8 / 96
第一章 OBEY
第八話 剣客のそれ
しおりを挟む
それから程なく、番傘をさした京都町奉行の与力が、部下の同心達を引きを連れて、悠長に歩いて現れた。
「なんだ。もう、済んだのか」
と、失笑し、蔦屋の周囲を見渡した。
「蔦屋。これは全部、お前の仕業か?」
「ご覧の通りですよ。壬生浪士組の芹沢鴨にゆすられて、追い返したらこのざまです」
蔦屋だという若い男は、横一文字に血振りを行い、鞘に刀を収めている。
無駄のない一連の所作は、人を斬り慣れた剣客のそれだった。
沖田は肩を貸そうとする隊士の助けを目顔で断り、起き上がりながら詰問した。
「剣は何流をお使いになる?」
「何です? 急に。私の剣は、ただの見よう見まねの素人です。何流でもありません」
真顔の沖田を苦笑しながら札なくいなし、蔦屋は土間に倒れた鼠色の着物の男の元に駆けつける。
「大丈夫ですか? 花村さん」
「だ、……旦那様」
蔦屋に抱き起こされた花村が薄目を開け、事の次第を確認しようとするためか、ふらつく頭を片手で支えて巡らせた。
そんな花村の耳元で、主人が番頭に囁いた。
「後を頼みます。花村さん」
「旦那様……?」
「ひとまず私は、御縄を受けます。ですが、早ければ今夜中、どんなに遅くても明後日までには帰れます。ですから、それまでは店と佑輔を……」
どういう意味だと瞠目している花村に、目力で強く念を押し、蔦屋は同心の捕縛を甘んじて受けている。
その時、ようやく沖田は我に返り、京都町奉行の与力の前に進み出た。
「待って下さい! この者が討ったのは、京都守護御預かりの隊の者。しかも洋銃を隠し持つなど、ただの町人だとは思えません。この男の詮議は私どもに承りたい」
沖田は与力に詰め寄った。
けれども、与力はその申し出を、一笑に伏して言い返す。
「確かに御預かりとはいえ、禄を受けておられる訳ではございますまい」
「……何ですって?」
「そちらが御預かりの御身分ならば、当方も、京都守護職直属の町奉行でございます。洛中における町人百姓らの検使は我ら、京都町奉行の役目にございますれば、この男の身柄は当方で貰い受けたい」
「なんだ。もう、済んだのか」
と、失笑し、蔦屋の周囲を見渡した。
「蔦屋。これは全部、お前の仕業か?」
「ご覧の通りですよ。壬生浪士組の芹沢鴨にゆすられて、追い返したらこのざまです」
蔦屋だという若い男は、横一文字に血振りを行い、鞘に刀を収めている。
無駄のない一連の所作は、人を斬り慣れた剣客のそれだった。
沖田は肩を貸そうとする隊士の助けを目顔で断り、起き上がりながら詰問した。
「剣は何流をお使いになる?」
「何です? 急に。私の剣は、ただの見よう見まねの素人です。何流でもありません」
真顔の沖田を苦笑しながら札なくいなし、蔦屋は土間に倒れた鼠色の着物の男の元に駆けつける。
「大丈夫ですか? 花村さん」
「だ、……旦那様」
蔦屋に抱き起こされた花村が薄目を開け、事の次第を確認しようとするためか、ふらつく頭を片手で支えて巡らせた。
そんな花村の耳元で、主人が番頭に囁いた。
「後を頼みます。花村さん」
「旦那様……?」
「ひとまず私は、御縄を受けます。ですが、早ければ今夜中、どんなに遅くても明後日までには帰れます。ですから、それまでは店と佑輔を……」
どういう意味だと瞠目している花村に、目力で強く念を押し、蔦屋は同心の捕縛を甘んじて受けている。
その時、ようやく沖田は我に返り、京都町奉行の与力の前に進み出た。
「待って下さい! この者が討ったのは、京都守護御預かりの隊の者。しかも洋銃を隠し持つなど、ただの町人だとは思えません。この男の詮議は私どもに承りたい」
沖田は与力に詰め寄った。
けれども、与力はその申し出を、一笑に伏して言い返す。
「確かに御預かりとはいえ、禄を受けておられる訳ではございますまい」
「……何ですって?」
「そちらが御預かりの御身分ならば、当方も、京都守護職直属の町奉行でございます。洛中における町人百姓らの検使は我ら、京都町奉行の役目にございますれば、この男の身柄は当方で貰い受けたい」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる