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風変わりな新人
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セレムには毎日のように、遊妓となるべく売られた人が来る。一応は本人が納得していなければ受け入れはしないので、無理矢理という事は無い。誘拐されて売られた、なんてこともない。
それでも大抵は沈んだ顔付きをし、少なくとも緊張はしているものだ。
カリムは新しく銀花楼で働く事になったルルシャという若い女と、彼女を連れて来た仲買人を部屋で迎えていた。
「ええっと、ルルシャ・カレンさんだね」
「はい!よろしくお願いします!」
「元気いいねえ」
空元気を出す者は勿論いるが、そうは見えなかった。
あまりいないタイプだとカリムは思い、仲買人は苦笑して頭を掻いた。
「ルルシャはカレン男爵の3女で、男爵が借金を膨らませたのが原因で、ここへ。治癒術を多少使えますが、実用的ではない程度だと聞いています」
仲買人がそう言うと、ルルシャはニコニコしながら言った。
「借金の理由は、治水事業の失敗と、観光客を当て込んで開発に投資したのに観光客が来なかった事が主な理由です。
治癒術は、さかむけや小さなケガが精一杯です」
「そう。それは気の毒な事だったね。
それで、ここで働くというのが、どういう仕事かはわかっているんですね」
「はい!」
「いいんですね。これから年季が明けるまでは20年。その間は、気に入った客に落籍されるか、死体になるかしないと、親の葬儀だろうとセレムからは出られないよ」
「はい!よろしくお願いします!」
本当に仕事内容を理解しているのかと思うような態度だ。
その事に自分でも気付いたのか、ルルシャは恥ずかしそうに弁解した。
「その、どうせ家の為に愛人が7人もいる63歳の人のところに出されるところだったんです。なので、覚悟はとうにしていましたから。
むしろ、ここは最も尊敬するイリーナ様の弟さんがいらっしゃる街です。お願いして、お祈りさせていただけないかと、それが楽しみです」
嬉々としてそう言うルルシャに、カリムと仲買人はただ笑顔を浮べ、
「そう。では、頼んだよ」
とカリムは言うのにとどめた。
ルルシャは大部屋へ案内され、先輩達に挨拶して回った。
いつまでもメソメソと泣く子もいるし、空元気を装っていて、ある日崩れる子もいる。だがルルシャは、本心から割り切っていた。
ここまで前向きな子は珍しい。そう言われるほどに、やる気に満ちていたのだ。
「後は、銀月の3人ね」
女の方も男の方も裏方も、しっかりとあいさつ回り兼案内をしてくれながら、先輩のリーエが言った。
「銀月?」
「ええ。セレムの子のユーリが魔術師になって、高等学校を首席で卒業するくらいだったからね。友達のカイとジンっていう子と3人で銀月ってチームを組んで、銀花楼のための依頼を引き受けながら探索者をしてるの。
この前なんか、迷宮の地底湖から透明アンコウと銀花を獲って来た程なんだから」
「えええー!凄いじゃないですか!!」
自慢気に言うリーエに、ルルシャは驚いて叫んだ。
「でしょう。フフ」
「そ、それでその銀月さんは」
「そこの離れが銀月の作業場で、武具を置いたり、手入れしたり、魔道具の開発に使ったりするの。だから、立入禁止よ。
寝起きする部屋は、ここね」
「うわあ。どんな人なんでしょう。大男?」
「それは会ってのお楽しみ。
今日は確か武具屋のセエトさんのところに寄って来るとか言ってたから」
それを聞いて、ルルシャの目が輝いた。
「武具屋のセエトさんって、イリーナ様の弟さんですか」
リーエは目の色を変えたルルシャに引きながらどうにか答えた。
「さあ、それは知らないわ」
「私、セエトさんの店に行って来てもいいですか?」
「えっと、まあ、修行は明日からって聞いてるし、夕方までに帰って来るなら」
「ありがとうございます!」
ルルシャはリーエの両手を握って振り、いそいそと店を出て行った。
「変な子が来たわねぇ」
それを見ていた遊妓らは、口々にそう言った。
それでも大抵は沈んだ顔付きをし、少なくとも緊張はしているものだ。
カリムは新しく銀花楼で働く事になったルルシャという若い女と、彼女を連れて来た仲買人を部屋で迎えていた。
「ええっと、ルルシャ・カレンさんだね」
「はい!よろしくお願いします!」
「元気いいねえ」
空元気を出す者は勿論いるが、そうは見えなかった。
あまりいないタイプだとカリムは思い、仲買人は苦笑して頭を掻いた。
「ルルシャはカレン男爵の3女で、男爵が借金を膨らませたのが原因で、ここへ。治癒術を多少使えますが、実用的ではない程度だと聞いています」
仲買人がそう言うと、ルルシャはニコニコしながら言った。
「借金の理由は、治水事業の失敗と、観光客を当て込んで開発に投資したのに観光客が来なかった事が主な理由です。
治癒術は、さかむけや小さなケガが精一杯です」
「そう。それは気の毒な事だったね。
それで、ここで働くというのが、どういう仕事かはわかっているんですね」
「はい!」
「いいんですね。これから年季が明けるまでは20年。その間は、気に入った客に落籍されるか、死体になるかしないと、親の葬儀だろうとセレムからは出られないよ」
「はい!よろしくお願いします!」
本当に仕事内容を理解しているのかと思うような態度だ。
その事に自分でも気付いたのか、ルルシャは恥ずかしそうに弁解した。
「その、どうせ家の為に愛人が7人もいる63歳の人のところに出されるところだったんです。なので、覚悟はとうにしていましたから。
むしろ、ここは最も尊敬するイリーナ様の弟さんがいらっしゃる街です。お願いして、お祈りさせていただけないかと、それが楽しみです」
嬉々としてそう言うルルシャに、カリムと仲買人はただ笑顔を浮べ、
「そう。では、頼んだよ」
とカリムは言うのにとどめた。
ルルシャは大部屋へ案内され、先輩達に挨拶して回った。
いつまでもメソメソと泣く子もいるし、空元気を装っていて、ある日崩れる子もいる。だがルルシャは、本心から割り切っていた。
ここまで前向きな子は珍しい。そう言われるほどに、やる気に満ちていたのだ。
「後は、銀月の3人ね」
女の方も男の方も裏方も、しっかりとあいさつ回り兼案内をしてくれながら、先輩のリーエが言った。
「銀月?」
「ええ。セレムの子のユーリが魔術師になって、高等学校を首席で卒業するくらいだったからね。友達のカイとジンっていう子と3人で銀月ってチームを組んで、銀花楼のための依頼を引き受けながら探索者をしてるの。
この前なんか、迷宮の地底湖から透明アンコウと銀花を獲って来た程なんだから」
「えええー!凄いじゃないですか!!」
自慢気に言うリーエに、ルルシャは驚いて叫んだ。
「でしょう。フフ」
「そ、それでその銀月さんは」
「そこの離れが銀月の作業場で、武具を置いたり、手入れしたり、魔道具の開発に使ったりするの。だから、立入禁止よ。
寝起きする部屋は、ここね」
「うわあ。どんな人なんでしょう。大男?」
「それは会ってのお楽しみ。
今日は確か武具屋のセエトさんのところに寄って来るとか言ってたから」
それを聞いて、ルルシャの目が輝いた。
「武具屋のセエトさんって、イリーナ様の弟さんですか」
リーエは目の色を変えたルルシャに引きながらどうにか答えた。
「さあ、それは知らないわ」
「私、セエトさんの店に行って来てもいいですか?」
「えっと、まあ、修行は明日からって聞いてるし、夕方までに帰って来るなら」
「ありがとうございます!」
ルルシャはリーエの両手を握って振り、いそいそと店を出て行った。
「変な子が来たわねぇ」
それを見ていた遊妓らは、口々にそう言った。
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