字が書けない侯爵の長男は捨てられ、王の騎士を目指す

Allen

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22 ルークとオディル

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『ルークとオディル』


「あ、あの…」
「ルークだったな?カイルから剣術を教わってるんだろ?」
「はい」

   いきなりオディル様に呼び出された俺は広い稽古場であろう部屋に入った。カイル様と同じ部屋に戻った時、メイドから俺向けの手紙が届いた。内容は予定が無ければ明日の夕方、「誰にも言わないで稽古場に来て欲しい」というオディル様の直筆…。いかない訳にはいかないじゃないか…。

     そして、今に至る訳だ。胸は痛むが、カイル様にも黙ってここに来た。こんな稽古場自体もじめてなのに、目の前にはオディル様が満面の笑顔を浮かべてこちらを見ている。端には乱雑に置かれた、いや、ほられたジャケット。確か九歳であられるのに、俺より大人っぽい。オディル様は待ちに待ったと言わんばかりにシャツの袖をめくる。

「じゃ、ちょっと俺の相手になってよ」
「えっ!?お、俺がですか?」
「お前以外に誰がいるんだよ。ほら、これ使え」
「おっ、ありがとう、ございます」

    木刀がポイッと渡され、慌てて受け取る。手に持って瞬間、オディル様の雰囲気がガラッと変わる。真剣な鋭い目付き、いけない。まだ練習をはじめて半年も経ってない…。それにいくらカイル様に教えて頂いているとはいえ、まだ十分じゃない。それにいつもオディル様の周りに従者がいるのに今日は誰一人もいない。というか、そのピシッとした服装でやる格好じゃない。もしかして…抜け出して来たのか…?

「お、オディル様!俺は残念ながらまだ素人です。カイル様に教えて貰っているとはいえ、まだオディル様の思われているような腕前ではありませんし、オディル様とやり合うなんて─」
「そんなこと俺が許可してるんだからいいの。それに俺で練習出来るでしょ?ほら、構えて」
「い、や!それに、その服も動きにくいと思います!また俺とやり合うのは別の日に…」
「俺のこと心配してる?この服装ごときで出来なかったらそれまでだよ。さぁ、行くよ。本気でかかってきてよね」
「えぇ」
「じゃ……もしルークが勝ったら…そうだな、何がいい?」

    オディル様はキラキラさせた目でこちらを見る。こうしてみると、やはりレイディオ様とどこか似てる所がある。まぁ、兄弟なんだから似ているのはよくある事なんだけれども。

 「聞いてる?」
 「はっ、はい!」
 「褒美、何を望むの?」
 「俺は…な、何もいらないです…」
 「何も望まないのか?」
 「は、はい。俺は皆さんに色々お世話になっていますし、物を貰うような者ではありませんので…」
 「…フッ、アハハっ!お前、面白いな!」
 「え…?」

 そう言うとキョトンとした顔から一変し、オディル様は腹を抱えて笑った。俺はその光景に、キョトンとしてしまう。気を取り直したオディル様の手が俺の肩に触れ、鮮やかな笑みでいった。

 「じゃ、もし今試合をしたら俺が勉強を教えてやるよ。毎日図書館行って一人で勉強してるんだろ~?」
 「ど、どうしてそれを…」
 「どうしてって、俺は一様王子だぜ?城にいる皆の事をしれなくて、国全土にいる人達なんて分からないでしょ?な~んて、まぁ、俺も隠れて、その辺良くウロウロしてるからさ。今みたいにね」
     「なっ」

 これには驚かざる得ない。みんなの前では大人しくて真面目なイメージが強いオディル様。今はウインクしながら、黙っていてのポーズ。勉強も学校首席らしいオディル様はこんなに…面白い人。それに賢い上に姿も良いなんてこんな好条件あるのか、普通。ひとつくらい欲しいものだ。

 「ほら、じゃ、稽古始めるよ。魔術は習ってる…?」
 「え、い、いいえ、まだ剣術だけで」
 「分かった。剣術だけね。じゃ、構えて」

 そう言うとオディル様は素早く後ろに下がり、剣を構えた。俺もせめて一発は耐えれるように体制を整える。こういっても相手は年下。九歳の男の子…。十一の俺が一発も流せなかったら結構悲しい…。

 「じゃ、遠慮なく行くよ」
 「は、はいっ!」
 「はぁっ!!」

 《ガンッ》

 慌てて剣を振るった。声を上げるより一瞬で目の前の剣が俺に振りかかってきた。驚いて俺は後ろ目になってしまう。

 オディル様の重い剣を全体重を使ってもよろめくほどの威力。手が痺れる。そんなことをお構いなく、オディル様は俺とは違い、爽やかな笑みで俺に問う。

 「どう?」
 「強い…です!」
 「でも、耐えただろ?じゃ、これはッ??」

 《バァンッ、ガツンッ!!》

 「速いッ」
 「まだまだッ」

 オディル様は完全に舞うように剣を振るっていた。それでも結構な威力。相手も本気だろうけど、表情を見る限り全くそれが伺えない余裕の表情だ。
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