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第五章 皇帝の寵姫として
第20話 笑い声
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「お前はなるべく早く、人に命じることを身につけて欲しい。お前が自分でしようとすることは、彼らの仕事を奪うことになってしまう」
ずっしりと重い口調で諫められ、サリオンは肩身を狭めて項垂れた。
確かにアルベルトのいう通り、召使いに命じることは彼らに仕事を与えることに通じている。
だから、自分はそれをしなければならないのだ。
「今すぐやれと言われても、長年の習慣で抵抗感があるのはわかっている」
「はい。では、パンをひとつとウインナーを二本とハムを三枚、野菜の煮込みと干しブドウの房をお願いします」
お願いという言葉を使った瞬間、アルベルトの眉がピクリと痙攣していたが、それこそ今の自分には精一杯。
故国のクルムにいた時も、王族のユーリスの番でいた時も、命じたりはしなかった。
召し使われる彼らには、お願いしてきた。
ユーリスはそれを『君らしさ』だとして許してくれていた。
だが、アルベルトは命じられるようになるまで訓練しろと言うらしい。
「お前は干した果物は好きか?」
「うん」
「ブドウが好きなのか?」
「ブドウも杏も大好きだよ」
早速房からもぎ取り、粒を口に放り込む。
「お前はまだ若い。ハムやソーセージを充実させた方がいいのかと思ったが」
失敗したと言わんばかりに腕を組む。
サリオンは子供じみたアルベルトに思わず吹き出し、笑い出す。
「だからハムもウインナーも今から食べるよ」
「一番最初にナイフを入れてもらえなかったことが残念だ」
「順番なんか関係ないだろ」
記念すべき朝のため、これまでの記憶をたどり、精一杯の食卓したのだろう。
失墜感を漂わせるアルベルトを慰めるため、ウインナーにナイフを入れてフォークで刺す。
それだけで、かぐわしい香草の薫りと燻製にして焼いた香ばしさが伝わった。
「うん。うまい」
「気に入ったか?」
「うん。こんなに肉汁がたっぷりで旨いウインナーは初めてだ」
本心から答えた途端にアルベルトの顔がパッとして華やいだ。
「ゆで卵に野菜の煮汁をソースにして食っても旨いぞ」
「ほんとうに?」
言われた通りにしてみて卵を食べた途端、自分でも目を見開いたのがわかるぐらいに旨かった。
「うん! うまい」
「そうか。良かった」
自分の食事はそっちのけで、あれを食え、それを食えと言い続けるアルベルトをサリオンがたしなめる。
「この後、政務があるんだろう? 時間をずらさせたのなら早く食って政務に行かないと」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「そうだったって」
すっかり忘れていたような物言いに、サリオンは吹き出した。
気まずい空気になりかけた居間に笑い声が初めて響いた。
ずっしりと重い口調で諫められ、サリオンは肩身を狭めて項垂れた。
確かにアルベルトのいう通り、召使いに命じることは彼らに仕事を与えることに通じている。
だから、自分はそれをしなければならないのだ。
「今すぐやれと言われても、長年の習慣で抵抗感があるのはわかっている」
「はい。では、パンをひとつとウインナーを二本とハムを三枚、野菜の煮込みと干しブドウの房をお願いします」
お願いという言葉を使った瞬間、アルベルトの眉がピクリと痙攣していたが、それこそ今の自分には精一杯。
故国のクルムにいた時も、王族のユーリスの番でいた時も、命じたりはしなかった。
召し使われる彼らには、お願いしてきた。
ユーリスはそれを『君らしさ』だとして許してくれていた。
だが、アルベルトは命じられるようになるまで訓練しろと言うらしい。
「お前は干した果物は好きか?」
「うん」
「ブドウが好きなのか?」
「ブドウも杏も大好きだよ」
早速房からもぎ取り、粒を口に放り込む。
「お前はまだ若い。ハムやソーセージを充実させた方がいいのかと思ったが」
失敗したと言わんばかりに腕を組む。
サリオンは子供じみたアルベルトに思わず吹き出し、笑い出す。
「だからハムもウインナーも今から食べるよ」
「一番最初にナイフを入れてもらえなかったことが残念だ」
「順番なんか関係ないだろ」
記念すべき朝のため、これまでの記憶をたどり、精一杯の食卓したのだろう。
失墜感を漂わせるアルベルトを慰めるため、ウインナーにナイフを入れてフォークで刺す。
それだけで、かぐわしい香草の薫りと燻製にして焼いた香ばしさが伝わった。
「うん。うまい」
「気に入ったか?」
「うん。こんなに肉汁がたっぷりで旨いウインナーは初めてだ」
本心から答えた途端にアルベルトの顔がパッとして華やいだ。
「ゆで卵に野菜の煮汁をソースにして食っても旨いぞ」
「ほんとうに?」
言われた通りにしてみて卵を食べた途端、自分でも目を見開いたのがわかるぐらいに旨かった。
「うん! うまい」
「そうか。良かった」
自分の食事はそっちのけで、あれを食え、それを食えと言い続けるアルベルトをサリオンがたしなめる。
「この後、政務があるんだろう? 時間をずらさせたのなら早く食って政務に行かないと」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「そうだったって」
すっかり忘れていたような物言いに、サリオンは吹き出した。
気まずい空気になりかけた居間に笑い声が初めて響いた。
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