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第27章 大和田純子と高橋源三郎

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「あ、ありがとうございます。足がもつれてしまって」
 そう言った純子はたった今、愚行を反省したはずなのに、高橋の顔を真剣に見つめてしまった。純子は役所から賞状の入った筒を持って玄関を出た。
「なんで高橋さんをにらんだの? 印象、悪くしたわね」
 そうつぶやいた純子は固まって空を見上げながら立ち止まった。
「高橋さんとはもう会うことはないのね。えぇっ? なんであの方の名前を知っているの? どうして?」
 頭脳明せきな純子は高橋に一目ぼれしていたことを冷静に分析できていなかった。
「なんで?」
 純子はその場で考えていた。高橋に体を抱かれたとき、彼女の能力が高橋との運命的な引力を感じた。

  *

 高橋が純子にひかれてしまう切っ掛けは、二人が区長室で出会ったときから始まっていた。その後、純子は京王大学に現役で合格し大学生活を楽しんでいた。将来の仕事は既に決まっていた。特別区採用試験に合格し、高橋のいるK区の仕事に就くことだ。
 試験会場の前日、高橋は臨時試験会場となった京王大学で、会場事務の責任者として出張していた。高橋はスタッフに会場の準備を指示していた。その姿を、大学に在籍していた大和田純子が遠くから見ていた。
「フフフ…… 高橋さん…… こんな所で会えるなんて、奇跡ね」
 純子が高橋との再会を喜んでいた。彼はここから、夜の人格・潤子に洗脳されていくことを予想もしていなかった。
 純子は採用試験中、試験会場のスタッフの責任者として従事していた高橋の一挙手一投足を遠くで見つめていた。そのときの純子の顔は区長室で高橋に初めて抱かれたときと同じ高揚感があった。
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