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自由な不自由
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「みんなおかしいよ。ここから20年出られないか、一生出られないのに。笑って、客の相手して、楽しそうに。嫌な客だっているのに。おかしいだろ」
マシスは、小さいが思いつめた声音でそう言う。
「ユーリもジルラもフルイエもセレムの子なんだろ。ジルラは遊妓が産んだ子で、ユーリとフルイエが捨て子って聞いた。それなのに、ユーリは魔術の才能があるからって探索者になって自由にできて、ジルラもフルイエも平気そうに笑って。
僕にはわからない。何で僕には何もなかったんだよ。何でうちの商会は潰れたんだよ。
みんなが僕みたいに苦しめばいいんだ。全員苦しかったら、皆一緒で平気だ」
そう言って、いきなり腕を突き出す。
一般人ならそれで刺されたかもわからないが、仮にも探索者だ。駆け出しでも、反応する。
そしてマシスも、避けられることが想像に中にあったらしい。弱々しく笑った。
「ほら。なんて事無しに、避けちゃうんだ。
ああ。もう嫌だ。父も愛人も義理の妹も逃げちゃって。僕だって逃げていいよね」
言って、自分の首に斬りつける。
噴水のように血が吹き出した。
「マシス!?バカが!」
下げていた魔銃剣のレバーを治癒に合わせ、引き金を引く。
意外と深い。ためらうことなく、一気に頸動脈を斬っている。なので、もう1発。
「おい、マシス。聞こえるか」
ユーリが呼びかけると、マシスは目を開け、瞬きをしてから首に手をやり、傷口がないのに気付いて目を見開いた。
「何で――あ、治癒」
ユーリは軽く安堵の息をついた。
「ためらいなく深々と、まあ」
「なんで助けた!?」
「普通、助けるだろう?」
「もう一度やるから、今度は手を出すなよ」
「痛かっただろう?血が、もう凄い出てたなあ。太い血管も、気管も切れていて、こう、脈動の度にドクドクと溢れるし、呼吸の度に空気が漏れて変な音が出るし。
あ、傷は塞がったけど、かなりの貧血になってるからな」
ユーリが状況を済ました顔で言う度に、マシスの顔色はいよいよ悪くなり、ナイフを持つ手が震え出す。
「な、な、何でそんな事言うんだよ」
「だって、自分の事だしな」
「そ、そんな事聞いたら……」
「怖くなったか」
マシスがギクリと動きを止め、ユーリを見た。
「こ、怖くなんかない!やってやる!」
ユーリはそれまでの無表情じみた表情を引き締めた。
「ふざけるな!何度でも治癒しまくってやる。それで毎回事細かにレポートしてやるかなら」
「嫌がらせか!」
「その通り」
マシスはユーリを睨みつけ、ユーリは嘆息して廊下の床の上に座り込んだ。
「ここの遊妓達は明るく振る舞ってるよ。でも、悲しくないわけも、辛くないわけもないだろ。それでも、20年をどう生きるかは自分次第だ。年季が明けて、それまでに覚え、蓄えたものを糧に次の仕事をするやつもいる。ここにいる間に相手を見付けて、落籍されて結婚するやつもいる。後輩の面倒を見たり、差配する仕事に就くやつもいれば、全くかけ離れた事を始めるやつもいる。
ここはそんな街で、そんな人間ばかりだ。
ここに来る事になったのは、お前には選べなかった事だろう。でも、ここでどう生きるか、この後どう生きるかはお前の自由だ。
お前は、鳥かごの不自由な鳥じゃない。いずれはその扉が開く。ここで何を考えるか、何をするかは、お前の自由だ」
マシスは俯いて考え込んだ。そして、しばらくしてから口を開く。
「ユーリも、そうやってるのか?」
それにユーリは淡々と答えた。
「いや。俺やジルラはセレムの子だからな。生き方を決める事はできない。一生ここで過ごすからな。
俺はたまたま魔術が使えたから他とは違って見えるけど、生き方を選んだことは一度もないぞ。義務だから行けと言われて高等学校へ行き、入団しろと言われたから魔術団の入団試験を受けた。そして探索者をしろと言われたから続けている。
楽しんだりするのは、俺の勝手だけどな」
マシスは
「そうか」
と言って立ち上がると、ふらついて壁に手をついた。
「わかった。悪かったな」
そして、フラフラと部屋へ向かって歩く。
「貧血だからな。造血作用のあるもん、食えよ」
ユーリはそう声をかけてから、足元を見た。
「あれ?ここの掃除、俺がやるの?」
頭を掻いて、掃除道具を取りに反対方向へ歩き出した。
マシスは、小さいが思いつめた声音でそう言う。
「ユーリもジルラもフルイエもセレムの子なんだろ。ジルラは遊妓が産んだ子で、ユーリとフルイエが捨て子って聞いた。それなのに、ユーリは魔術の才能があるからって探索者になって自由にできて、ジルラもフルイエも平気そうに笑って。
僕にはわからない。何で僕には何もなかったんだよ。何でうちの商会は潰れたんだよ。
みんなが僕みたいに苦しめばいいんだ。全員苦しかったら、皆一緒で平気だ」
そう言って、いきなり腕を突き出す。
一般人ならそれで刺されたかもわからないが、仮にも探索者だ。駆け出しでも、反応する。
そしてマシスも、避けられることが想像に中にあったらしい。弱々しく笑った。
「ほら。なんて事無しに、避けちゃうんだ。
ああ。もう嫌だ。父も愛人も義理の妹も逃げちゃって。僕だって逃げていいよね」
言って、自分の首に斬りつける。
噴水のように血が吹き出した。
「マシス!?バカが!」
下げていた魔銃剣のレバーを治癒に合わせ、引き金を引く。
意外と深い。ためらうことなく、一気に頸動脈を斬っている。なので、もう1発。
「おい、マシス。聞こえるか」
ユーリが呼びかけると、マシスは目を開け、瞬きをしてから首に手をやり、傷口がないのに気付いて目を見開いた。
「何で――あ、治癒」
ユーリは軽く安堵の息をついた。
「ためらいなく深々と、まあ」
「なんで助けた!?」
「普通、助けるだろう?」
「もう一度やるから、今度は手を出すなよ」
「痛かっただろう?血が、もう凄い出てたなあ。太い血管も、気管も切れていて、こう、脈動の度にドクドクと溢れるし、呼吸の度に空気が漏れて変な音が出るし。
あ、傷は塞がったけど、かなりの貧血になってるからな」
ユーリが状況を済ました顔で言う度に、マシスの顔色はいよいよ悪くなり、ナイフを持つ手が震え出す。
「な、な、何でそんな事言うんだよ」
「だって、自分の事だしな」
「そ、そんな事聞いたら……」
「怖くなったか」
マシスがギクリと動きを止め、ユーリを見た。
「こ、怖くなんかない!やってやる!」
ユーリはそれまでの無表情じみた表情を引き締めた。
「ふざけるな!何度でも治癒しまくってやる。それで毎回事細かにレポートしてやるかなら」
「嫌がらせか!」
「その通り」
マシスはユーリを睨みつけ、ユーリは嘆息して廊下の床の上に座り込んだ。
「ここの遊妓達は明るく振る舞ってるよ。でも、悲しくないわけも、辛くないわけもないだろ。それでも、20年をどう生きるかは自分次第だ。年季が明けて、それまでに覚え、蓄えたものを糧に次の仕事をするやつもいる。ここにいる間に相手を見付けて、落籍されて結婚するやつもいる。後輩の面倒を見たり、差配する仕事に就くやつもいれば、全くかけ離れた事を始めるやつもいる。
ここはそんな街で、そんな人間ばかりだ。
ここに来る事になったのは、お前には選べなかった事だろう。でも、ここでどう生きるか、この後どう生きるかはお前の自由だ。
お前は、鳥かごの不自由な鳥じゃない。いずれはその扉が開く。ここで何を考えるか、何をするかは、お前の自由だ」
マシスは俯いて考え込んだ。そして、しばらくしてから口を開く。
「ユーリも、そうやってるのか?」
それにユーリは淡々と答えた。
「いや。俺やジルラはセレムの子だからな。生き方を決める事はできない。一生ここで過ごすからな。
俺はたまたま魔術が使えたから他とは違って見えるけど、生き方を選んだことは一度もないぞ。義務だから行けと言われて高等学校へ行き、入団しろと言われたから魔術団の入団試験を受けた。そして探索者をしろと言われたから続けている。
楽しんだりするのは、俺の勝手だけどな」
マシスは
「そうか」
と言って立ち上がると、ふらついて壁に手をついた。
「わかった。悪かったな」
そして、フラフラと部屋へ向かって歩く。
「貧血だからな。造血作用のあるもん、食えよ」
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頭を掻いて、掃除道具を取りに反対方向へ歩き出した。
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