乙女ゲーム世界で少女は大人になります

薄影メガネ

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第二章~恋人扱編~

040 腰砕け

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 フェルディナンが生殖時期せいしょくじきを迎えてからそれが終わるまでの一週間、私はずっとフェルディナンの部屋で彼に抱かれたも同然の状態で過ごし続けた。そうして迎えた一週間目の生殖時期せいしょくじき最後の夜は中でも一番激しくてほとんど抱かれているような状態を日夜問わず一日中繰り返され続けた。そしてとうとう最後には鳴き疲れて私は気絶するように眠ってしまっていた。

「腰が、立たない……」

 生殖時期せいしょくじきを何とか乗り越えた翌朝の私の第一声はこれだった。朝起きた時にはまるで腰砕こしくだけのような状態になっていて愕然がくぜんとする。

生殖時期せいしょくじきの最後の日は性欲とか大分だいぶ薄れてもっと軽い触れ合い程度で終わると思ってたのに……一番激しかった……」

 立つことが出来ずベッドの上で座り込んでいる私とは対照的に、隣で寝ているフェルディナンは満足した顔をしてすやすやと寝息を立てている。一日中ベッドの上でつんいにさせられながら後ろから攻め立てられ続けた身体は疲れ切っていてあまり思う通りに動けない。行為が終わった後もフェルディナンに与えられた熱は身体の火照ほてりと気怠けだるい疲れという形でまざまざと残されている。
 行為の間はずっとフェルディナンの動きに合わせて強く腰を引き寄せられ。太腿の間にくわえ込んだフェルディナンの巨大なモノを花弁にこすり上げるように動くことを強要され続けた。そうして強制的にフェルディナンの肉体というおり拘束こうそくされて、身体を一日中ベッドに縛り付けられているような目にあったのに、すやすやと安心し切った様子で眠っているフェルディナンの無防備な寝顔を見ていると、またその腕の中に戻りたくなってしまう。

「やっぱり可愛いのよね」

 溜息を付きながら寝ているフェルディナンを起こさないようにそっと金の髪に触れてみる。見た目よりも柔らかい感触をゆっくりとでながらいとおしさに負けて軽くフェルディナンの唇の表面に唇を当てて少しだけその唇を甘噛あまがみしてしまった。

「……ん」
「っ!?」

 低い男の声を出しながらフェルディナンは目をつぶったまま両手を何も身に付けていない私の身体に回してくる。フェルディナンによって脱がされた私の服と彼の服が床の上に散らばっていて、行為があったことの生々なまなましさを感じてそれを見るだけで脳内に自動再生されてしまう。
 壊れ物をあつかうように優しく素肌をじかさわられていると、フェルディナンの指先の動きが気持ち良くてもっとさわってほしいと思う気持ちが高まってくる。

 フェルディナンは私の愛撫あいぶに応えて軽く口を開けると、ゆっくりと私の唇をむように甘噛あまがみを返してきた。あまりにも自然な仕草しぐさで唇を吸われてしまう。
 フェルディナンのうつろな様子からしてほとんど無意識に反射的に動いているだけのようだった。唇を重ねられたから重ね返しているような。とても単純なもの。けれどそれを自然に出来る位にお互いを思い合えていることが私は何よりも嬉しかった。
 フェルディナンは時間を掛けてまったりとした様子で私の唇に唇を重ね続けている。それから10分ほど経過してようやく少し満足したようでフェルディナンは私の唇から唇を離した。

「月、瑠……?」
「えっと、あの起こしちゃった? ごめんなさい」

 フェルディナンが眠そうに紫混じった青い瞳を隠しているまぶたを薄っすらと開いた。寝惚ねぼまなこで首をかしげながら私を見ているフェルディナンの綺麗な顔と、首をかしげた拍子ひょうしに砂金のように光りながらサラサラと流れる金の髪にドキッとして不覚ふかくにもときめいてしまう。

 「……どうしたんだ?」
 「な、なんでもないの」
 「そう、か……」

 とろんとした顔でつぶやくように返事を返すと、フェルディナンは再び瞳を閉じてしまった。そうしてまた静かに寝息を立て始めたフェルディナンの胸元で私は高鳴る心臓を抑えるのに必死だった。

 ……び、びっくりした。寝惚ねぼけてるだけで起きてる訳じゃないんだよね?

 反射的な行動だとは分かっていても。まさか応えてくれるとは思っていなかった。あまりにも優しく胸元に抱き寄せられて。またフェルディナンの腕に身を任せてしまいたくなる。
 ドキドキしている自分の身体を自身で抱き締めて少し落ち着かせる。そうして触れた私の身体はフェルディナンとの行為によって全身が汗でしっとりとれていた。こうして自分の身体の状態を自覚させられるたびに、その汗にどの位フェルディナンのものが混ざっているのか分からない位に触れ合っていた事を思い出してしまう。
 昨日の様子といい、この寝顔といい。生殖時期せいしょくじきのフェルディナンは何時いつにも増して色気が半端はんぱない。一度ひとたび油断して心を許してしまうと――まるで野生の獣のように強く攻められて求められてしまう。それもとびきり綺麗な紫が混じる青い瞳と黄金の毛の野獣へと変わってしまうのだから抵抗しにくくて困る。何をされても許してしまいそうだ。

「……とりあえず生殖時期せいしょくじきは終わったんだし、もう自分の部屋に戻らないと――そうしないとこれ以上何かあったら身がもたない……」

 私は緩く身体に回されているフェルディナンの腕を身体からそっとはずして、何も身に付けていない自分の身体にシーツを巻き付けた。そして静かに寝息を立てているフェルディナンをベッドに残していずるように床に降りた。
 降りたというよりも床に座り込んだという方が正しいのかもしれない。気怠けだるい疲れと火照ほてりとで身体が何時いつものように動かない。それも腰が立たないので仕方なくズルズルと足を引きずる様な格好でいずりながら扉の方へ向かって前進する。そうしてなんとか扉の前まで辿り着いた。けれど、それから先をどうすればいいのか私は分からなかった。

 うーん、フェルディナンの部屋を出てここから屋敷の使用人達に見つからずに自分の部屋まで戻るにはどうすればいいんだろう? まさかこのままいずりながらって訳には流石さすがにいかないし……

 私はとりあえず扉を開けて外の様子を見る事にした。扉に手を掛けて少しだけ隙間すきまを開けてこそっと顔を出してみる。

「おはよう」

 顔を出した途端とたん、聞こえてきたのはイリヤの声だった。

「……おはようございます」

 あの時はよくも置いてきぼりにしてくれましたね……と、私はうらみのこもった目を扉の直ぐ横に立っているイリヤに向けた。

「一週間お疲れ様。それと昨日は朝から晩までだったっけ? やっぱり立てなくなってる?」
「ええ、まあ……」

 私から向けられる視線の意味にイリヤはちゃんと気付いているくせに、まるで他人事のように振る舞って綺麗にかわされてしまう。イリヤは何事もなかったかのようにフェルディナンの生殖時期せいしょくじきが始まった一週間前の別れぎわに見せた天使の笑みを私に向けてきた。
 私達はこの一週間、一度も顔を合わせていなかった。私はずっとフェルディナンの部屋に半ば監禁状態で。外に出ることをフェルディナンは一度も許してくれなかった。当然この一週間はフェルディナン以外の人と一度も顔を合わせていない。
 そしてそうなることを使用人達は皆心得ていて、食事も扉の前に何時いつもタイミングよく置かれていたし、何か取りに行く時はフェルディナンが正気に戻った時に部屋を出て取りに行っていた。それも出て行く時は施錠せじょうして行くという徹底ぶり。自力で部屋から出る事はほぼ不可能な状態だった。

「…………」

 シーツを巻き付けただけの恰好で床に座り込みながら無言でイリヤをジーと見上げていると、イリヤは後頭部に手を当ててまいったなという顔をした。

「そんな顔して見ないでよ。一応俺も少しは心配していたんだからさ……」
「私の腰が立たなくなるのを予測して、ですか?」
「うんまあ、昨日は一日中部屋から月瑠の鳴く声がれていたみたいだから、そうなるんじゃないかなっとは思ってたよ」
「……まさか、ずっと扉の前にいたなんて言わないですよね?」
「いないよ。近くを通った時に聞こえてくることが多かったからそう思っただけだし。それにフェルディナンが約束したでしょ? もうしないって。だからもし二人がそういう事している最中さいちゅうに俺が監視してたらフェルディナンに止められる。知ってて放置はもうしないさ」
「そっか……――って、あのぉ~イリヤの方はのぞしないって約束してくれないんですか? どちらかと言えばイリヤがしないって約束してくれれば全て丸く収まるんですけど」

 フェルディナンが約束してくれたのはのぞされているのが分かっていたらもうそのまま放置しない。と、いうことであってそれをしている張本人ではない。のぞされていてもあまりフェルディナンは気にしていなさそうだから、私と同じ被害者というよりもどちらかと言うと第三者的な視点で物事を考えていそうな気がする。

「あー、うんまあ。そうなるよね」
「なりますよね」 

 イリヤにしてもフェルディナンにしても二人は私とは少し感覚がずれているようだ。そしてイリヤの方は私と約束をするつもりはないようで、私から視線を外してそっぽを向いている。すきがあればまたやらかしそうな雰囲気だった。

 まあもし、イリヤがまたのぞき……監視しようとしてもフェルディナンが止めてくれるからまあいいかな……?
 
 私は小さく溜息を付いてから改めてイリヤに向き直った。

「イリヤ、お願いがあるんだけど」
「なんだい?」

 人の良さそうなお兄さんの顔でイリヤは赤い瞳を緩めて笑っている。

「私を私の部屋まで連れて行ってほしいの」

 私の言葉を聞いた瞬間イリヤの顔が固まった。

「それってつまり、君を抱き上げて君の部屋まで送ってほしいってこと?」

 今は無邪気な子供のような顔をして眠っているフェルディナンが起きてしまった時の事を思うと、早々に逃げ出した方が無難ぶなんだ。これ以上ああいう行為をされては身がもたない。

「そういうことです」

 イリヤは少し嫌な顔をした。

「それ、もしフェルディナンにばれたら俺殺されそうなんだけど……ばれたらというか確実にばれるんだけど」
「……そうですよね」
「「…………」」

 私達は二人で同時に沈黙してお互いに見つめ合っていた。

 これは……目線を先にらした方が負けるっ! 

 そう直感して私はまばたき一つしないでイリヤの顔をジッと見つめ続けた。そうして互いに無言の攻防が続いて先に折れたのはイリヤの方だった。

「……ふぅ、あーもう分かったよ! 俺の負け!」

 長い肩にかかっている銀髪を乱暴に払いのけて、イリヤは私の前にやってきた。

「フェルディナンには自力で何とかしたっていうんだよ? どうせばれるだろうけどさっ」

 不機嫌そうにそう言って目の前に立ったイリヤに私はコクコクとうなずいて幼子おさなごのようにイリヤに向かって手を伸ばしてしまった。兄の様な存在のイリヤに甘え切っている自分の行動をどう思われてしまったのか気になったけれど、当の本人は顔色一つ変えずにこちらを見ている。
 イリヤは床の上で座り込んでいる私の前に軽くかがみ込んでからそっと私を抱き上げてくれた。しなやかな見た目よりも力のある腕にふわっと抱き上げられて少しだけ気恥ずかしさに目を泳がせている私に、イリヤはふっと深紅の瞳を細めると口元からわずかに八重歯やえばのぞかせて笑った。

 今迄はドタバタした状況が続いてフェルディナンに付きっきりだったし、イリヤの行動に振り回されることが多くてすっかり忘れていたけれど、彼が何処どこかの貴族か王族かといった王子様的な容姿の持ち主だったという事を私はハッキリと思い出してしまった。
 エロティックな雰囲気と獰猛どうもうさをそなえた月光の似合う美貌びぼう。そんなイリヤにシーツ一枚を体に巻き付けただけの恰好で抱き上げられているなんてはたから見たらかなり誤解を受けそうな場面だった。

「あの、イリヤ。早く部屋に連れて行ってほしいのだけど……」

 動揺を隠す為に早口で話す私に、イリヤは怪訝けげんな表情を向けた。

「……何だかその言い方って、男としてはちょっと危ない感じがするんだけど」
「危ない?」
「うん、……まあいいや」
 
 不思議そうな顔をしている私を見てイリヤは何でもないと首を横に振って一人で納得してしまった。フェルディナンの部屋の扉を静かに閉めてイリヤは私を両手で抱き上げたまま私の部屋に向かって歩き出した。



 私の部屋に到着するとイリヤは部屋の中に入ってそっと私をベッドの上に降ろしてくれた。すごく大切にされていると勘違いしてしまいそうになる位に優しくあつかわれて。私は思わずイリヤから目線をはずしてしまう。

 私はイリヤのことお兄ちゃんみたいに大切な存在だと思ってるけど、イリヤにとって私はどういう存在なのかどう思われているのかは分からないんだから、あまり期待しないようにしないと……

 間接的とはいえイリヤの恋人だった結良ゆらが獣人との抗争に巻き込まれて亡くなった元凶の一つが私であることは変えようがない。

 卯佐美うさみ結良ゆら――彼女はイリヤの大切な人で恋人。イリヤと結婚を誓い合った仲で。私の前にこの乙女ゲーム世界にいた異邦人ラヴァーズ。私と同じ世界から来た私と同い年の16歳の女の子。4月2日に獣人との抗争に巻き込まれて亡くなった。
 ――私は彼女の事をその程度にしか知らない。



「イリヤは結良ゆらを助けに行けなかった。――いや、行くことが出来なかったというのが正しいな。結良ゆらが死にかけている時、イリヤは俺が依頼した仕事に出ていた。だからイリヤは結良ゆらの危機に気付くことが出来なかった」
「イリヤに依頼した仕事って、何なの?」
「結良の次に来る異邦人ラヴァーズが現れる場所の特定だ」
「それって、まさか……」
「月瑠――君のことだ」



 あの時のフェルディナンとの会話を思い出すと何時いつも、イリヤに嫌われたくないという思いがつのってせつない気持ちになる。どうしてもその事についてイリヤにどう思っているのか聞く勇気がない。嫌われたくなくて私はそれを等閑なおざりにしてしまっていた。

「ありがとうイリヤ」
 
 部屋に連れて来てくれたお礼を言ってベッドの横に立っているイリヤを見上げた。 

「どういたしまして。それにしてもフェルディナンは相当君に弱いよね」

 イリヤは腰に手を当てて面白そうな表情で私を見ている。

「弱いって何の事ですか?」
「普通は還元剤かんげんざいなんて使ったら、もっと暴走していてもおかしくないところなのに、一応すんでのところでとどまって君の反応を確かめていたからさ」
「私の反応って……」
「月瑠に嫌われたくないから月瑠が大丈夫そうかどうか、様子を見ていたって感じだったかな」

 嫌われたくないという単語がイリヤの口から出てきたことにドキッとする。なんとか冷静を装って私は返事を返した。

「様子を見ていたって?」
「少なくとも俺が一緒に月瑠達といた時のフェルディナンは、月瑠からそういう事をしていいって許可が下りるのをずっと大人しく待っているみたいだったけど?」
「私の許可……」
 
 そう言われてみれば確かにフェルディナンは子犬のような顔をして私の様子をずっと見ていたような気がした。いきなり強引になっても肝心かんじんのところでは私がいいと思うまで手を出さないで待っていた気がする。

「そう言えばそんな感じもしたような気がします」
「あの選びたい放題、見取みどりでそういう相手には一度も苦労したことのないような人が、そこまで気を遣う相手何てそうそういないと思うけど」
「え、えらびたいほうだい……っ!?」
「えっと、あのさ。月瑠? 反応してほしい所はそこじゃないんだけど」
「だってぇ!」 

 涙目でイリヤを見返すとイリヤはやれやれと言った様子で私の頭をポンポン叩いた。

「今は月瑠しかいないんだからいいじゃないか」
「そうなんだけど、改めてそう言うこと聞いちゃうとどうにも……」
「だからフェルディナンは極力月瑠にそういう話しないんだろうね」
「うっ、確かにフェルディナンは聞いても全く話てくれないです」
「そうだろうね。好きな相手を泣かせるような話はしたくないと思うよ?」
「……あの、じゃあイリヤは教えてくれる? 具体的なこと」
「……それってフェルディナンの相手がどういうやつだったか話せって事?」
「えっと、うん。まああの、何というか……どうせショックを受けるならフェルディナンがどういう人が好きなのか知りたいなって思って」

 といっても相手は全員男の人だからあまり参考にはならなそうだけど。どちらかというと女体化にょたいかした時の姿を参考にさせてもらえたら有難い。

「フェルディナンの好みが知りたいなら本人に直接聞いた方がいいと思うけどな」
「教えてくれないの?」
「ここで月瑠に余計なこと言ってフェルディナンの不興ふきょうを買いたくないんだよ」

 イリヤが何も教えてくれないことに駄々だだねる子供の様にムウッとして頬を膨らませながらベッドの上で不貞腐ふてくされていると、イリヤは苦笑しながらとても穏やかな顔で私の頭を優しくでた。

「――ねえ、月瑠。俺はさ、二人共大好きなんだよ」
「イリヤ……?」

 私は突然何の話だろうと目を白黒させて、怒っていた事も忘れたようにイリヤを見てしまった。驚いている私の反応に構わずイリヤは本当に大切なものを見るような視線を私に向けて来る。

「だから二人を見守るのは俺の役目だって思ってる。亡くなった結良ゆらの分までね」
 
 そう言うイリヤの赤い瞳が心なしかせつない光を放っているように見えた。
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