皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第二章 死がふたりを分かつとも

第58話 人としてのアルベルト

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 アルベルトは二十代半ばで帝位に就くと、テオクウィントス国の陸海軍の進軍を、従来の大集団一斉攻撃方式から、皇帝直属の中央軍と、ダビデ提督を総司令官とする属軍隊に二分した。 

 そ中央軍での決定事項を、属軍隊の総司令官に命令する。

 属軍隊を率いるダビデは中央軍の指示に従い、軍団兵を指揮する立場だ。
 つまり、行軍においては皇帝アルベルトが、軍人のダビデ提督の上官にあたる。


 これまでの一斉攻撃方式の大集団を率いる中央軍と、ダビデ提督率いる実戦部隊の軍装歩兵や、騎馬兵で編成された属軍隊に二分割したことにより、敵陣に攻め入る大隊の統率力が増大し、テオクウィントス帝国軍は瞬く間に隣国を掌握した。


 テオクウィントス帝国が圧倒的な勝利をおさめるたびに、帝国の権威は強化された。

 今やローマ帝国に匹敵する大国とまで称されるようになったのは、ひとえに皇帝アルベルトの軍事戦略によるものだ。



 故国クルムでの戦場で、残虐な殺戮や略奪行為に専念した、蛮族のようだった帝国軍等に、それらの行為を許可したのは、実戦部隊の総指令官、ダビデの独断だったのか。
 それとも指令塔たるアルベルトが黙認したのかどうかまで、サリオンはアルベルトに問い質したことは一度もない。

 確かめる必要がないからだ。

 国土を広げる為に行う進撃だ。
 制圧した国からの略奪も、軍事のひとつの目的だ。侵略自体が略奪なのだ。

 そのせいで、番をなぶり殺しにされた自分が、遠征軍の蛮行を許せる理由は見い出せない。


 捕虜は勝戦国の奴隷として、軍部から奴隷市場に売り渡される。
 その後、敗戦国となった故国での、身分や容姿や教養の有無により、勝戦国の上流階層身分のアルファやベータに買われていく。


 賢帝として名高いアルベルトが、高値のつく敗戦国の上流階層のアルファやベータを傷物にするとは考えにくい。

 サリオンの番だったユーリスは、クルムの王族で眉目秀麗。
 そのユーリスを、わざわざなぶり殺しにしろなどと、アルベルトが指示を下すはずがない。

 傷物にするなという意味であると同時に、弱い立場の人間を強者がいたぶり、虐殺するのを見て見ぬふりなどしないはず。そんな確信がサリオンにもある。


 つまり、アルベルトを侵略軍を指揮した為政者としてしか見ないのは、人間としてのアルベルトを、真っ向から否定していることになる。

 それは、アルファやベータの上流階層の人間達が、オメガの自分達をオメガだというそれだけで、人間扱いしないことと同じじゃないのか。


 互いの顔も薄闇に紛れ、見えづらくなった狭い部屋で、ミハエルは俯いたサリオンを覗き込むようにして微笑した。

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