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第二章 明けない曇り空
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「本当に病院に行かなくて大丈夫なのか」
「大丈夫だって。ただの喘息くらいで救急突っ込むな、あれけっこう恥ずかしいんだぜ」
どうにか発作が収まり、正気に戻った光に引き止められて、結局病院に向かうことはなかった。自宅に戻るなり、光はリビングの床に細長い足を投げ出し、壁に凭れながらシャツの襟を開いた。ほんのり赤く染まったキスマークが残る胸が見える。
「暑くて……あと音が頭に響きすぎて。ちょっと眩暈が酷かっただけだ」
上気だった吐息を漏らし、気怠そうに髪をかき上げる。無防備に上半身を曝け出す光の色気は半端ない。目のやり場に困った勝行は視線を逸らした。自分の汗を拭くふりをしながら、生唾を飲み込む。
「ならよかった。あー……俺、ギター練習しようかな。今日の出演バンド、どれも文句なしにかっこよすぎた」
誤魔化すようにリビングを歩き回ってアンプやギターを選別していると、光は動かないまましばらくこちらを見ている。
「……勝行」
「なに?」
「眠い。キスして」
この乱れきった格好で、甘えた声で誘われて、手を出さない相手なんているのだろうか。そして勝行がきっぱり断れるはずがないことも、わかっている気がする。
(こいつ……あざとすぎるだろ)
諦めのため息をつきながら勝行は持ち掛けたギターを降ろし、剥き出しの額に軽く口づけた。「なんでそんなちょっとだけ」と言わんばかりの不満げな目を向ける光にそのままデコピンを食らわす。
「いてっ」
「こんなところで眠ったら風邪ひくだろう」
「そうなったら、優しい兄貴が連れてってくれるって信じてるし」
「なに甘えてるんだ。そういう奴はな」
言いたい放題のわがままにカチンときた勝行は、膝裏と腰に手を添え、よっと声をあげて光を持ち上げた。驚いた光は慌てて勝行の首にしがみつく。
「起きてる間に、お兄さんがお姫様だっこで連れて行ってやるよ」
「……う……いじわる野郎」
「知ってる。でもお前だってわがままだろ、おあいこ」
「……」
「明日体調壊したらライブできなくなるよ」
「……わーってるし。うるせえなあもう……」
(そもそも俺を信用しすぎだろ。寝落ちたあと、俺に毎晩何されてるのか知らないくせに)
光の身体に点在する赤い痣がちらちらと視線に入る。これをただの虫刺されだと信じ、勝行を唯一無二の義兄として慕っている光が見せる、無防備極まりない姿は正直目の毒だ。
ぶすっと不貞腐れた顔を見せるが、文句はそれ以上言わなかった。嫌がって暴れながら降りると思ったのだが、光は大人しく抱きついたままだ。
(やけに大人しいな……ライブから帰ってきてから、なんかおかしい気が)
光を抱いたまま寝室のベッドに一緒に寝転がった。つい癖で脱ぎかけたシャツの中に手を滑り込ませてしまった。ピンク色に染まる小さな乳首がしっかり勃っていて、手のひらにプルンと当たる。光の身体もぴくんと分かりやすく反応した。
「……っ」
「あ、ごめん手が当たって。……暑いだろうけど、シャツはちゃんと着て寝たほうがいいよ」
(危ない危ない。今からするのは眠るためのキスだけ。余計なことはしない)
「別に……触ってもいい……」
「……え?」
突如、耳を疑うようなことを言われた気がする。
光のシャツのボタンを留めながら、勝行は光の顔を覗き見た。光は横を向いたまま、手で顔を隠していて表情は見えない。見えないが、耳は少し赤く染まっていた。
「なんでもない……」
「……」
どう反応したらいいかわからず、キスもするにできないまま、勝行は汗ばむ光の首筋ばかり見降ろしていた。
開けっ放しの窓から、夏虫の音が遠慮がちに聴こえてくる。
二人の心臓はライブ鑑賞中以上に激しくどくんどくんとリズムを刻んでいた。
「本当に病院に行かなくて大丈夫なのか」
「大丈夫だって。ただの喘息くらいで救急突っ込むな、あれけっこう恥ずかしいんだぜ」
どうにか発作が収まり、正気に戻った光に引き止められて、結局病院に向かうことはなかった。自宅に戻るなり、光はリビングの床に細長い足を投げ出し、壁に凭れながらシャツの襟を開いた。ほんのり赤く染まったキスマークが残る胸が見える。
「暑くて……あと音が頭に響きすぎて。ちょっと眩暈が酷かっただけだ」
上気だった吐息を漏らし、気怠そうに髪をかき上げる。無防備に上半身を曝け出す光の色気は半端ない。目のやり場に困った勝行は視線を逸らした。自分の汗を拭くふりをしながら、生唾を飲み込む。
「ならよかった。あー……俺、ギター練習しようかな。今日の出演バンド、どれも文句なしにかっこよすぎた」
誤魔化すようにリビングを歩き回ってアンプやギターを選別していると、光は動かないまましばらくこちらを見ている。
「……勝行」
「なに?」
「眠い。キスして」
この乱れきった格好で、甘えた声で誘われて、手を出さない相手なんているのだろうか。そして勝行がきっぱり断れるはずがないことも、わかっている気がする。
(こいつ……あざとすぎるだろ)
諦めのため息をつきながら勝行は持ち掛けたギターを降ろし、剥き出しの額に軽く口づけた。「なんでそんなちょっとだけ」と言わんばかりの不満げな目を向ける光にそのままデコピンを食らわす。
「いてっ」
「こんなところで眠ったら風邪ひくだろう」
「そうなったら、優しい兄貴が連れてってくれるって信じてるし」
「なに甘えてるんだ。そういう奴はな」
言いたい放題のわがままにカチンときた勝行は、膝裏と腰に手を添え、よっと声をあげて光を持ち上げた。驚いた光は慌てて勝行の首にしがみつく。
「起きてる間に、お兄さんがお姫様だっこで連れて行ってやるよ」
「……う……いじわる野郎」
「知ってる。でもお前だってわがままだろ、おあいこ」
「……」
「明日体調壊したらライブできなくなるよ」
「……わーってるし。うるせえなあもう……」
(そもそも俺を信用しすぎだろ。寝落ちたあと、俺に毎晩何されてるのか知らないくせに)
光の身体に点在する赤い痣がちらちらと視線に入る。これをただの虫刺されだと信じ、勝行を唯一無二の義兄として慕っている光が見せる、無防備極まりない姿は正直目の毒だ。
ぶすっと不貞腐れた顔を見せるが、文句はそれ以上言わなかった。嫌がって暴れながら降りると思ったのだが、光は大人しく抱きついたままだ。
(やけに大人しいな……ライブから帰ってきてから、なんかおかしい気が)
光を抱いたまま寝室のベッドに一緒に寝転がった。つい癖で脱ぎかけたシャツの中に手を滑り込ませてしまった。ピンク色に染まる小さな乳首がしっかり勃っていて、手のひらにプルンと当たる。光の身体もぴくんと分かりやすく反応した。
「……っ」
「あ、ごめん手が当たって。……暑いだろうけど、シャツはちゃんと着て寝たほうがいいよ」
(危ない危ない。今からするのは眠るためのキスだけ。余計なことはしない)
「別に……触ってもいい……」
「……え?」
突如、耳を疑うようなことを言われた気がする。
光のシャツのボタンを留めながら、勝行は光の顔を覗き見た。光は横を向いたまま、手で顔を隠していて表情は見えない。見えないが、耳は少し赤く染まっていた。
「なんでもない……」
「……」
どう反応したらいいかわからず、キスもするにできないまま、勝行は汗ばむ光の首筋ばかり見降ろしていた。
開けっ放しの窓から、夏虫の音が遠慮がちに聴こえてくる。
二人の心臓はライブ鑑賞中以上に激しくどくんどくんとリズムを刻んでいた。
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