字が書けない侯爵の長男は捨てられ、王の騎士を目指す

Allen

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13. (出来事)

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「うん…?今誰か…」

   中庭には奥に誰か小さな人物が一人走っていくのが一瞬見えた。俺はまさかと思い慌てて追いかけると、そのまさかのレイディオ様だった。今日は一人で上手く護衛の視線を掻い潜ってここまで来たようだ。辺りには誰もいなく、泣いている声が小さく聞こえていて、驚くしかなかった。見てはいけないのだろうけど、木の幹に隠れて目を覆っているレイディオ様、これじゃ心配でいなれなかった。恐る恐るゆっくり近づくと、俺の姿に気づいたレイディオ様が驚き後退りしたものの、気付くと泣きながら近づいてきた。

「レ、レイディオ様、一体どうなされたのですか!?」
「うっ、お父様、お父様がね……うう」
「レイディオ様……良ければ俺が話を聞きますよ。えっと、何処かに座りましょうか?」
「うん……」

   訳もわからないまま、小さな身体に合わせてしゃがみ込みながら、取り敢えず手を握ってくれるレイディオ様を優しく握り返し、ゆっくり近くのベンチに座らせた。左側にぽつんと悲しそうに座るレイディオ様の姿ははじめてだった。いつも明るくてヤンチャなイメージのレイディオ様。今は目を赤くして人目を気にしているようで涙を堪えている。俺はそっとレイディオ様を隠すように座る。

「ル、ルーク…」
「はい、どうされましたか?」
「だ、誰にも言わない……?」
「はい、レイディオ様のお望みでしたら」
「…お、お父様、お父様がね、昨日倒れてたの見つけたんだ…。すぐにお医者さんを呼んだけど苦しそうで目を覚ましてくれないんだ…僕、怖くって…でも、皆大丈夫だって言うんだ。でも、僕は…!うぇーん!」

    レイディオ様は大声を上げ、大きな涙を流した。俺はレイディオ様の話に驚くしか無かった。陛下が、倒れた?まさか…そんなはず…。すぐには信じられ無かった。俺にも感じたことの無い不安のようなものが襲う。
   ずっと小さな身体を俺に寄せ、父を想って身体を震わせ泣いているレイディオ様。ぎゅっと俺の服を握りしめ、不安と恐怖が俺にも伝わってくる。そんなレイディオ様に何も出来ずにいた。ただ泣いているレイディオ様に寄り添い、人目から守る事くらいしかできないでいた。こういう時、彼になんて言えば良いかも俺には分からなかった。こんなにも父を想うレイディオ様に、少しだけ、本の少しだけ、羨ましいとも思った。
    その後もレイディオ様は段々と辺りを気にならなくなって、深く寄り添いずっと泣いていた。レイディオ様の涙が枯れ果てるまで、慰めることも出来ずにただただずっとそばにいた。




「ルーク!急だが陛下との面会は当分出来ない事になった」
「カイル様…!」
「ルークのせいじゃないんだ。陛下が少し体調を崩されたんだ。最近とても忙しかったようで…しばらくは陛下と会えない。僕もこれから忙しくなるだろうから毎日は会えないだろう。すまない」

   カイル様は残念そうな顔を見せた。いつもの明るい表情は無く、服装からして今は大変そうなのが伺える。

「俺は大丈夫です。カイル様もご無理はしないでください…陛下、大丈夫でしょうか……」
「…命に別状は無いそうだが、どうやら過去の後遺症が酷いようで。ルーク、これはお願いなんだが今週は部屋からなるべく出ないようにしてくれるかな?もしこの間に何かあれば僕も目が行き届かない。出来るだけ部屋にいて欲しい…」
「分かりました。カイル様、僕のことは大丈夫です!陛下をよろしくお願い致します」
「分かった、また来るよ!」

    そういうとカイル様は足早にその場を去った。レイディオ様の言った通りだ。外に出るなと言われると少し悲しくなるが、この部屋は1人じゃ広すぎる。まぁ、客間なんだろうけど、ここに俺がずっといられている理由は知らないけど、この部屋はもうそろそろ使えないだろうし。
   エメリアさんはあれから本を沢山持ってきてくれて、俺は歩く練習であまり読めていなかった。なら、一週間ではここにある全ては読めないだろうけど、読む時間に当てよう。歩く練習も続けつつだか。

「よし、こうなれば俺が全部暗記してやる!」

   早速本棚の本をざっと漁り、ソファーに寝転び本を読み始めた。


《コンコン》

「はい!」
「あ、あの入っていい?」
「レイディオ様!?ど、どうぞ!!」

    俺は慌てて扉に近寄り開けた。下を見ると、レイディオ様がぽつんと立っていた。まだカイル様が去ってから、十分もたっていない。俺は恐る恐るレイディオ様を中に入れ、ソファーへと案内した。

「レイディオ様こんな所までどうされましたか?カイル様に会われませんでしたでしょうか…?」
「カイルに会ったけど…。みんなお父様が倒れてから忙しそうだし、お母様も今お医者さんとか色々な人と会ってて…だから…だから……」

     レイディオ様は再び悲しそうに下を向く。王族とあれど、色々大変そうだ。レイディオ様の様子を見てると俺も心配になってくる。

「きっと…きっと良くなりますよ。だってこの国の英雄で王様で、それにこんな俺を助けてくれて…まだお会いしたことはありませんが、レイディオ様も泣いていると陛下も悲しむはずですよ?ほら、俺に花をあげたように陛下にも何か作ってあげましょうよ!お守りとかどうですか?きっと喜びますよ!」
「お守り……?お父様には効かないよ…みんなお父様には魔力が元から強いから回復魔法も効かないって…」
「魔力なんて関係無いんですよ、レイディオ様。大切なのは心、大切な人が苦しんで欲しくないという想いですよ」
「心…想い……」
「俺だって、レイディオ様とディーレ様に花を貰って本当に嬉しかったんです!押し花でしおりにさせて貰っています!俺、こんなの貰うの始めてで…本当に…!!だから、レイディオ様も陛下に作ってあげてはどうでしょうか?きっと喜ばれます!そして怪我なんかすぐに治っちゃいますよ!」
「わ、分かったっ!じゃ、僕作るよ!」
「はい!」

    俺は満面の笑みでレイディオ様に言った。レイディオ様も少し明るくなって、いきなり俺の手を握るとこう言った。

「じゃ、中庭に花を探すから一緒に来て!行くよ!」
「えぇ!お、俺は…」
「早く行こう!」
「あ、でもカイル様がで、出ないでくれって」
「カイル?僕が後から言っておくから大丈夫!!さぁ、行こうよ、行こう!!」
「は、はい…!」

   思わずレイディオ様の無邪気な笑みと四歳なのに手の引っ張る強さに頷いてしまった。扉を開けるのを手伝い、髪を揺らして手をぎゅっと握られ俺は早歩きで中庭に向かった。


《コンコン》

「失礼します。レイディオです」

    レイディオが陛下のいるであろう寝室の扉を優しく叩いた。部屋の扉にいた兵士達の目にどう映っていたことか。俺はここまで来るのにも心臓がバクバクしているのに、レイディオ様が震えて手を握っているせいで逃げようにも逃げれない。右手ではレイディオ様が集めた花束を持っているが、緊張で力が入ってしまう。そしてついに、中からは陛下の側近であろう人が出てきた。

《ガチャ》

「レイディオ様…と、あなたは?」
「あ、お、俺はルークです。そ、その…」
「僕の友達だよ。ツェル、お父様…大丈夫…?」

    レイディオ様は目を伏せながら震えてツェルに言った。ぎゅっと手が握られて、俺も心配だった。扉の奥には大きく立派な天蓋があり、しっかりとレースが下ろされていた。見ちゃいけない事は分かっているが、隣に置いてある薬などの物が凄かった。

    ツェルさんはレイディオ様に目線を合わすようにしてしゃがみ込んだ。

「陛下は大丈夫ですよ。花束を届けに来てくれたのですか?」
「……うん。あと、ルークと一緒にお守り作ったんだ…。こ、これ…や、やっぱり僕、お父様と一緒にいたい……!」
「…レイディオ様」
「ご、ごめんなさい。わがまま言ってごめんなさい…でも、本当に…お父様といたい…」

    レイディオ様の顔から涙が滴り落ちる。俺もこれには焦りを隠せなくなって、しゃがみこみ大丈夫としか言いようがなかった。

「レイディオ様…、陛下の様態は安定しております。ですが、あまり刺激を与えさせなければ、私が言うことはありませんよ。レイディオ様、お守りを陛下に渡しに行きましょうか」
「う、うん!」

   ツェルさんの言葉に俺も感謝せざるせなかった。レイディオ様に良かったですね、と言うと俺はツェルさんに花束を渡してその場から一歩離れた。帰り道は覚えた。レイディオ様も嬉しそうな表情を少し見せてくれて安堵した。

「ねぇ、ルークも一緒に来て?僕だけじゃ…怖いよ」
「え…で、ですが……」
「レイディオ様に信用されているのですね。ルークさんでしたね、陛下からは以前に話を伺っております。それにレイディオ様の言葉でもありますゆえどうぞ、お入りください」
「あ、ありがとうございます」

   そう言い俺はレイディオ様に手を引かれ恐る恐る部屋に入った。

   部屋はとても静かで、陛下の部屋は思ったより普通だった。確かに装飾はこの上なく綺麗だが、家具はあの部屋の方が上だったかもしれないと思うものもあった。しかし、雰囲気といい、格別違う感覚がある部屋だ。

「ルーク様はこちらで」
「は、はい」

   レイディオ様はそのままゆっくり手を離してレースの奥へと消えていった。俺はベットの横に置いてある薬やら、うっすら見える人影を見ていた。

「お父様……ねぇツェル、少しだけ傍にいていい?」
「はい、ではツェルとルークさんは外に出ていますね」
「うん。ありがとう」

   そういうと俺はツェルさんに連れられて静かにリビングに出た。
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