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第五章 皇帝の寵姫として
第7話 お前はお前だ
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食堂室のテーブルに、向かいあって座るなり、フルートグラスに黄金色のシャンパンが注がれた。
気泡がきれいだ。見惚れてしまう。
アルベルトはフルートグラスの柄を優雅に持ち上げ、軽く掲げた。
「今宵のすべての幸いに」
感謝を念を神に述べると、グラスを傾け、喉を潤す。
サリオンは注いだことはあっても、注がれたグラスをあんな所作で美しく飲むなどできそうにない。
ためらいがちに柄を持って、軽く口に含んでみる。
「……美味い」
「そうか。口に合って良かった」
グラスは早々にテーブルに戻したが、香りの余韻がまだあった。
フルーティで、程よい酸味と甘みが空っぽの胃にしみるかのようだった。
それを合図とするように、部屋の壁際でバイオリンやピアノなどの奏者が、和やかで優しい楽曲を奏で始める。
それは、レナを買ったアルベルトが、饗宴の間でさせていたことと変わりはない。
宴席でも面白おかしく曲芸師を読んだり、美少年に薄衣を着せ、躍らせるなどの乱痴気騒ぎは、好まない。
今、ここにレナがいないことだけが、いつもと違う。
レナの立場に自分をすげ替え、王室御用達のシャンパンを飲んでいる。
しかも、アルベルトに連れて込まれたままの身なりだ。
すりきれた貫頭にに、埃まみれの古いサンダル。髪に櫛も入れていない。
場違い感しか頭になかった。
磨き抜かれた銀のフォークやナイフなどのカトラリーも、美しく並べられている。
二人分の小ぶりのテーブルに、焼き立てのパンと生ハムと、まっ黄色のオムレツときのこのソテー、にんにくと刻んだ玉ねぎを乗せて焼いたムール貝の皿などが次々と並べられ、給仕を済ませた奴隷の下男は二人の死角になる位置で待機をする。
ワインが減ったら注ぎ足したり、主人の手が汚れたら、バラの花びらを浮かべた器で主人の指を洗い、絹のハンカチで拭くためだ。
「どうした? 冷めないうちに早く食え」
アルベルトは早速ムール貝を取り皿に取る。
「お前の食卓には貝が必須だからな」
と笑い、フォークで身をこそげ取って口に入れた。食欲をそそる香りが立って、腹の虫が鳴きそうだ。
けれども、すっかり気後れをして、食事が喉を通りそうにもない気がした。
「どうかしたのか?」
「……俺みたいに薄汚れていて、古着の貫頭衣のオメガと食事を一緒にするなんて。申し訳ない気がしてくるんだ」
せっかくの華やいだ食卓に一点の黒いインクを落としたように、興ざめさせてしまうのではと、気が気でなかった。
「また、それを言う! お前と二人で食事をするのが夢だったんだと、何度言えばわかるんだ」
大きく目を見開いた皇帝の指先を、ひざまずいた奴隷がバラの香りを移した器の水でそっと洗い、絹の布で拭いている。それは皇帝にとっては食事のたびの情景なのだが、自分はあくまでひざまずく方の人間だ。
王宮に来て、皇帝アルベルトと距離も溝も深まるばかりだ。
罪深く感じるだけだった。
サリオンは、どうしてもそれを享受できない自分がいるだろうことは、わかっていた。
気泡がきれいだ。見惚れてしまう。
アルベルトはフルートグラスの柄を優雅に持ち上げ、軽く掲げた。
「今宵のすべての幸いに」
感謝を念を神に述べると、グラスを傾け、喉を潤す。
サリオンは注いだことはあっても、注がれたグラスをあんな所作で美しく飲むなどできそうにない。
ためらいがちに柄を持って、軽く口に含んでみる。
「……美味い」
「そうか。口に合って良かった」
グラスは早々にテーブルに戻したが、香りの余韻がまだあった。
フルーティで、程よい酸味と甘みが空っぽの胃にしみるかのようだった。
それを合図とするように、部屋の壁際でバイオリンやピアノなどの奏者が、和やかで優しい楽曲を奏で始める。
それは、レナを買ったアルベルトが、饗宴の間でさせていたことと変わりはない。
宴席でも面白おかしく曲芸師を読んだり、美少年に薄衣を着せ、躍らせるなどの乱痴気騒ぎは、好まない。
今、ここにレナがいないことだけが、いつもと違う。
レナの立場に自分をすげ替え、王室御用達のシャンパンを飲んでいる。
しかも、アルベルトに連れて込まれたままの身なりだ。
すりきれた貫頭にに、埃まみれの古いサンダル。髪に櫛も入れていない。
場違い感しか頭になかった。
磨き抜かれた銀のフォークやナイフなどのカトラリーも、美しく並べられている。
二人分の小ぶりのテーブルに、焼き立てのパンと生ハムと、まっ黄色のオムレツときのこのソテー、にんにくと刻んだ玉ねぎを乗せて焼いたムール貝の皿などが次々と並べられ、給仕を済ませた奴隷の下男は二人の死角になる位置で待機をする。
ワインが減ったら注ぎ足したり、主人の手が汚れたら、バラの花びらを浮かべた器で主人の指を洗い、絹のハンカチで拭くためだ。
「どうした? 冷めないうちに早く食え」
アルベルトは早速ムール貝を取り皿に取る。
「お前の食卓には貝が必須だからな」
と笑い、フォークで身をこそげ取って口に入れた。食欲をそそる香りが立って、腹の虫が鳴きそうだ。
けれども、すっかり気後れをして、食事が喉を通りそうにもない気がした。
「どうかしたのか?」
「……俺みたいに薄汚れていて、古着の貫頭衣のオメガと食事を一緒にするなんて。申し訳ない気がしてくるんだ」
せっかくの華やいだ食卓に一点の黒いインクを落としたように、興ざめさせてしまうのではと、気が気でなかった。
「また、それを言う! お前と二人で食事をするのが夢だったんだと、何度言えばわかるんだ」
大きく目を見開いた皇帝の指先を、ひざまずいた奴隷がバラの香りを移した器の水でそっと洗い、絹の布で拭いている。それは皇帝にとっては食事のたびの情景なのだが、自分はあくまでひざまずく方の人間だ。
王宮に来て、皇帝アルベルトと距離も溝も深まるばかりだ。
罪深く感じるだけだった。
サリオンは、どうしてもそれを享受できない自分がいるだろうことは、わかっていた。
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