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第二章 死がふたりを分かつとも
第56話 足枷
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サリオンは焼き肉を一旦皿に戻し、汚れた口回りを布で拭って目を細めた。
クスリと笑ったミハエルも、組んだ方の足先を、ぶらぶら揺らして和んでいる。
「今回はサリオンが連れて行かれて、皇帝も火がついたみたいに早く動いてくれたけど。皇帝はサリオンが絡んでなくても同じように、俺の側についてくれたんじゃないのかな。あの方は、そういう御方だ」
不意にミハエルが口調を改め、射抜くようにサリオンを凝視した。
サリオンは喉元を槍で突かれたようになり、ぐっと息を詰まらせる。
思わず伏せた顔の下では、銀の皿が並べられた銀の盆が冴え冴えとした光を放っている。
炭火で焼いた猪や兎や鳩肉の盛り合わせ。ガチョウの卵のパイ包み焼きに、ムール貝の蒸し焼きや、何種類ものチーズや果物。上質な小麦で作った雪のように白いパンと、パンに添えられた生ウニやエビのオイル煮。
それらは皇帝アルベルトが食している、日々の豪奢な晩餐だ。
本来ならば、ひと握りの権力者にしか許されない特権として享受し、独占できる恩恵を、公娼の下働きのオメガにも、惜しみなく与える変わり者。
サリオンは唇をぎゅっと引き結び、胸の中でもう一度、本当に変わり者だと、呟いた。
左胸を打ちつける鼓動が徐々に高く強くなり、頬に血の気が上ってくる。
「もちろん、テオクウィントス帝国の皇帝は、俺の国もお前の国も滅ぼした侵略者だ。属国にして自分の国を豊かにした。征服した国の捕虜は奴隷にして、道具のように使っている。領土の農地で畑仕事に就かせたり、道路や橋や貴族の別荘の建設現場で、重い石を引かせたり……。港で一日中、荷卸しをさせられる奴もいれば、侵略国のアルファやベータの奴等に、ベッドでの奉仕をさせられる奴隷もいる」
ミハエルは、まるで饗宴で詩句を朗読し、招待客を楽しませる 吟遊詩人か何かのように、淀みなく話を続けている。
「俺もお前と同じように、戦勝国の皇帝としてのアルベルトも、提督としてのダビデも心の底から憎んでいる。だけど、圧倒的な国力を誇る帝国の皇帝だという立場も役割も、アルベルトには枷のようなもんだろう。……奴隷のオメガ達が、足首に繋がれる鉄球付きの太い鎖が、アルベルトの足首にもはまっていて、あの人は皇帝という鉄球を、引きづりながら生きている」
脳裏にアルベルトの面影を描いてでもいるかのように、ミハエルは眉をひそめていた。
それはサリオンに聞かせるというより、ほとんど独白に近かった。
それなのにサリオンは、部屋の隅に追いやられ、逃げ場を失くしていくようで、身体が萎縮するのがわかる。
それでも黙って聞いていた。
ミハエルがまだ本当に言いたいことを、言い切っていない気がしたからだ。
「俺は、お前といる時のあの人の顔を見ていると、皇帝なんて足枷は、外したいと思ってるんじゃないかって、感じる時もあるぐらいだ」
「ミハエル様……」
サリオンは驚いて顔を上げた。
視線が思いがけなくかち合ったミハエルは、応えるように微笑んだ。
「お前がこの国の軍人に、番を殺された話は聞いている。そのせいで、子供が産めない体になったお前が公娼では、アルファや富裕層のベータの跡継ぎを産むための男娼じゃなくて、下働きの奴隷にされた経緯も、大体知らされた。そうでもなければ、お前ほど整った顔の若いオメガが、売り物にされないはずがないからな」
クスリと笑ったミハエルも、組んだ方の足先を、ぶらぶら揺らして和んでいる。
「今回はサリオンが連れて行かれて、皇帝も火がついたみたいに早く動いてくれたけど。皇帝はサリオンが絡んでなくても同じように、俺の側についてくれたんじゃないのかな。あの方は、そういう御方だ」
不意にミハエルが口調を改め、射抜くようにサリオンを凝視した。
サリオンは喉元を槍で突かれたようになり、ぐっと息を詰まらせる。
思わず伏せた顔の下では、銀の皿が並べられた銀の盆が冴え冴えとした光を放っている。
炭火で焼いた猪や兎や鳩肉の盛り合わせ。ガチョウの卵のパイ包み焼きに、ムール貝の蒸し焼きや、何種類ものチーズや果物。上質な小麦で作った雪のように白いパンと、パンに添えられた生ウニやエビのオイル煮。
それらは皇帝アルベルトが食している、日々の豪奢な晩餐だ。
本来ならば、ひと握りの権力者にしか許されない特権として享受し、独占できる恩恵を、公娼の下働きのオメガにも、惜しみなく与える変わり者。
サリオンは唇をぎゅっと引き結び、胸の中でもう一度、本当に変わり者だと、呟いた。
左胸を打ちつける鼓動が徐々に高く強くなり、頬に血の気が上ってくる。
「もちろん、テオクウィントス帝国の皇帝は、俺の国もお前の国も滅ぼした侵略者だ。属国にして自分の国を豊かにした。征服した国の捕虜は奴隷にして、道具のように使っている。領土の農地で畑仕事に就かせたり、道路や橋や貴族の別荘の建設現場で、重い石を引かせたり……。港で一日中、荷卸しをさせられる奴もいれば、侵略国のアルファやベータの奴等に、ベッドでの奉仕をさせられる奴隷もいる」
ミハエルは、まるで饗宴で詩句を朗読し、招待客を楽しませる 吟遊詩人か何かのように、淀みなく話を続けている。
「俺もお前と同じように、戦勝国の皇帝としてのアルベルトも、提督としてのダビデも心の底から憎んでいる。だけど、圧倒的な国力を誇る帝国の皇帝だという立場も役割も、アルベルトには枷のようなもんだろう。……奴隷のオメガ達が、足首に繋がれる鉄球付きの太い鎖が、アルベルトの足首にもはまっていて、あの人は皇帝という鉄球を、引きづりながら生きている」
脳裏にアルベルトの面影を描いてでもいるかのように、ミハエルは眉をひそめていた。
それはサリオンに聞かせるというより、ほとんど独白に近かった。
それなのにサリオンは、部屋の隅に追いやられ、逃げ場を失くしていくようで、身体が萎縮するのがわかる。
それでも黙って聞いていた。
ミハエルがまだ本当に言いたいことを、言い切っていない気がしたからだ。
「俺は、お前といる時のあの人の顔を見ていると、皇帝なんて足枷は、外したいと思ってるんじゃないかって、感じる時もあるぐらいだ」
「ミハエル様……」
サリオンは驚いて顔を上げた。
視線が思いがけなくかち合ったミハエルは、応えるように微笑んだ。
「お前がこの国の軍人に、番を殺された話は聞いている。そのせいで、子供が産めない体になったお前が公娼では、アルファや富裕層のベータの跡継ぎを産むための男娼じゃなくて、下働きの奴隷にされた経緯も、大体知らされた。そうでもなければ、お前ほど整った顔の若いオメガが、売り物にされないはずがないからな」
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