銀の花と銀の月

JUN

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信頼と怒り

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「探索者風情が!」
 アトラ原理主義の魔術師は、そう言いながら氷を浴びせて来る。
 その男は、10年程前に戦争で滅んだとある国で、魔術兵をしていた男だった。バタバタと仲間が倒され、先輩、上司もやられ、国王が敗北を宣言して、国が消えた。戦争の原因が隣国の王妃とこちらの王妃との見栄の張り合いというつまらないものだったと知ったのは、この後だ。
 それで男は、そんな理由で戦争を始めるバカがいたのかと呆れ、それで自分の大切な人たちが死んだのかと絶望し、こんなバカみたいなやつらがのさばる世界なんて間違っている、滅んでしまえと思い、そうして気付けば、アトラ原理主義者となっていたのだった。
 もとより戦いには慣れているし、生きて終戦を迎えられるくらい強くもあった。
 すぐにユーリが、力はあれど、対人戦の場数は足りていないという事に気付いた。
「お前、新人か?」
「……」
「人を殺した事がないだろう。人は魔物とは別物だぜ」
 それは意外とユーリを動揺させた。
 至近距離で、魔術を放ち、刃で斬りかかる。それを防ぎ、隙を窺って攻撃に転じる。お互いにどんどんとテンポが上がって行き、目で追うのも必死になっていく。
「へへ!楽しいなあ!おい!」
 男はそう言って笑う。
 と、視界の端に、血まみれのままこちらを見るリアンが見えた。
(やるか)
 テンポをずらし、男の杖を蹴り上げ、背後に軽く跳びながらレバーをフリーに合わせ、魔式をつむぐ。
「遊び過ぎた」
「何だと、若造が!」
 引き金を引く。
 不可視の結界が男を包み、空気が抜けていく。男は首を押さえ、パクパクと口を動かしてあえいで天を仰ぐ。その無防備に晒された首を、魔銃剣を横に一閃させると、頭部が2度バウンドして、転がって止まった。
 カイの方も、剣士の胸を突いて仕留めていた。
 すぐにユーリはリアンのそばに行く。
「やあ、ユーリ」
「呑気そうに何してるんですか、もう」
「あはは。だって、ユーリがいれば何とかなると思ったからね」
「死んでたら間に合いませんよ」
 言いながら、治癒のレバーを合わせて引き金を数回引く。
 魔銃剣を向けられてセンリアはギョッとしていたが、リアンが全く警戒していないので混乱し、そして傷が治るので安心した。
「貧血は治ってないですからね」
「うん、ありがとう」
 それでユーリは、転がっている警護官達にも治癒が必要な人がいないか、ジンやカイと回り出した。

 祠の結界を更に強め、ほかのアトラ原理主義者が襲撃して来ないのを確認し、ようやく安堵して、慰労の会が持たれた。ユーリ達が魔獣を狩っておいたのを出し、そこに新たにいくらか加えて、バーベキューだ。
 センリアはレバーを皿に取ると、リアンの所へ持って行った。
「あの……どうぞ」
 リアンは笑って、皿を受け取った。
「ありがとう」
 レバーばかりこんなにいらないと、思ったが、言わない。
 センリアの護衛官とリアンの側近も同じ事を考えたが、口には出さなかった。
「すみませんでした。それに、助けていただいて、ありがとうございました」
 それにリアンは首を傾げた。
「いえ。でも、助けてくれたのは銀月だし」
「いいえ!リアン殿下がかばって下さっていなければ、とっくに、もう」
「そう言ってもらえると、頑張った甲斐もあったな。
 良かった。公女殿下にケガがなくて」
 リアンはそう言って笑うが、センリアは困ったような顔をした。
「皇族としては、腕っぷしが必ずしも強くなくてもいい。指揮能力の方が大事だし。でも正直、もっと強かったらと我ながら思うよ」
「いいえ!殿下は誰よりもお強いです!」
 センリアは拳を握りしめて力説した。
「ひ、姫様?」
 警護官が目を見開くのに気付かず、センリアは続ける。
「わたくしは、意地になっていたのです。兄のようにならなければいけないと。強くなければと。
 ですが、わかりました。本当に強いというのはどういう事か。
 わたくしはリアン殿下を、尊敬いたしております」
 リアンは驚き、そして照れた。
「ありがとうございます。わたしも、センリア公女殿下の国を思う責任の強さには、尊敬の念を抱きました。
 あなたを守れて良かった」
 見つめ合い、2人の世界を作る。

 それを、ユーリ達は肉を噛みながら見ていた。
「おうおう。お熱いぜ」
「これはひょっとして、ひょっとするかな」
「個人なら簡単だけど、皇族だしなあ。どうだろう」
 言いながらも、味わうことは忘れない。
「シャトーブリアンって最高だな。何だこの部位」
「もう何頭か仕留めとくか」
「でもきっと、そこは上客の注文に消えるよ」
「くそう、金持ちめ!」
 ほかの祠も狙われるはずだし、これでおしまいではない。それでも、今日くらいは安心し、英気を養ってもばちは当たらない。そう思って、楽しむのだった。


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