銀の花と銀の月

JUN

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迷宮探索

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 ユーリ達も、迷宮に潜る事はしている。迷宮産の食物は美味しいので、銀花楼としてもありがたいのだ。
 装備を整えて迷宮に向かうと、どこから聞いたのか、もうナジムの噂が漏れ、ユーリを見て囁き合う探索者達がいた。
「あ」
 エマたち虹の鳥もいたが、流石にカイも構う余裕がなく、エマも固い表情をしている。
「行こうぜ。まずは急いで地底湖まで行かないと、話にもならねえ」
 それでユーリ達は、迷宮に入った。
 雑魚は無視し、いつもなら美味しいからと採取する洞窟キノコにも目をくれないで、ひたすら進む。
 そうして、これという敵にあった時だけ倒し、最速で地底湖を目指した。
「着いたぞ」
 地底湖のあるこのフロアは、他とは違い、フロアがまるごとひとつのエリアで、壁や通路がない。湖があり、上からの階段と下への階段が付いている。それだけだ。
 しかしどこからともなく、ワニの魔物の群れや大カエルが現れては、襲って来る。
 透明アンコウに挑むという事は、この邪魔をする魔物達の排除も含まれるのだ。
「ワニやカエルは、魔術や剣の方が相性がいい。そっちは頼むぞ、ジン」
 魔銃剣をにじり寄って来るワニに向けて言うユーリに、ジンはボディバッグから竿とルアーを取り出して、
「わかった。頑張るよ!」
と請け負った。
「まずは沈めてみようかな」
 シンカータイプを付けて投げ、少し待ってはリールを巻くのを繰り返す。
「ようし、片付いたぜ」
 カイとユーリもワニの魔物を片付け、いそいそと竿を取り出して釣り始めた。
「根がかりに注意しないとな。底は岩礁だからな」
「あ、何か来た」
 カイの竿にあたりがあり、ピクピクと軽く引かれた――と、グイッと強く引かれ、竿が曲がる。
「乗ったぜ!」
「ばらすなよ!」
 糸は丈夫な大クモの糸だ。そうそう切れる事はないはずだが、油断はできないし、針が口から外れる事はある。
「緩めるなよ、抜けるよ」
「もうちょい、もうちょい」
 ハラハラしながら、カイの竿の先にかかった魚が上がって来るのを待つ。
 と、ぼんやりと見えて来た。
「あ、上がってきた!」
 ユーリが言い、
「おお、でっかいガシラだぜ!」
「これは立派だね!刺身もいいけど、お勧めは断然煮付けだよ!」
 喜んでタモですくって上げ、針から外したところでハッとした。
「そうだった。透明だから、上がって来た時に姿が見える時点でダメなんだよ」
 カイが肩を落とす。
 が、ジンが声を張り上げた。
「まだまだ始めたばかりだよ!これはこれで美味しいんだから、ドンマイ、ドンマイ!」
「そ、そうだよな。よし!次こそは!」
「ようし、気を取り直していくぞ!」
 3人は再びルアーを投げ、何かが襲って来た時は置き竿をして対処し、ひたすら釣りを続けた。

 誘い方を変えたり、ルアーの種類や色や重さを変えたり、匂いを付けてみたり、色々、手を変え品を変え、透明アンコウを狙う。
 ここにいるのは確認されているのだ。
「どこにいるんだよぉ」
「湖の中に潜って確認したいぜ」
「潜ったところで、透明アンコウは見えないだろうと思うよ、カイ」
「そうだった、チクショウ!」
 カイとジンが言い合うのを、カニの魔物を倒したユーリが聞いていた。
「そうだよなあ。どこにいるのかわかればなあ」
 湖は直径300メートルほどある。浅い所も深い所もあるし、どこにいるのかわかったらありがたい。透明アンコウは、いるとはいえ、ゴロゴロいるわけではない。捕り方が難しくて幻の魚と言われるだけでなく、個体数も多くはないので、幻なのだ。
 カニやほかの魚はなかなかの釣果と言えるが、肝心の透明アンコウが釣れなければ意味がない。
「場所か。場所ねえ」
 ユーリはフムと考えこんだ。
「たぶん、魔力は大きいよな」
「うん?うん、たぶんね」
「じゃあ、探ってみるか」
 湖の中を、探査する。
 小さい魔力がわらわらと群れていたり、そこそこの魔力のものが移動していたりする。その中で魔力の大きいものに絞ってみる。
「カイの正面から右へ15度、距離12メートルあたりの所の水深21メートルのところに大きい魔力反応がひとつ。あと、そこの岩の真下、底付近にもひとつ。それから中央あたりの水深25メートル付近にもひとつ。それが大きい魔力反応かな」
 それでカイとジンはすぐにそのポイントを狙ってルアーを投げ、ユーリも残った中央の反応目指して投げた。
 あと4日。帰るのにかかる時間を考えると、2日半。



 
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