またねの鶴

窓野枠

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第3章 高校生時代

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「……誰かと、また話せるなんて、思ってなかった」

それは、10年分の沈黙を破った、本音だった。

誰もいない放課後の教室。オレンジの陽がプリントの上に差し込むなか、ふたりは作業を続けるようになった。

「ごめん、遅れた!」

ある日、駆け込んできたあかねが息を弾ませながら机に近づく。真一はすでにレイアウト案を広げ、原稿のチェックをしていた。

「このページ、少し直した」

手渡された原稿には、生徒たちの姿がありありと浮かぶような文章が並んでいた。冷たい説明ではなく、言葉に温度があった。

──『光の向こうに跳ねたボール。そのとき誰かが笑っていた。そんな一瞬を、僕たちは一生覚えているかもしれない』──

「……なにこれ……」

あかねはプリントを一枚ずつ見ていき、やがて顔を覆って泣いた。

「違う、すごいよ。すごすぎて……泣いちゃった」

袖で涙を拭いながら、少し笑う。

「ねぇ、大川くん。これ、小説にしてみたら? 短くてもいい。あなたが見てるもの、言葉にしたら、絶対に届くって思う」

「小説……書けるかな」

「書けるよ。もう書けてる。パンフで私、泣いたんだよ。本気で。……読みたい、あなたの物語を」

その夜、真一は机に向かい、しまってあった“またねの鶴”を取り出す。「また、いつか」の言葉が、彼に語りかけるようだった。

 彼は鉛筆を取り、白い原稿用紙に書き出した。

──「またね」と言って手を振ったあの子の、声を、ぼくはまだ、忘れていない──

静かな夜、遥に向けた最初の物語が、そっと始まった。
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