皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第四章 逆転

第32話 そんなことか

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 袖やすそに、赤と金糸で細密な刺繍がほどこされたトガをまとう精悍な男の胸板の厚み、抱きしめる腕の硬さ、うなじにかかる熱い息。

 アルベルトの成熟した男の色香と肉体に絡め取られるようだった。
 それでもそれが出来ずにいた。
 窓枠にかけた手に、いっそう力がこめられる。
 頼もしい恋人に、すべてを投げ出し、すべてを預けて目を閉じる。これからは彼に庇護されてさえいればいいのにと、サリオンは懊悩する。
 
 そんな時、窓枠に寄ったサリオンは、とある十字路に馬車が近づきつつあることを知らされる。
 
 焦げ臭さと、生臭さが入り混じる強烈な臭気が鼻をつく。
 サリオンは視界に入る光景を、瞳を戦慄わななかせながら、まんじりともせず見据えていた。

 アルファや富裕層のベータが行き交う路地の四つ角に、四本の柱が立っている。

 柱にはわら簀巻すまきにされたキリスト教徒が縛りつけられ、火炙りの刑に処されて、生きた街灯にされた残骸。

 炭化したそれを粗末な身形の奴隷達が黙々と処理している。

 まだ、かろうじて息があり、呻き続ける信徒も柱から降ろされるなり、荷車に放り投げられる。
 肉片や髪がこびりつく柱も抜いている。

 黒々と燃えた柱と同じ扱いを受ける焼死体。
 
「どうした?」
 
 と、背後から肩口に顔を寄せられて、サリオンは咄嗟に飛び退いた。
 アルベルトを振り払うようにして反転し、窓枠を背にしたサリオンは束の間、馬車の後部座席で互いの目と目を交わし合う。
 当惑の色を隠さないアルベルトのまっすぐな眼差しを受け止めきれずに、サリオンは目を逸らす。
 二人の間にぎこちない空気が垂れ込める。
 
「……ああ、あれか」

 程なくサリオンの肩に腕を回し、その胸の中に抱き込んだアルベルトが、首を伸ばして窓の外を窺う気配が伝わった。
 納得がいったような口調は安堵したように安らかだ。
 なんだ、そんなことかと言いた気な口ぶりは、サリオンの胸をかき乱し、深くえぐるかのようだった。

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