責任とって婿にします!

薄影メガネ

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本編

4、本来あるべき場所

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 リリヤが魔女であることをレティーツィアが知ったのは、一年前の祭典での出来事がきっかけだった。

 サマースキル公国で毎年盛大に催される花の冠の装飾を競う大会──花の祭典フローラリア。始まりは十数年前と歴史は浅く、当初は国内のみで開催される小規模なものであったが。
 黒の女王ブラッククイーンこと、黒の魔女が主催する恒例こうれい行事として、近隣諸国からも非常に装飾技術が高いと定評の、本祭典への参加者は国内のみにとどまらず。徐々にその規模を増していき。やがて世界各国から多くの人々が集まる世界的イベントにまで成長した。

 花の祭典フローラリアは観光を主要資源の一つとするサマースキル公国の重要な宣伝手法であり。多大な経済効果を上げる潤滑油じゅんかつゆとして今やなくてはならない例年行事となっている。

 そして一年前──その年の花の祭典フローラリアもまた、例年通りつつがなくり行われ。花屋の娘のレティーツィアも当然それに参加していた。

 レティーツィアは花屋の娘というだけあって毎年祭典に参加している常連だ。そして何度か優勝を射止めたこともあり、花の知識と装飾の腕は公国でも最高レベルの腕前を持っている。そんなレティーツィアだったが参加直前に誤って花切りバサミで指先を切ってしまった。

 花の祭典フローラリアを見学に来ていたリリヤは、たまたまその一部始終を目撃してしまったのだが。癒しの魔力を使って助けるかどうか躊躇ちゅうちょした。
 何故なら、一般的に癒しの魔力は高度とされており。高位魔術を得意とする魔女はそういない。それも長年奉仕活動を続けて表舞台にいた白の魔女が癒しの魔力を使えるのは国内外問わず有名で。魔力の使用は正体を明かすことと同義だったからだ。
 更にはレティーツィアは正義感が強く、不正や曲がったことを酷く嫌っていた。だからリリヤは傷を治すと決めたとき、自分の正体が知れるのを覚悟した。

 ──が、
 何故魔女のリリヤが人間になりすまして生活しているのか。答えは分かっているはずなのに、レティーツィアは何も聞こうとはしなかった。リリヤがレティーツィアの指先を治療していたときも、ただじっと椅子に座って静かに経過を見ていた。

 治療の甲斐かいもあって、その年の花の祭典フローラリアは見事レティーツィアが優勝を飾り。そうして怪我を治したのをきっかけに、リリヤとレティーツィアは少しずつ言葉を交わすようになっていった。
 レティーツィアの年は一年前の当時、リリヤが偽っていた年齢と同じ十六歳だったが性格は真反対。不器用なリリヤと違ってレティーツィアは何でも器用にこなす天才肌。
 何もかもが違っていた二人だったが不思議と気が合った。

 少し気が強くて明るく聡明。その上、公国内でも大変評価の高い花の祭典フローラリアの優勝者。美人で頼りがいのある姉御肌のレティーツィアはとにかくモテた。一緒に町中を並んで歩くと、必ずといっていいほどレティーツィア目的の男が声をかけてくる。
 ちなみにその隣を歩くリリヤはというと……
 普通の人間の町娘に見えるよう、幻術により姿形に幻影を被せ、目立たないようにしていることもあって。大概たいがいは存在しないかのように無視、もしくは素通りされるのが常だ。リリヤにとって親しい友人ができること自体、あり得ない話だった。

 親友と呼べる間柄になってからも、レティーツィアはリリヤが魔女であることを知りながら、何も言及げんきゅうすることはなく。深入りしようともしない。一緒に笑って、お喋りして。まるで普通の人間の少女を相手にするように接してくれる。

 ──真の友と呼べる人ができた。

 この人なら自分を裏切らない。信頼できる。そう、リリヤは思っていた。

 しかし、だからこそ。そうではなかったのだと突き付けられた今、レティーツィアの密告は酷くリリヤの心をえぐった。
 
 未だ信じたい気持ちと、けれど眼前にいるレティーツィアの裏切りという明らかな事実がぜになって、リリヤは自分で思っている以上に混乱していた。

「──彼女の証言どおり貴女が本物の白の魔女なのか。その真偽を確かめるため悪いが王城までご同行願いたい。別の魔女ヽヽヽヽであることが分かったら即座に解放することを約束しよう」

 失意のどん底にあるリリヤにとって、オルグレンの淡々とした事務的な物言いが、余計に自尊心を傷付けた。

「確かめるですって? どうやって? 公子様直々に服でも脱がせるおつもりかしら? ふふっまあいいわ。私、気が変わりました」

「それは……どういう意味だ?」

 リリヤは俯きがちなレティーツィアの方をチラ見すると、自嘲気味に笑って再びオルグレンに向き直った。

投降とうこうします。私は白の魔女、リリヤ・ソールズベリー。……公子様、私が貴方の命を奪った魔女です」

 これ以上、民の前で失態を演じるのは御免だと。高い矜持きょうじに背中を押され、リリヤはついに名乗りを上げた。その、まるで復讐を予告するような告白に、周囲からどよめきが沸き起こる。
 
(もうどうだっていい……)

 信頼していた友人の裏切りに、リリヤは自棄やけを起こしていた。
 不審に細められたオルグレンの紫暗しあんの瞳を真っ直ぐ見据えて。もう一度、はっきりとリリヤはそれを口にした。

「──大人しく捕まります。そう申し上げているのです」

 自分はどうなってもいい。誤魔化しもお膳立ても必要ない。
 本来あるべき姿に。あるべき場所に戻るだけだ。
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