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第一章 OBEY

第八話 剣客のそれ

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 それから程なく、番傘をさした京都町奉行の与力よりきが、部下の同心どうしん達を引きを連れて、悠長に歩いて現れた。

「なんだ。もう、済んだのか」
 
 と、失笑し、蔦屋の周囲を見渡した。

「蔦屋。これは全部、お前の仕業か?」
「ご覧の通りですよ。壬生浪士組の芹沢鴨にゆすられて、追い返したらこのざまです」
 
 蔦屋だという若い男は、横一文字に血振りを行い、さやに刀を収めている。
 無駄のない一連の所作は、人を斬り慣れた剣客のそれだった。

 沖田は肩を貸そうとする隊士の助けを目顔で断り、起き上がりながら詰問した。


「剣は何流をお使いになる?」
「何です? 急に。私の剣は、ただの見よう見まねの素人です。何流でもありません」
 

 真顔の沖田を苦笑しながらそつなくいなし、蔦屋は土間に倒れた鼠色ねずいろの着物の男の元に駆けつける。


「大丈夫ですか? 花村さん」
「だ、……旦那様」
 
 蔦屋に抱き起こされた花村が薄目を開け、事の次第を確認しようとするためか、ふらつく頭を片手で支えて巡らせた。

そんな花村の耳元で、主人が番頭に囁いた。

「後を頼みます。花村さん」
「旦那様……?」
「ひとまず私は、御縄を受けます。ですが、早ければ今夜中、どんなに遅くても明後日までには帰れます。ですから、それまでは店と佑輔ゆうすけを……」
 

 どういう意味だと瞠目している花村に、目力で強く念を押し、蔦屋は同心の捕縛を甘んじて受けている。

 その時、ようやく沖田は我に返り、京都町奉行の与力の前に進み出た。


「待って下さい! この者が討ったのは、京都守護御預かりの隊の者。しかも洋銃を隠し持つなど、ただの町人だとは思えません。この男の詮議せんぎは私どもに承りたい」
 
 沖田は与力に詰め寄った。
 けれども、与力はその申し出を、一笑に伏して言い返す。

「確かに御預かりとはいえ、ろくを受けておられる訳ではございますまい」
「……何ですって?」
「そちらが御預かりの御身分ならば、当方も、京都守護職直属の町奉行でございます。洛中らくちゅうにおける町人百姓らの検使は我ら、京都町奉行の役目にございますれば、この男の身柄は当方で貰い受けたい」

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