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第5話「再びの奇行」
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そもそも、あの男はいつから図書館に出入りするようになったのだろう。
歩きながら、僕は記憶を掘り起こしてみる。図書館での勉強を始めたのが約二ヶ月前。でも、彼を見かけた記憶はない。というか、一度見たら忘れたくても忘れられないだろう。
僕が図書館に行くのは、塾がない月曜・水曜・木曜。多くても週三日で、週によっては――たとえば都築たちと遊んだりして――減ることもある。ふだんは僕が行かない曜日に来ていて、昨日だけたまたま居たという可能性も考えられなくはないけれど、いまひとつピンとこない。
だいたい、なんで平日の真っ昼間からあんな場所でくつろいでいるのだろう。
大人の男なら普通、平日は仕事に行っているはずだ。小学生の僕でさえ、土曜日と日曜日以外は毎日夕方まで学校に行っているというのに、あの男の暇そうな様子はどういうことだろう。とにかく、もう一度探ってみないことには始まらない。
二階へ上がってすぐに確認したかったが、もしまた居たらとても勉強どころではない。だから先に地下一階へ行き、大人たちに混ざって自習をした。今日は加齢臭が抑えめで、落ち着いてできそうだ。
三十分ほど社会の暗記物に取り組んだけれど、結局、あの男のことが気になって集中できなかった。もしこの先も出くわすようなら、勉強場所そのものを変えなければならないかもしれない。
一ページ終えたところで、僕は自習をあきらめた。
二階に行くと、やはり男は居た。しかも昨日と同じ場所に、同じ格好で寝そべっている。
口元がゆるんでいて、遠くから見てもごきげんな様子がわかる。こっちは受験勉強で忙しくしているというのに、まったく気楽なもんだ。
本を探すふりをして、うしろから近付いてみる。昨日と同じくらいまで距離をつめて耳をそばだてると、例の言葉たちを繰り返していた。
「トラック行っちゃった」
「CD再生」
「カセットテープ」
「府中病院」
昨日は気付かなかったけれど、これらの言葉に合わせて本のページをめくる音も聞こえてきた。どうやら、それぞれのページを見ながら声に出しているようだ。
十回ほど続いたところで、ぴたりと声がやんだ。
本を触る音もしなくなり、例の不気味な静寂が訪れる。一、二、三……とりあえず、内心でカウントしてみる。
十五数えたところで男は立ち上がり、どたどたと大股で走り出した。
ただ事ではないと思い、身体が勝手に彼のあとを追う。昨日はあんなに怖気付いていたというのに、自分で自分にびっくりだ。
どこに行くのかと思えば、階段の横のトイレだった。ばたんと派手な音をさせて扉が閉まる。
「トイレかよ」
半笑いをうかべながら、思わずつぶやいた。
歩きながら、僕は記憶を掘り起こしてみる。図書館での勉強を始めたのが約二ヶ月前。でも、彼を見かけた記憶はない。というか、一度見たら忘れたくても忘れられないだろう。
僕が図書館に行くのは、塾がない月曜・水曜・木曜。多くても週三日で、週によっては――たとえば都築たちと遊んだりして――減ることもある。ふだんは僕が行かない曜日に来ていて、昨日だけたまたま居たという可能性も考えられなくはないけれど、いまひとつピンとこない。
だいたい、なんで平日の真っ昼間からあんな場所でくつろいでいるのだろう。
大人の男なら普通、平日は仕事に行っているはずだ。小学生の僕でさえ、土曜日と日曜日以外は毎日夕方まで学校に行っているというのに、あの男の暇そうな様子はどういうことだろう。とにかく、もう一度探ってみないことには始まらない。
二階へ上がってすぐに確認したかったが、もしまた居たらとても勉強どころではない。だから先に地下一階へ行き、大人たちに混ざって自習をした。今日は加齢臭が抑えめで、落ち着いてできそうだ。
三十分ほど社会の暗記物に取り組んだけれど、結局、あの男のことが気になって集中できなかった。もしこの先も出くわすようなら、勉強場所そのものを変えなければならないかもしれない。
一ページ終えたところで、僕は自習をあきらめた。
二階に行くと、やはり男は居た。しかも昨日と同じ場所に、同じ格好で寝そべっている。
口元がゆるんでいて、遠くから見てもごきげんな様子がわかる。こっちは受験勉強で忙しくしているというのに、まったく気楽なもんだ。
本を探すふりをして、うしろから近付いてみる。昨日と同じくらいまで距離をつめて耳をそばだてると、例の言葉たちを繰り返していた。
「トラック行っちゃった」
「CD再生」
「カセットテープ」
「府中病院」
昨日は気付かなかったけれど、これらの言葉に合わせて本のページをめくる音も聞こえてきた。どうやら、それぞれのページを見ながら声に出しているようだ。
十回ほど続いたところで、ぴたりと声がやんだ。
本を触る音もしなくなり、例の不気味な静寂が訪れる。一、二、三……とりあえず、内心でカウントしてみる。
十五数えたところで男は立ち上がり、どたどたと大股で走り出した。
ただ事ではないと思い、身体が勝手に彼のあとを追う。昨日はあんなに怖気付いていたというのに、自分で自分にびっくりだ。
どこに行くのかと思えば、階段の横のトイレだった。ばたんと派手な音をさせて扉が閉まる。
「トイレかよ」
半笑いをうかべながら、思わずつぶやいた。
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