どうして霧子さんの方が動揺してるんですか……」
霧子の慌てた様子に、久保の率直な感想は誰も聞いていなかった。
この一連のやり取りをみれば、見藤と霧子の関係性は示されたようなものだが、行動力の化身である東雲には通用しなかった。
「見藤さんと霧子さんはどういったご関係で!!??」
「それ聞いちゃうんだ!!??」
空気を読まない東雲に久保は突っこみを入れるが、そもそも気になっていた見藤と霧子の関係。久保の好奇心も相まって東雲の追及を本気で止める気はなかった。薄情者である。
白黒はっきりと答えを求められた二人だが、見藤は現実逃避をしているのか目を瞑って眉間を押さえている。一方の霧子は顔を赤く染めて「えっと、あの」と、その後に言葉が続かない。
すると、見藤は深い溜め息をつき――。
「まず、そういうことなら君のお眼鏡には敵わない。……残念ながら、霊は視えない。視えるのは怪異の類だけだ」
「え……、でも、お守りのお兄さん……。どうしてですか……?」
「何故かって、言われてもな……」
食い下がる東雲に、説明するのが面倒になった見藤は霧子に視線を送る。
「えっ、それは、その、こいつのことは私が一番よく知っているけど……」
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