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第三章 争奪戦
第65話 生きた街灯
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ベータの富裕層の居住区から、アルファの王侯貴族が館を構える居住区へ移るに従い、街並はあからさまに変容する。道幅が広くなり、石畳で整然と舗装され、馬車に伝わる振動が格段に減少する。
路地には城壁のように高い塀に覆われた邸宅が並んでいる。
王宮に近づくにつれ、一軒ごとの塀がより長く堅固なものになる。
路地には街灯がないために、屋敷の灯りが外に漏れない富裕層のベータやアルファの居住区は薄暗い。
御者席の脇に取りつけられたランプの灯りを頼りにして、夜道を進む。
サリオンは扉に設しつらえられた外倒し窓を、ある場所まで来て押し開けた。
路地が交差する辻の一角。
夜毎、饗宴を催す貴族達が、奴隷に担がせた屋根付きの輿に乗り、互いの邸宅を行き来する往来を、柱型の篝が照らしている。サリオンを乗せた馬車も、その前を行き過ぎた。
それは、舗道に突き立てられた柱に縛りつけられ、火炙りの刑に処せられた罪人だ。
|藁を用いて簾撒にされ、柱にくくりつけられた彼等は火だるまになりながら、今わの際の叫び声を上げる。
それを王侯貴族のアルファは、街灯代わりに使うのだ。
髪が焼け、人肉が焦げる臭気が開けた窓から入ってくる。
獣じみた咆哮が耳をつんざき、サリオンは唇を固く引き結ぶ。
同じように競技場で罪人を柱にくくりつけ、生きながら猛獣の餌食にさせる公開処刑を、この国の富裕層は娯楽のひとつとして鑑賞する。
そういった娯楽のためには用いらず、街灯として、より蔑さげすんで使うのは、キリスト教徒だ。
帝国ではキリスト教を邪教と定め、弾圧の勅令を施行した。
神話に基づく神々や皇帝を神として崇める国民に反し、一神教のキリスト教徒は皇帝を神として崇めない。
あらゆる者は生まれながらに『自由』であり、『平等』なのだと布教する。
伝道者も信者等も、階級社会の頂点に立つ、ひと握りのアルファに、とって大いなる脅威だからだ。
数において圧倒的多数のオメガやベータの貧民層。
そして、他国から連れて来られた奴隷達がキリスト教を信仰し、平等と自由を求めて暴徒と化したら、支配者層の命が危うい。
そのため、地下組織として潜伏しているキリスト教徒は、信者であることが判明すると捕縛され、凄惨な拷問により、棄教もしくは改教を迫られる。
それでも殉教の道を選ぶ者は、帝国の民のロウソクになる。
夜道を照らす街灯になる。
サリオンは、殉教者の断末魔の号哭《ごうこく》が細くなって消えるまで、膝頭を鷲掴みにして身を固め、耳を澄まし続けていた。
それが責務でもあり、使命でもあり、彼等への弔いでもあるかのように。
骨に刻むようにして。
路地には城壁のように高い塀に覆われた邸宅が並んでいる。
王宮に近づくにつれ、一軒ごとの塀がより長く堅固なものになる。
路地には街灯がないために、屋敷の灯りが外に漏れない富裕層のベータやアルファの居住区は薄暗い。
御者席の脇に取りつけられたランプの灯りを頼りにして、夜道を進む。
サリオンは扉に設しつらえられた外倒し窓を、ある場所まで来て押し開けた。
路地が交差する辻の一角。
夜毎、饗宴を催す貴族達が、奴隷に担がせた屋根付きの輿に乗り、互いの邸宅を行き来する往来を、柱型の篝が照らしている。サリオンを乗せた馬車も、その前を行き過ぎた。
それは、舗道に突き立てられた柱に縛りつけられ、火炙りの刑に処せられた罪人だ。
|藁を用いて簾撒にされ、柱にくくりつけられた彼等は火だるまになりながら、今わの際の叫び声を上げる。
それを王侯貴族のアルファは、街灯代わりに使うのだ。
髪が焼け、人肉が焦げる臭気が開けた窓から入ってくる。
獣じみた咆哮が耳をつんざき、サリオンは唇を固く引き結ぶ。
同じように競技場で罪人を柱にくくりつけ、生きながら猛獣の餌食にさせる公開処刑を、この国の富裕層は娯楽のひとつとして鑑賞する。
そういった娯楽のためには用いらず、街灯として、より蔑さげすんで使うのは、キリスト教徒だ。
帝国ではキリスト教を邪教と定め、弾圧の勅令を施行した。
神話に基づく神々や皇帝を神として崇める国民に反し、一神教のキリスト教徒は皇帝を神として崇めない。
あらゆる者は生まれながらに『自由』であり、『平等』なのだと布教する。
伝道者も信者等も、階級社会の頂点に立つ、ひと握りのアルファに、とって大いなる脅威だからだ。
数において圧倒的多数のオメガやベータの貧民層。
そして、他国から連れて来られた奴隷達がキリスト教を信仰し、平等と自由を求めて暴徒と化したら、支配者層の命が危うい。
そのため、地下組織として潜伏しているキリスト教徒は、信者であることが判明すると捕縛され、凄惨な拷問により、棄教もしくは改教を迫られる。
それでも殉教の道を選ぶ者は、帝国の民のロウソクになる。
夜道を照らす街灯になる。
サリオンは、殉教者の断末魔の号哭《ごうこく》が細くなって消えるまで、膝頭を鷲掴みにして身を固め、耳を澄まし続けていた。
それが責務でもあり、使命でもあり、彼等への弔いでもあるかのように。
骨に刻むようにして。
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