殿様の隠密

JUN

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美人番付(4)横綱

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 美人番付の発表があり、領内はわいていた。
 同時に、事件の顛末についても大きな噂になっていた。
 浪人は調べに対して最初は口をつぐんでいたらしいが、観念したのか、全てを話した。それによると、どうしても娘を美人番付の横綱にしたかった薬種問屋の主と横綱になりたかった娘たねが浪人を雇い、横綱候補を襲わせていたという。
 理由は、一番の美人と認められたいというものももちろんあるが、城に奉公に上がり、どうにかして殿の目に留まって正室の座を、という目論見があったそうだ。
 そのため、うまく行けば仕官の口をきいてやると言って、浪人に持ちかけたらしい。
 そう話を聞いたのは康清も一緒で、康清はげんなりとしていた。
「そんな簡単にいくと思われているのか」
「まあまあ。
 しかし殿。それならばさっさと婚姻をなさればよろしい」
 松永がいい口実を見つけたと言わんばかりにそう迫り、康清は「しまった」と言って、慌てて話題転換をはかる。
「お前らはどうなんだ。そういうおなごはいるのか」
 それに啓三郎は微妙な表情を一瞬浮かべ、そこに康清は食いついた。
「おるのか。おるのだな、啓三郎」
「いや……」
「与四郎」
 代わりに答えろと要求され、与四郎は苦笑を浮かべた。
「まあ、見ていてじれったくなる相手はいますね。師匠のお嬢さんで、なまじお互いに子供の時分からよく見知っているからか、なかなか……」
「おい、与四郎」
「でも、啓三郎。世間には内緒でも、一応扶持もある。嫁をとってもいいんじゃないか。あとは気持ちだけだろう」
 それに、啓三郎は言葉につまり、目を泳がせ、よそを向いた。
 康清は考え、唸る。
「なるほど。次男、三男の立場か。
 よし。いいことを思いついたぞ」
 与四郎も啓三郎も松永も、何を思いついたのかと康清に注目する。
「清風会を表にだそう。代わりに領内を見てきたりもする、剣友、勉学仲間だな。
 いや、身構えられると探れんな。私のための見聞衆──いや、お側衆に組み入れて、清風会は影の組織にするか」
 ワクワクしているのが丸わかりの康清に、松永は眉を寄せた。
「我藩も決して裕福ではございませんから、それで役を増やして禄をというのは、反対がでるかと存じます」
「そう大した禄でもないであろう、やつらの無駄遣いに比べたら。何なら私的に雇うことにしてもいい」
「それはそれで、権力に目のない輩が黙っておりませんよ」
 言われて康清は嘆息した。
「何か考えろ」
 康清が言うのに、皆、深く溜息をついて頭を絞った。

「耳目衆、ですか」
 長男が父に訊き返すのを、与四郎は見ていた。
 あれから色々と知恵を絞った結果、「藩内の色んな話を集め、藩史としてまとめる」という名目になったのだ。
 きっとほかの藩士にはばかにされる役目だろうというのは想像に難くない。
 だが、それだからこそ、いろいろと聞いて回っても、どこに潜り込んでもおかしくないのだと康清は主張。そして、もう体力的に表に立てない元忍びのじいさんと引き合わされ、変装術をこれから仕込まれるという。
 そのじいさんはいつも温和で目立たない庭掃除の男だと思っていたので、与四郎も啓三郎も心から驚いたのは余談だ。
「ああ。正式には明日発表になる。ついては明日の朝登城せよとの仰せだ、与四郎。
 婿養子の話もなく、剣術道場を開くほどの腕もなく、どうなるかと思うていたが、まずは良かったな。腕よりも筆が求められる役目ならお前にも務まるだろう。少ないだろうが、禄も出る。精進するようにな、与四郎」
「はい、父上」
 与四郎は素直に返事をしながら、
(まさか隠密ごっこの延長だとは誰も思わないよなあ)
と考えていたのだった。
 そして、例のじいさんが温和に見えて実は厳しいと知るのだった。








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感想 1

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みんなの感想(1件)

スカイ
2023.06.17 スカイ

おや。初々しいカップル未満が。

2023.06.19 JUN

ありがとうございます。このふたり、どうなりますやら。

解除

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