従者の愛と葛藤の日々

紀村 紀壱

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7話 本当の嵐はまだ先 8*

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 アレはそう、店の会計カウンターの奥。
 無表情を貫く店員の背後に鎮座する、重厚な作りの鍵付き商品棚に並んでいた。


『あー、一応、ここは安全性に信用がある店だから、うん。将来的にさ……まあ、検討するときには』
 アルグとの初接触によって発熱したルスターを診たオーグが、歯切れ悪く渡してきたメモには、とある店名と住所が記されていた。
 それは世に言うベッドでの営みをスムーズにするためのお供……つまりは潤滑油となる香油や、軟膏、張型からアロマなどを各種扱う店で。オーグの気遣いに顔から火を噴きそうになりつつ、医者が認める所ならばと足を運んだ。
 ルスターとアルグの立場を考慮した上でのピックアップだったのだろう。
 こぢんまりとしていながらも調度品は品良くまとまり、表向きは一般的な薬品を扱っているようにカモフラージュされた店舗は、やや身分を気にする必要がある客層を対象としている様で。
 酷く事務的な接客態度は客をあれこれ詮索しないというポーズらしく。初見だと察するとカタログを差し出し、すぐに定位置へと戻るぐらいの素っ気なさは逆に気を抜く事ができたほどだ。
 そうして、ルスターが「準備に必要なモノ」を一揃い購入した時にだ。
 カウンター奥のガラス戸棚に並ぶ、また一段と豪奢な装いの香油や軟膏と書かれたラベルのついた商品。その値札が視界に入り、次いで記載されたゼロの多さに思わず目を瞬かせた。
 そんなルスターに気づいたのだろう店員は、会計をしながらすっと一枚の商品説明を言葉なく差し出す。
 手元に滑らされたチラシに自然と目を落として、なるほど、とルスターは心のなかで納得の声を上げた。
 カウンターの奥に並ぶそれらは、世に言う魔道具薬マジックポーションの類いだ。
 耳にすることぐらいならある回復薬ヒーリングポーションでさえ、専門店でなければお目にかかれない貴重なそれに、珍しいモノを見たと、魔道具薬ならばこの値段も妥当なのだろうと、その時は思って。
 チラシは持ち帰ることもなく返却した。
 魔道具薬の効能は男女共通に上手くいかぬ苦痛やらを取り払う物で、初心者には魅力的に見えたが、いかんせん値段が高すぎた。
 売り文句には男性なら一度は耳にしたことがある高級娼館の太鼓判が押されている。
 しかし目に留まった、ちんまりとした手のひらサイズの香油一瓶で、庶民に一般的な宿に食事付きで一ヶ月は泊まれる程の価格だ。
 アレで1回分なのだろうか。
 適正量はよく分からないが、上手く使っても2回利用できるか否かというところだろう。
 いくら何でも、消耗品にそんなお金は払えない。
 そんな訳で、今後の自分には縁のないものだと、ルスターは頭の中からその記憶をさっさと追い出したのだ。



 だが、アルグの取り出したアレはまさしく、あの棚の中に陳列されていた――



「ひっ!?」
 半ば現実逃避のような思考が、突如襲ってきた刺激に強制的に引き戻される。
「あっ、……なっ、ぅくっ……!」
 いつの間にか、アルグの手がルスターのペニスをまた掴んでいる。
 手で筒を作って擦られれば、精液と先走りで濡れたソレはくちゅくちゅと湿った音を立てて。
 先ほども与えられた直接的な刺激は、2度目ならもっと鈍くなって良いはずで。むしろ、ルスターのペニスはやんわりとしたままで、固さを取り戻せていない、にもかかわらず。
「だっ、ぇ、っ……っも、もぅ……ぅ、あ、あっ」
「気持ちいいか? 『中も』うねってきている」
 おかしい。
 こんなのはおかしい。
 アルグがモノをしごく手は決して乱暴な訳ではないのに、ゆるゆるとした手管にも絶頂に近い感覚がひっきりなしに脳を揺すぶってくる。さすられる程度の動きに身を震わせて、たらたらと情けなくルスターのペニスはカウパーを漏らす。
 過ぎた快感に腰が溶けていくような錯覚に恐怖して、頭を振って必死に制止を訴えるが、そんなルスターにアルグは満足げな眼差しを落としながら。
「ぁ"!?」
「ここか」
 ルスターは頭の後ろで、まるで静電気が弾けたような。バチッとした痛みのようなものを一瞬、感じた気がした。
「いっ……あ、あ、あ"っ!?」
 馴染ませるように腹の中をゆっくりと蠢めいていた指が、くにくにと胎内の一点、前立腺を揉むように動かされる。
 その度に前をしごかれているのとはまた違う、ジンジンとした甘い痺れが背骨から脳髄へと駆け上がった。
 自分がした時とは天と地ほど違う。後孔へ含まされた指に違和感なんて感じる暇もない。
「すごいな……ココが良いのか?」
 アルグが歪む口元を耐えるように唇を舐める。
 中で動かされる度にルスターの口から押し出されるように引きつった声が飛び出す。
(ソコは駄目、駄目です――!!)
 無意識に止めようとルスターは手を伸ばそうとするが、力が入らぬ腕は上げることも出来ずに指はシーツを引っ掻くばかりだ。
「随分と、柔らかくなった。指を増やしても大丈夫だろうか」
 アルグは自分の指を根元まで受け入れたルスターのアヌスを恍惚とした眼差しで見つめながら尋ねるが、かけられる言葉をルスターはもはや正しく認識することが出来ない。
 気持ちよいのに恐ろしい。知らない快楽が思考を白濁させてゆく。
 指を引き抜けば、咥えるモノがなくなったアナルがくぱくぱと何かを探すようにその口を開閉する。
 今宵で使い切ってしまっても構わないというように、アルグは惜しげもなく軟膏をすくい取る。
 たっぷりとソレをまぶした指を2本揃えて押しつければ、数刻前まで慎ましかった蕾みは、しゃぶるように柔軟に指を飲み込んでいく。
「っぁ……」
「痛いか?」
 アルグの言葉にルスターはただただ、無自覚に首を横に振る。
 指が潜り込む感覚には痛みもなく、ただむず痒ゆいような疼きを覚える胎をこすられる気持ちよさだ。
 中へ軟膏が塗り込められてゆくたびに頭が蕩けてゆく。
 すっかり薬にまみれたソコは勝手に収縮してアルグの指を締め付ける。
 入れられた指の凹凸を感じるのが恥ずしくて仕方がないのに、相反するようにその形を無意識に追ってたまらなく感じる。
 中で指を軽く曲げられて、前立腺を押したまま揺すられると駄目だ。
 視界が滲む。頭の後ろがじゅわじゅわと溶けている感覚がする。
「は、ぁ……あ、あっ、ん、あっ、あっ……!」
 唾液が溢れて、飲み込む余裕すらない。
「気持ちが良いか?」
 アルグの問いに、ルスターはもう限界だと伝え、首を縦に振ってはいけないとぼんやりと思うが、実際は聞くに堪えないはしたない嬌声が口から漏れただけだ。
 何度も何度も、アルグは惜しげもなく軟膏をすくい取って中へしつこく塗り込める。
 既に、アルグの片方の手はルスターのペニスを手放している。
 にもかかわらず、ルスターは途切れない快楽に悶え、中の指の動きを止めればゆらゆらと、うっすら自分で腰をゆらめかせてしまっていることすら気づかない。
 それをアルグだけが見ていた。
 指が容赦なく中をこねくり回す度に、頭の中で何かが『このままではマズイ』と訴えるのに、もはやどうしたらいいのか分からない。
 腹の中が熱くて重い。
 いつの間にか増やされた指が何本、後ろへ潜り込んでいるのか、ルスターは知らない。
 もう、何をされても気持ちが良い。
 指が中を掻き回す度に頭の中まで弄くられるようだった。
 何か尋ねてくるアルグに、助けを求めるように頷く。
 どうか、早く終わらせて欲しい。
 そんな言葉を上手く言えたかは分からないが、震える唇で必死に紡げば、後ろから指が引き抜かれた。
 ソレは望んでいた『お終い』のはずなのに、ルスターの下腹はきゅうっとざわめいて。
(なんで――)
 濁った意識のまま混乱する。
 自分を乱す指が去ったというのに何故、こんなにも疼きがおさまらないのか。
 自身の身体の異変に戸惑うルスターをよそに。
 アルグの体がずいっとルスターの身に寄せられる。
 ルスターの膝の裏にアルグの腕が差し込まれ、持ち上げられて腰が浮いた。
 腰の下にクッションが押し込まれ、『この体勢は一体』と、ようやくルスターの頭が思い始めたところで。
 くちゅっと湿った音を立てて、何かが後ろにあてがわれる。
「……?」
 視線を落とすと、アルグがいつの間にか前をくつろげていた。
 曝け出されたモノが、以前見た時と同じように怒張して、そしてその先端がどこへ向けられているのか気がついた、瞬間。
「――っぁあ"!?」
 ぐぶっと、指とは違う質量が押し込まれる音が身体の内側から聞こえた。
 無意識に身体が逃げようと悶えるが、体勢は既にどこにも逃げ道を与えぬもので。体重をかけるように、腹の中へずりずりと侵入してくるソレは熱くて、前立腺をずっとすり潰して更に奥へと潜り込んでくる。
「っぅ、ん、っぐ……ぁ"、ぁっ……」
 ルスターの足が痙攣して、踵がアルグの腰を叩く。
 入り口の皺は目一杯引き伸ばされながらも、一晩であり得ないほど柔軟になったソコは、遠慮など知らぬように奥へ、奥へと潜り込もうとするアルグを飲み込んでゆく。
「は、すごいな……だが、まだ……全部は、無理、か……」
 はぁはぁと、荒い吐息が頬を撫でる。
 アルグの動きが止まって、いつの間にかつぶっていた目を開ければ、苦しそうに眉を寄せながらも口の端が愉悦に歪んだ顔が、滲んだ視界の先に見えた。
「っぁ……」
 腹の中で。
 ドクドクと自分とは違う脈動がする。
 中へと入り込んでくる衝撃が落ち着くと、己の中に一体何があるのか、その事実にルスターは気がついて。
(入って、いる。アレが。……まさか本当に、中に、アルグ様の――)
 中に感じるとてつもない圧迫感。しかしながら痛みはなく。
 それどころか、己の胎が押し広げるアルグの形にゆるりと馴染み始めてゆくのを感じ取り始めて。
 信じられない事実にルスターは目を見開いたまま固まるが。
 中にいるアルグはルスターよりもその変化をいち早く読み取って。
 ごくり、とアルグの喉が鳴った。
「ひ、ぅ~~、ぁ"、っあぁ!?」
 ゆっくりと、腰を使い出したアルグにルスターがひきつった悲鳴を上げた。
 ルスターの前立腺を押すように出し入れすれば、触れていないのに、ペニスが涙を零し、ルスターの口から漏れる声が蕩けた。
 じゅわっと頭の中が溶けて崩れる。
 これ以上動いて欲しくないが、もっと動いて欲しい。
 動きを止めたいような、それでいてもっと中に留まって欲しいような。
 ルスターの足が無意識にアルグの腰を挟んで締め付ける。
 本人にはその気は全くないが、アルグにとってはまるで誘うような動きに。
「っ、……くそっ」
 アルグは焦ったような声を漏らすと、ルスターの腰を強く掴み直した。
「あ"っ、ぁ"っ!?」
 緩やかだった律動が早くなって、肌がぶつかる音が響く。
 前立腺を押し潰され、奥へ奥へと入り込もうとする熱杭に、ルスターはなすすべもなく。
 背がしなり、足先がピンと伸びて宙をかいた。
「ぐぅっ……」
 低い呻き声と共にアルグに抱きしめられて、ぐうっと腰が押し付けられる。
 アルグの腹と己の腹でルスターのペニスがもみ潰されて、その刺激で達する。
 同時に、腹の中が熱く濡れたのを感じた――のを最後にして。
 ルスターの意識はそのまま深く闇の中へ落ちていったのだった。




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