皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第三章 争奪戦

第37話 レナだけは

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 酔っ払い同志のなじり合い。
 か弱い赤子の泣き声が聞こえる部屋の前を数歩過ぎたと思えば、淫猥な性交渉の気配に変わる。

 立て板にすぎない戸の向こうから、途切れ途切れの喘ぎ声と、肉と肉とがぶつかり合う、単調な破裂音まで響き渡っているのだが、住人は誰も気にしない。

 ここで誰が何をしようと、誰が訪れ、誰が去ろうと、気にも留めずにいられる者しか、この住環境では生き残れない。

 
 他人に対して関心を持たず、干渉もしない居住者の集まりだという条件も、サリオンにとっては都合が良い。
 それもまた、避妊薬をキケロから買うことにした要素のひとつだ。

 
 レナのように位の高い公娼は、外出が許可されない。

 だから代行しているのだが、もしもレナが外出できても、ベータの中でも最下層の吹き溜まりのような裏路地にも貧民窟にも、レナには決して立ち入らせない。
 自分が行くと言っただろう。


 レナには美しいものだけ見ていて欲しい。

 時には残酷なまでに無邪気で無垢でいて欲しい。


 それはレナを庇護し、レナより自分の方が強いという自尊心を満足させたいだけなのか、身内に対する愛情なのかは、わからない。

 あの男に会うまでは、愛情だけだと確信できていられたのに、その確信が、不法に建て増しをされた高層住宅のように、徐々に揺らぎ始めている。

 急こう配の階段から転げ落ちたりしないよう壁に手をつき、一段ずつ慎重に下りていく。
 裏路地の高層住宅の中にすら、借家を持てない浮浪者が階段の踊り場に住んでいる。

 汚れた毛布にくるまって、壁にもたれた老人が、彼の『住居』を横断していく自分を、窪んだ目だけで追っていた。

 老人の足元には火が消えた火鉢と、割れたランプ。
 ハエがたかる残飯が盛られた皿や、縁が欠けた水差しなどを、蹴らないように留意しながら階段の踊り場を行き過ぎて、サリオンはようやく一階まで折り切った。


 目前の出入り口に斜めに差し込む夕日が赤く、美しい。


 闇雲に建て増しされた集合住宅を出て薄暗い路地を直進し、石畳で舗装された表通りに辿り着くと、サリオンは肩で大きく息を吸った。
 続いて深々と息を吐き出し、束の間その場で項垂れる。

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