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第一章~子供扱編~
025 神の定めた禁忌(前半)
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晴れてフェルディナンと恋人になってから数日が経過したある日の午後――
私はフェルディナンとイリヤそしてバートランドと黒衣の軍に所属する数名の軍人達と町中に出ていた。
体格の良い黒い甲冑の男達がこうもズラッと並んで歩いている姿は物凄い迫力だ。その圧倒的な存在感に町の人達も私達を避けて道を開けていく。近くでそれを見ている私も黒衣の軍の人達との体格差に少しだけ及び腰になってしまう。
そしてその中でも群を抜いて素晴らしい体格の持ち主が、その男達の中心を歩いているフェルディナンだった。
――流石にずっと一緒にいるから慣れたけど、やっぱりこれだけ格好いいと自分からは近寄れないというか。近寄りがたいというか……
私の隣を歩いているフェルディナンの腕に手を回したいけれど、恋人になったからといってそんな大胆なことをいきなりする勇気が私にはまだない。でも少し心細くてその寂しさを埋める為に私は彼の袖の端をちょっとだけ掴んだ。
それに気付いたフェルディナンが視線だけを動かして一目すると、小さく笑って何も言わずに袖を掴んだ私の手を自身の手に重ねて手を繋いでくれた。
どうしよう……すごく嬉しい。――って、んっ? あれっ……? そういえばこういうこと皆の前でしたらそういう仲だってばれちゃうんじゃっ!?
将軍職にあるフェルディナンの立場を考えたら、私と恋仲になっているということが良い事なのか悪い事なのか、将又周りの人達にどう影響するのかが分からなくて私は軽率な自分の行動を少し後悔した。
焦って勢いよく周りを見渡すと、皆それぞれがあらぬ方向を向いていて、どうやら見て見ぬふりをしてくれているようだった。
これって公認ってこと? ……というかどうして皆そんなに分かり切った感じで適応しちゃってるの? というよりそんなに皆驚いてないように見えるのは何故!? もしかして以前、イリヤが言っていた通り本当に傍から見てもバレバレだったってことですか……?
この反応を見る限り、私とフェルディナンが恋人同士でも悪いようには取っていないみたいだけれど、部屋の隅っこで頭を抱えて一人で悶えていたい気持ちになった。しかし公共のそれも町中でそんなこと出来る訳もなく。私はこの恥ずかしい状況を打開することを諦めた。
そうして気持ちを切り替えてみると、逆にオープンになっている分以前にも増して甘えたい気分が強くなってくる。私は繋いでいるフェルディナンの腕に少しだけ頭を摺り寄せた。
「そう言えば、バートランドさんって以前フェルディナンさんに大隊長って呼ばれてましたよね? そういう階級って何処を見て判断すればいいんですか?」
「俺達の階級はマントの長さで決まっているんですよ。最上位でないと完全な形状のマントを着用することは出来ないんです。それは他の軍でも皆同じですよ? 俺は上位の中でもまだ下の方なのでマントもその階級に合わせた不完全な状態のものになります。だから他の者達も皆肩や腰に着用しているでしょう?」
「そうなんですか! 確かに言われてみると……最上位ってことは――将軍のフェルディナンさんのマントが完全な形状ってことなんですね。そう思うとすっごくレアなんだぁ~」
しみじみとそんなことを言ってフェルディナンのマントを触っていると、フェルディナンがピタッと止まって私の方を見た。
「――月瑠」
そうじゃないだろうと言いたげなフェルディナンの表情に気が付いて私は口元を押さえた。
「あっ、えっと……ごめんなさい」
「それで?」
「その、呼び慣れなくて……それに人前だし……」
恋人になったとはいえ彼が意図することに応えるのは私には難儀なことだった。
「……月瑠?」
顔が赤らんで俯きがちになっている私をフェルディナンは優しく促した。
「……フェルディナン」
ようやくフェルディナンの名前を呼び捨てで呼ぶことが出来た私に、彼はよくできましたとばかりに私と繋いでいる手を持ち上げてチュッと口づけた。
「!?」
人前でも平気で甘い雰囲気全開のフェルディナンに私が気後れしているのは分かっている筈なのに、フェルディナンはお構いなしにその紫混じった青い瞳を優しく細めて甘い視線を向けてくる。フェルディナンにとっては周りにどう見られているか何て、取るに足らないどうでもいいことのようだ。
「あーはいはい、お二人の仲が良いのはよく分かりましたから。周りの人間も反応に困るのでお熱いのはその位にして頂けますか? それに姫様も大分お困りのようですし」
バートランドが苦笑して助け船を出してくれた。
「月瑠は無自覚だから仕方ないとして、多分フェルディナンは俺達のこと何てどうでもいいって思ってるよね?」
軽快にけれど攻めるような口調で正確に核心を突いてくるイリヤの言葉にも、全く動じた風もなくフェルディナンは素知らぬ顔をしたまま答えない。
そして何やら雲行きが怪しくなってきたので私は別の話題を振ることにした。
「えーっと、フェルディナン? 今日は何処へ視察しに行くんですか?」
フェルディナンの腕を引っ張って行き先を尋ねると、フェルディナンはイリヤ達の時とは打って変わって、口元に微笑を湛えながら優しい眼差しを私に向けた。
「ふーん、俺達の時とは随分態度が違うじゃないか」
「まあまあ、イリヤさん落ち着いて」
その変わり身の早さに突っかかるイリヤは言葉の割にはあまり怖い顔をしていない。不機嫌そうに眉間に皺を寄せている顔からは、僅かに悪戯っ子のような表情が見え隠れしている――どうやらこの状況を楽しんで揶揄って遊んでいるだけのようなのだが、それに気付いていないバートランドがイリヤを宥めている。
従兄弟同士でイリヤとの付き合いが長いフェルディナンはイリヤがどういう人間なのかよく分かっている。きっと他の人達にもイリヤがフェルディナンに怒っているように見えていると分かった上で、全てを把握しながらあえて放置しているようだった。
そしてそんな彼等を尻目に、フェルディナンが私の問いかけに答えようとして顔を近づけてきて突然、彼の顔色が緊迫したものへと変わった。
「……――月瑠そこから動くな」
「フェルディナン?」
フェルディナンは私を守るように自分の背中に回して、腰元に下げた抜き身の大剣に手を伸ばした。イリヤとバートランドそして黒衣の軍の人達が何時の間にか私達の周りに集まっている。
彼等が視線を向けているその先を辿って、私は何が起きているのかを理解した。
「シャノンさん……? それに他の獣人さん達も一杯……」
私達のいる方に向かって耳と尻尾を生やした大勢の獣人達が向かって来ていた。それも獣人達の先頭を歩くシャノンの周りにも次々と獣人達が集結していく。一人や二人ではない何十という数の獣人達が町中の至るところから出現して次々と合流しその数を増やしている。
獣人達の出現に町中がパニックに陥るのにそう時間は掛からなかった。悲鳴を上げて逃げ回る人びとが私達を避けて通る中、イリヤが感心したように呟いた。
「いったい、何処に隠れていたのやら。よくもまあこれだけぞろぞろと――すごいな。これだけの人数を見つからずに潜伏させておけるなんてさ。たいしたものだよね」
「イリヤさん……感心している場合ではないですよ! 獣人達が反逆の徒がこんなに現れるなんて――こんなこと……あの日以来だっ!」
イリヤを窘めながらバートランドはロングソードを構えて警戒の姿勢を取った。
「そうなんだけど、でもどうもね。あまり重苦しいのは苦手で……」
「イリヤさんっ!」
「はいはい分かったよ。俺はもう口を閉ざしておくからさ。後はフェルディナン達に任せるよ」
肩を竦めてイリヤはさっさとバートランドからフェルディナンへ話を丸投げした。
「――全く、お前は相変わらず緊張感がないな」
目前に集結している獣人達に視線を固定させたまま、静かな口調でそう言うもフェルディナンは何時ものこととあまり相手にしない。そうして私達が内輪でごちゃごちゃとやり取りをしている最中にも、数を増していく獣人の中心にいるシャノンがゆっくりとこちらへ歩いて来ている。
「シャノンさん……」
フェルディナンの背中から顔を出してシャノンを見ると互いの視線が交錯した。
――きっとシャノンさんは私からの答えを待っている。
「フェルディナン、私シャノンさんに話をしなくちゃいけないことがあるの。だからお願い……」
「だめだ」
フェルディナンにはシャノンが数日の内にこの国に残るか、それとも獣人達と一緒に行くか――その答えを聞きに来ることを事前に話してある。けれど私はフェルディナンがその時どうするかまでは彼から聞き出せていなかった。
でもきっとフェルディナンのことだからその事態を回避すべく動くことは何となく予想が出来ていた。
「フェルディナン、私は大丈夫だから」
「月瑠……?」
「私は必ずフェルディナンの元に戻って来る。大丈夫だからお願い、行かせてほしいの」
私はフェルディナンの腕を引っ張ってから彼の首筋に手を回して引き寄せて彼の形の良い唇にそっと口づけた。こんな大勢人がいる前で恥ずかしいとか、緊張するとか今の私はフェルディナンから許可を取るのに必死でそんなことを感じている余裕はなかった。
――なるほど、よくあるヒロインの心情ってこんな感じなのかもしれない。相手を納得させるために一番有効な手段ってこれしかない。
「私を信じて」
私は今迄フェルディナンを見てきた中でも一番強い目で彼を見つめた。
「――っ! どうして君は何時もそうなんだっ!」
「フェルディナン?」
「くそっ……分かった」
私の意志が覆せないと分かってフェルディナンは怒ったように声を荒げた。彼にしては珍しく悪態を付いて舌打ちすると、渋々承諾して私を解放してくれた。イリヤやバートランドのいる方から「甘い」という単語が聞こえてきたけれど、それは聞かなかったことにして、私はシャノンの方へと覚悟を決めて足を踏み出した。
離れて行こうとする私の手にフェルディナンの武骨な手が私の手に触れて思わず振り返ると、フェルディナンは険しい顔をして私を見ていた。
<……あの時からこの国の誰もが潜在的に異邦人を失うことを酷く恐れるようになった。まともな人間ならね。勿論フェルディナンも例外じゃない>
イリヤに以前言われた言葉を思い出す。バートランドも「……あの日以来だっ!」と言っていた。私の前にいた異邦人の卯佐美結良をこの国の人達が失った日と今が酷似した情景なのだとしたら?
フェルディナンは私の手に触れているだけで強く握り締めているわけでもない。そのまま離れていくことも出来たけれど、私はフェルディナンが抱いているものをそのままにして彼から離れることが出来なかった。
縋りつくように触れられたフェルディナンの指先をキュッと握りしめると、フェルディナンは片膝を地面につく形で私に目線を合わせてくれた。私は彼の額に自分の額をコツンと当てて囁くように呟いた。
「……いってきます」
フェルディナンは驚いた顔をして、それから不安の混じったでも少しだけ安心した顔をして小さく頷いた。
そうして私はフェルディナンから離れて迷うことなくシャノンの方へと足を進めた。人間と獣人。互いの味方が待つ場所から離れてシャノンと私は場の中心に二人だけで向き合う形で対面した。
「シャノンさん、答える前に一つ教えてほしいことがあるのですが」
シャノンは青みがかった灰色の毛並みに覆われた狼の形状の耳をぴくっと動かした。黄金の瞳を不思議そうに輝かせながらこちらを見ているシャノンの恰好は、以前会った時と同じでRPGの冒険者が着ているような端々が解れたりちぎれたりしている黒い外套を纏った姿だった。
シャノンさんって体格もいいしそのうえ獣人なんてワイルドで格好良過ぎる……というかこの世界の人達ってどうしてこう美形ばっかりなんでしょうか……目の保養ではあるけれど同時にすごく疲れるんですよ何だか色々と気を遣って……
それはこの世界が18禁のエロゲーで乙女ゲームだからで、乙女ゲームで美形は必須条件といっても過言ではないからだと、分かってはいてもそんな贅沢な悩み事が湧いて出て来るのはどうしようもない。
「……教えてほしいこととは?」
「シャノンさん達、獣人と呼ばれている人達はこの国から追放されたと聞きました。だけど、シャノンさん達にも……その、……国はあるのでしょうか?」
「国か……確かに俺達は反逆の徒として烙印を押され追放されたが――そうと呼ぶべき場所はある」
「そうですか……」
「それがどうかしたのか……?」
シャノンの当然と言える質問に私はこれから自分がしようとしている事がどれだけ相手を驚かせるか知っていたから、だから出来るだけ穏やかに、にっこり笑ってシャノンの質問とは別の言葉を口にした。
「神様、私は自分の答えを見つけました。だから出てきてくれませんか?」
「「「「!?」」」」
この場にいる全員が私の言葉を聞いて愕然としていた。イリヤ、バートランド、シャノンそしてフェルディナンですら驚きを隠せないでいる。驚きがさざ波のように広がってざわつく獣人達や黒衣の軍の人達も皆が私の方を見ているけれど、それ以上に注目すべきものが空中から出現するのにさして時間は掛からなかった。
*******
私の呼び出しに応じて即座に現れた――人の形をした何かが青白く発光しながら私達のいる直ぐ上の空間をフワフワと浮かんでいる。この光景を見るのは久しぶりだった。
「約束通り来てくれてありがとうございます。それにその恰好も……」
初めの内は青白く発光していたけれど、次第にそれは私の見知った形へと変化した。黒髪に黒い瞳。短髪で少し目尻の端が釣り上がっていてキツイ印象を持たせる、高校生特有の未発達な外見をした、私が着ている学校の制服と同じ制服を着た男の子。以前会った時も神様は私が安心できるように本来の姿を変えてその恰好をしてくれていた。
「――確かに私は貴方の答えが見つかったらその時は貴方の前に出てくると約束をしましたが……このような大衆の集まる場で呼び出すとは、貴方もなかなか酔狂なことをされますね」
相変わらずの無機質な機械のように淡々とした話し方――神様の前回会った時と変わらない態度に少し安心する。
「すみません、でも私は此処で神様を呼ばなければいけなかったんです」
「……では貴方はこの世界でどうすべきなのか、私が満足出来るだけの答えを見つけたということなのですね?」
「はい」
神様の質問にコクリと頷いて私は少し離れた後方で様子を見ているフェルディナンを振り返った。
「私はずっと――どうすればいいのか分からなくて悩んでました。どうすれば誰も傷つかないで元の世界に帰れるんだろうって」
「……月瑠?」
フェルディナンの心配そうな困惑した顔を愛おしく思いながら私は再び神様に視線を戻した。
「でもそんなの無理な話なんですよね。私はこの世界の人達と関わってしまった。私の行動が何も影響を与えずに済まされる時はとっくに終わっていたのに。それに気付いていなかった。正直ここまで関るなんて思ってもいなかったですけど」
「貴方がずっとそのことで悩み苦しんでいることは分かっていました」
「はい……でも、まだ来てもいない未来に怯えて精神をすり減らすのはもう嫌なんです。そんなことに精神をすり減らすくらいなら、私は今ここにいる大切な人達をもっと大切にしたい。幸せにしたいんです。だから私は――これから皆を幸せに出来るように生きていきたい。……元の世界に戻るかどうかはその時が来たら考える。それでいいんじゃないかと思うんです」
「その選択肢の中に貴方の幸せは含まれていないようですが?」
「私はイリヤから私の前にいた異邦人の卯佐美結良さんのことで皆が沢山辛い思いをして、異邦人を失うことを恐れていると聞きました。だから、どんな形にしても――私はそう言う終わり方だけはしてはいけないんです」
「……それを守り通した先に何があるというのですか?」
「分かりません。でも私が知っている道筋を超えて自由に生きることを神様は容認してくれましたよね?」
知っている道筋とは”悲哀ルート”と”情愛ルート”の2つのルートのこと。
でもそれをあえて口にしないのはこの世界が私の知っている乙女ゲーム世界だということを皆に知られたくなかったから。
「そうでしたね」
「だから今回、私は自分の道筋の――その歩き方を決めました」
「それは先の定まっていない、見えない道筋を歩くということですか?」
「神様……それって普通のことですよ?」
私は思わず笑って神様を見た。それが普通の人生なのに神様は多分超越した存在過ぎて私達の感覚が分からないのかもしれない。
「もともと未来なんて道筋なんて分からないものですよ? でも守りたい人達がいるから守りたい未来があるそれだけなんです。それが神様にとっては破壊者に相当する行為だとしても」
「未来を守る為に生きるということですか?」
「違います。今を守りたいから生きるんです。今を大切にすることで未来を守りたいんです。私は賢人ではありませんから、そんなに何十年も先のことなんて想像は出来ても想定は出来ません。だから私に出来るのは今を守ることだけです。それと――」
「?」
「さっき神様は選択肢の中に私の幸せが含まれていないっておっしゃっていましたけど。大切な人達がいて守りたい今がある。それだけで十分私は幸せですよ?」
「……そうですか」
淡々とした口調で人形のように動かない何時も無表情な神様の顔が少しだけ優しく和らいだような気がした。
「あの、……それでこの答えで神様は満足してくれましたか?」
「――それによってもたらされるものの大きさを貴方は分かっていないようですが……いいでしょう。私は貴方が提示した答えに満足しました。約束通り”神の定めた禁忌”から人々を解放します」
「――っ! ありがとうございますっ!」
「貴方は自分のことに関しては無欲なのに、どうして他者に関してはそう強欲になれるのか。不思議な方ですね。今度お会いする時はその答えが聞きたいものです」
今度こそ神様は和やかな表情で優しく笑った。大輪の花のように綺麗な微笑みにつられて笑いそうになったところで、またまた驚きの展開が待っていた。
「――それで話はもうついたのか?」
蚊帳の外に置かれていたフェルディナンが私と神様の間に割って入った。何時の間にか私の真後ろで腕を組んでフェルディナンは待ちくたびれたような様子でこちらを見ている。
「ええ、話しは今終わりましたよ。久しぶりですねフェルディナン」
「えっ!? あの、久しぶりって?」
――どういうことですか? そう聞こうとしたところで私は後方からいきなりフェルディナンに腕を引かれてすっぽりとその逞しい胸の中に収められてしまった。
「きゃあっ!」
フェルディナンの胸元で一人だけ動揺に目を瞬かせているうちに、神様とフェルディナンは話を進めてしまう。
「フェルディナン……貴方とは一度ゆっくり話をしたいと思っていましたよ」
神様は相変わらず無機質な表情のままフェルディナンにそう告げると、フェルディナンは本当に嫌な顔をして空中に浮いている神様を見上げた。
「そうか、だが私はお前と話をしたいとは思っていない。知っているだろう?」
それも早く帰れと言わんばかりに睨み付けるようにしてその紫混じった青い瞳を細めた。敵意を剥き出しにしたフェルディナンの表情にギョッとする。
「……ええ、知っていますよ。それでは月瑠、私はもう行きます」
「えっと、そのっ、はい……あっ、あのっ! 色々とありがとうございました」
フェルディナンの敵意を軽く受け流して神様は相変わらずの淡々とした口調でそう言うと、慌てて返礼した私に軽く目を細めて見せた。そしてこの世界に転移させた時と同じ乳白色の光に包まれて神様は音もなく消えてしまった。
私はフェルディナンとイリヤそしてバートランドと黒衣の軍に所属する数名の軍人達と町中に出ていた。
体格の良い黒い甲冑の男達がこうもズラッと並んで歩いている姿は物凄い迫力だ。その圧倒的な存在感に町の人達も私達を避けて道を開けていく。近くでそれを見ている私も黒衣の軍の人達との体格差に少しだけ及び腰になってしまう。
そしてその中でも群を抜いて素晴らしい体格の持ち主が、その男達の中心を歩いているフェルディナンだった。
――流石にずっと一緒にいるから慣れたけど、やっぱりこれだけ格好いいと自分からは近寄れないというか。近寄りがたいというか……
私の隣を歩いているフェルディナンの腕に手を回したいけれど、恋人になったからといってそんな大胆なことをいきなりする勇気が私にはまだない。でも少し心細くてその寂しさを埋める為に私は彼の袖の端をちょっとだけ掴んだ。
それに気付いたフェルディナンが視線だけを動かして一目すると、小さく笑って何も言わずに袖を掴んだ私の手を自身の手に重ねて手を繋いでくれた。
どうしよう……すごく嬉しい。――って、んっ? あれっ……? そういえばこういうこと皆の前でしたらそういう仲だってばれちゃうんじゃっ!?
将軍職にあるフェルディナンの立場を考えたら、私と恋仲になっているということが良い事なのか悪い事なのか、将又周りの人達にどう影響するのかが分からなくて私は軽率な自分の行動を少し後悔した。
焦って勢いよく周りを見渡すと、皆それぞれがあらぬ方向を向いていて、どうやら見て見ぬふりをしてくれているようだった。
これって公認ってこと? ……というかどうして皆そんなに分かり切った感じで適応しちゃってるの? というよりそんなに皆驚いてないように見えるのは何故!? もしかして以前、イリヤが言っていた通り本当に傍から見てもバレバレだったってことですか……?
この反応を見る限り、私とフェルディナンが恋人同士でも悪いようには取っていないみたいだけれど、部屋の隅っこで頭を抱えて一人で悶えていたい気持ちになった。しかし公共のそれも町中でそんなこと出来る訳もなく。私はこの恥ずかしい状況を打開することを諦めた。
そうして気持ちを切り替えてみると、逆にオープンになっている分以前にも増して甘えたい気分が強くなってくる。私は繋いでいるフェルディナンの腕に少しだけ頭を摺り寄せた。
「そう言えば、バートランドさんって以前フェルディナンさんに大隊長って呼ばれてましたよね? そういう階級って何処を見て判断すればいいんですか?」
「俺達の階級はマントの長さで決まっているんですよ。最上位でないと完全な形状のマントを着用することは出来ないんです。それは他の軍でも皆同じですよ? 俺は上位の中でもまだ下の方なのでマントもその階級に合わせた不完全な状態のものになります。だから他の者達も皆肩や腰に着用しているでしょう?」
「そうなんですか! 確かに言われてみると……最上位ってことは――将軍のフェルディナンさんのマントが完全な形状ってことなんですね。そう思うとすっごくレアなんだぁ~」
しみじみとそんなことを言ってフェルディナンのマントを触っていると、フェルディナンがピタッと止まって私の方を見た。
「――月瑠」
そうじゃないだろうと言いたげなフェルディナンの表情に気が付いて私は口元を押さえた。
「あっ、えっと……ごめんなさい」
「それで?」
「その、呼び慣れなくて……それに人前だし……」
恋人になったとはいえ彼が意図することに応えるのは私には難儀なことだった。
「……月瑠?」
顔が赤らんで俯きがちになっている私をフェルディナンは優しく促した。
「……フェルディナン」
ようやくフェルディナンの名前を呼び捨てで呼ぶことが出来た私に、彼はよくできましたとばかりに私と繋いでいる手を持ち上げてチュッと口づけた。
「!?」
人前でも平気で甘い雰囲気全開のフェルディナンに私が気後れしているのは分かっている筈なのに、フェルディナンはお構いなしにその紫混じった青い瞳を優しく細めて甘い視線を向けてくる。フェルディナンにとっては周りにどう見られているか何て、取るに足らないどうでもいいことのようだ。
「あーはいはい、お二人の仲が良いのはよく分かりましたから。周りの人間も反応に困るのでお熱いのはその位にして頂けますか? それに姫様も大分お困りのようですし」
バートランドが苦笑して助け船を出してくれた。
「月瑠は無自覚だから仕方ないとして、多分フェルディナンは俺達のこと何てどうでもいいって思ってるよね?」
軽快にけれど攻めるような口調で正確に核心を突いてくるイリヤの言葉にも、全く動じた風もなくフェルディナンは素知らぬ顔をしたまま答えない。
そして何やら雲行きが怪しくなってきたので私は別の話題を振ることにした。
「えーっと、フェルディナン? 今日は何処へ視察しに行くんですか?」
フェルディナンの腕を引っ張って行き先を尋ねると、フェルディナンはイリヤ達の時とは打って変わって、口元に微笑を湛えながら優しい眼差しを私に向けた。
「ふーん、俺達の時とは随分態度が違うじゃないか」
「まあまあ、イリヤさん落ち着いて」
その変わり身の早さに突っかかるイリヤは言葉の割にはあまり怖い顔をしていない。不機嫌そうに眉間に皺を寄せている顔からは、僅かに悪戯っ子のような表情が見え隠れしている――どうやらこの状況を楽しんで揶揄って遊んでいるだけのようなのだが、それに気付いていないバートランドがイリヤを宥めている。
従兄弟同士でイリヤとの付き合いが長いフェルディナンはイリヤがどういう人間なのかよく分かっている。きっと他の人達にもイリヤがフェルディナンに怒っているように見えていると分かった上で、全てを把握しながらあえて放置しているようだった。
そしてそんな彼等を尻目に、フェルディナンが私の問いかけに答えようとして顔を近づけてきて突然、彼の顔色が緊迫したものへと変わった。
「……――月瑠そこから動くな」
「フェルディナン?」
フェルディナンは私を守るように自分の背中に回して、腰元に下げた抜き身の大剣に手を伸ばした。イリヤとバートランドそして黒衣の軍の人達が何時の間にか私達の周りに集まっている。
彼等が視線を向けているその先を辿って、私は何が起きているのかを理解した。
「シャノンさん……? それに他の獣人さん達も一杯……」
私達のいる方に向かって耳と尻尾を生やした大勢の獣人達が向かって来ていた。それも獣人達の先頭を歩くシャノンの周りにも次々と獣人達が集結していく。一人や二人ではない何十という数の獣人達が町中の至るところから出現して次々と合流しその数を増やしている。
獣人達の出現に町中がパニックに陥るのにそう時間は掛からなかった。悲鳴を上げて逃げ回る人びとが私達を避けて通る中、イリヤが感心したように呟いた。
「いったい、何処に隠れていたのやら。よくもまあこれだけぞろぞろと――すごいな。これだけの人数を見つからずに潜伏させておけるなんてさ。たいしたものだよね」
「イリヤさん……感心している場合ではないですよ! 獣人達が反逆の徒がこんなに現れるなんて――こんなこと……あの日以来だっ!」
イリヤを窘めながらバートランドはロングソードを構えて警戒の姿勢を取った。
「そうなんだけど、でもどうもね。あまり重苦しいのは苦手で……」
「イリヤさんっ!」
「はいはい分かったよ。俺はもう口を閉ざしておくからさ。後はフェルディナン達に任せるよ」
肩を竦めてイリヤはさっさとバートランドからフェルディナンへ話を丸投げした。
「――全く、お前は相変わらず緊張感がないな」
目前に集結している獣人達に視線を固定させたまま、静かな口調でそう言うもフェルディナンは何時ものこととあまり相手にしない。そうして私達が内輪でごちゃごちゃとやり取りをしている最中にも、数を増していく獣人の中心にいるシャノンがゆっくりとこちらへ歩いて来ている。
「シャノンさん……」
フェルディナンの背中から顔を出してシャノンを見ると互いの視線が交錯した。
――きっとシャノンさんは私からの答えを待っている。
「フェルディナン、私シャノンさんに話をしなくちゃいけないことがあるの。だからお願い……」
「だめだ」
フェルディナンにはシャノンが数日の内にこの国に残るか、それとも獣人達と一緒に行くか――その答えを聞きに来ることを事前に話してある。けれど私はフェルディナンがその時どうするかまでは彼から聞き出せていなかった。
でもきっとフェルディナンのことだからその事態を回避すべく動くことは何となく予想が出来ていた。
「フェルディナン、私は大丈夫だから」
「月瑠……?」
「私は必ずフェルディナンの元に戻って来る。大丈夫だからお願い、行かせてほしいの」
私はフェルディナンの腕を引っ張ってから彼の首筋に手を回して引き寄せて彼の形の良い唇にそっと口づけた。こんな大勢人がいる前で恥ずかしいとか、緊張するとか今の私はフェルディナンから許可を取るのに必死でそんなことを感じている余裕はなかった。
――なるほど、よくあるヒロインの心情ってこんな感じなのかもしれない。相手を納得させるために一番有効な手段ってこれしかない。
「私を信じて」
私は今迄フェルディナンを見てきた中でも一番強い目で彼を見つめた。
「――っ! どうして君は何時もそうなんだっ!」
「フェルディナン?」
「くそっ……分かった」
私の意志が覆せないと分かってフェルディナンは怒ったように声を荒げた。彼にしては珍しく悪態を付いて舌打ちすると、渋々承諾して私を解放してくれた。イリヤやバートランドのいる方から「甘い」という単語が聞こえてきたけれど、それは聞かなかったことにして、私はシャノンの方へと覚悟を決めて足を踏み出した。
離れて行こうとする私の手にフェルディナンの武骨な手が私の手に触れて思わず振り返ると、フェルディナンは険しい顔をして私を見ていた。
<……あの時からこの国の誰もが潜在的に異邦人を失うことを酷く恐れるようになった。まともな人間ならね。勿論フェルディナンも例外じゃない>
イリヤに以前言われた言葉を思い出す。バートランドも「……あの日以来だっ!」と言っていた。私の前にいた異邦人の卯佐美結良をこの国の人達が失った日と今が酷似した情景なのだとしたら?
フェルディナンは私の手に触れているだけで強く握り締めているわけでもない。そのまま離れていくことも出来たけれど、私はフェルディナンが抱いているものをそのままにして彼から離れることが出来なかった。
縋りつくように触れられたフェルディナンの指先をキュッと握りしめると、フェルディナンは片膝を地面につく形で私に目線を合わせてくれた。私は彼の額に自分の額をコツンと当てて囁くように呟いた。
「……いってきます」
フェルディナンは驚いた顔をして、それから不安の混じったでも少しだけ安心した顔をして小さく頷いた。
そうして私はフェルディナンから離れて迷うことなくシャノンの方へと足を進めた。人間と獣人。互いの味方が待つ場所から離れてシャノンと私は場の中心に二人だけで向き合う形で対面した。
「シャノンさん、答える前に一つ教えてほしいことがあるのですが」
シャノンは青みがかった灰色の毛並みに覆われた狼の形状の耳をぴくっと動かした。黄金の瞳を不思議そうに輝かせながらこちらを見ているシャノンの恰好は、以前会った時と同じでRPGの冒険者が着ているような端々が解れたりちぎれたりしている黒い外套を纏った姿だった。
シャノンさんって体格もいいしそのうえ獣人なんてワイルドで格好良過ぎる……というかこの世界の人達ってどうしてこう美形ばっかりなんでしょうか……目の保養ではあるけれど同時にすごく疲れるんですよ何だか色々と気を遣って……
それはこの世界が18禁のエロゲーで乙女ゲームだからで、乙女ゲームで美形は必須条件といっても過言ではないからだと、分かってはいてもそんな贅沢な悩み事が湧いて出て来るのはどうしようもない。
「……教えてほしいこととは?」
「シャノンさん達、獣人と呼ばれている人達はこの国から追放されたと聞きました。だけど、シャノンさん達にも……その、……国はあるのでしょうか?」
「国か……確かに俺達は反逆の徒として烙印を押され追放されたが――そうと呼ぶべき場所はある」
「そうですか……」
「それがどうかしたのか……?」
シャノンの当然と言える質問に私はこれから自分がしようとしている事がどれだけ相手を驚かせるか知っていたから、だから出来るだけ穏やかに、にっこり笑ってシャノンの質問とは別の言葉を口にした。
「神様、私は自分の答えを見つけました。だから出てきてくれませんか?」
「「「「!?」」」」
この場にいる全員が私の言葉を聞いて愕然としていた。イリヤ、バートランド、シャノンそしてフェルディナンですら驚きを隠せないでいる。驚きがさざ波のように広がってざわつく獣人達や黒衣の軍の人達も皆が私の方を見ているけれど、それ以上に注目すべきものが空中から出現するのにさして時間は掛からなかった。
*******
私の呼び出しに応じて即座に現れた――人の形をした何かが青白く発光しながら私達のいる直ぐ上の空間をフワフワと浮かんでいる。この光景を見るのは久しぶりだった。
「約束通り来てくれてありがとうございます。それにその恰好も……」
初めの内は青白く発光していたけれど、次第にそれは私の見知った形へと変化した。黒髪に黒い瞳。短髪で少し目尻の端が釣り上がっていてキツイ印象を持たせる、高校生特有の未発達な外見をした、私が着ている学校の制服と同じ制服を着た男の子。以前会った時も神様は私が安心できるように本来の姿を変えてその恰好をしてくれていた。
「――確かに私は貴方の答えが見つかったらその時は貴方の前に出てくると約束をしましたが……このような大衆の集まる場で呼び出すとは、貴方もなかなか酔狂なことをされますね」
相変わらずの無機質な機械のように淡々とした話し方――神様の前回会った時と変わらない態度に少し安心する。
「すみません、でも私は此処で神様を呼ばなければいけなかったんです」
「……では貴方はこの世界でどうすべきなのか、私が満足出来るだけの答えを見つけたということなのですね?」
「はい」
神様の質問にコクリと頷いて私は少し離れた後方で様子を見ているフェルディナンを振り返った。
「私はずっと――どうすればいいのか分からなくて悩んでました。どうすれば誰も傷つかないで元の世界に帰れるんだろうって」
「……月瑠?」
フェルディナンの心配そうな困惑した顔を愛おしく思いながら私は再び神様に視線を戻した。
「でもそんなの無理な話なんですよね。私はこの世界の人達と関わってしまった。私の行動が何も影響を与えずに済まされる時はとっくに終わっていたのに。それに気付いていなかった。正直ここまで関るなんて思ってもいなかったですけど」
「貴方がずっとそのことで悩み苦しんでいることは分かっていました」
「はい……でも、まだ来てもいない未来に怯えて精神をすり減らすのはもう嫌なんです。そんなことに精神をすり減らすくらいなら、私は今ここにいる大切な人達をもっと大切にしたい。幸せにしたいんです。だから私は――これから皆を幸せに出来るように生きていきたい。……元の世界に戻るかどうかはその時が来たら考える。それでいいんじゃないかと思うんです」
「その選択肢の中に貴方の幸せは含まれていないようですが?」
「私はイリヤから私の前にいた異邦人の卯佐美結良さんのことで皆が沢山辛い思いをして、異邦人を失うことを恐れていると聞きました。だから、どんな形にしても――私はそう言う終わり方だけはしてはいけないんです」
「……それを守り通した先に何があるというのですか?」
「分かりません。でも私が知っている道筋を超えて自由に生きることを神様は容認してくれましたよね?」
知っている道筋とは”悲哀ルート”と”情愛ルート”の2つのルートのこと。
でもそれをあえて口にしないのはこの世界が私の知っている乙女ゲーム世界だということを皆に知られたくなかったから。
「そうでしたね」
「だから今回、私は自分の道筋の――その歩き方を決めました」
「それは先の定まっていない、見えない道筋を歩くということですか?」
「神様……それって普通のことですよ?」
私は思わず笑って神様を見た。それが普通の人生なのに神様は多分超越した存在過ぎて私達の感覚が分からないのかもしれない。
「もともと未来なんて道筋なんて分からないものですよ? でも守りたい人達がいるから守りたい未来があるそれだけなんです。それが神様にとっては破壊者に相当する行為だとしても」
「未来を守る為に生きるということですか?」
「違います。今を守りたいから生きるんです。今を大切にすることで未来を守りたいんです。私は賢人ではありませんから、そんなに何十年も先のことなんて想像は出来ても想定は出来ません。だから私に出来るのは今を守ることだけです。それと――」
「?」
「さっき神様は選択肢の中に私の幸せが含まれていないっておっしゃっていましたけど。大切な人達がいて守りたい今がある。それだけで十分私は幸せですよ?」
「……そうですか」
淡々とした口調で人形のように動かない何時も無表情な神様の顔が少しだけ優しく和らいだような気がした。
「あの、……それでこの答えで神様は満足してくれましたか?」
「――それによってもたらされるものの大きさを貴方は分かっていないようですが……いいでしょう。私は貴方が提示した答えに満足しました。約束通り”神の定めた禁忌”から人々を解放します」
「――っ! ありがとうございますっ!」
「貴方は自分のことに関しては無欲なのに、どうして他者に関してはそう強欲になれるのか。不思議な方ですね。今度お会いする時はその答えが聞きたいものです」
今度こそ神様は和やかな表情で優しく笑った。大輪の花のように綺麗な微笑みにつられて笑いそうになったところで、またまた驚きの展開が待っていた。
「――それで話はもうついたのか?」
蚊帳の外に置かれていたフェルディナンが私と神様の間に割って入った。何時の間にか私の真後ろで腕を組んでフェルディナンは待ちくたびれたような様子でこちらを見ている。
「ええ、話しは今終わりましたよ。久しぶりですねフェルディナン」
「えっ!? あの、久しぶりって?」
――どういうことですか? そう聞こうとしたところで私は後方からいきなりフェルディナンに腕を引かれてすっぽりとその逞しい胸の中に収められてしまった。
「きゃあっ!」
フェルディナンの胸元で一人だけ動揺に目を瞬かせているうちに、神様とフェルディナンは話を進めてしまう。
「フェルディナン……貴方とは一度ゆっくり話をしたいと思っていましたよ」
神様は相変わらず無機質な表情のままフェルディナンにそう告げると、フェルディナンは本当に嫌な顔をして空中に浮いている神様を見上げた。
「そうか、だが私はお前と話をしたいとは思っていない。知っているだろう?」
それも早く帰れと言わんばかりに睨み付けるようにしてその紫混じった青い瞳を細めた。敵意を剥き出しにしたフェルディナンの表情にギョッとする。
「……ええ、知っていますよ。それでは月瑠、私はもう行きます」
「えっと、そのっ、はい……あっ、あのっ! 色々とありがとうございました」
フェルディナンの敵意を軽く受け流して神様は相変わらずの淡々とした口調でそう言うと、慌てて返礼した私に軽く目を細めて見せた。そしてこの世界に転移させた時と同じ乳白色の光に包まれて神様は音もなく消えてしまった。
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