できそこないの幸せ

さくら怜音/黒桜

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第五章 VS相羽勝行

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「本当に上手だね、キス」
「君、口の中敏感なんだ、もうこんなに張り詰めてる。……いいや、悪いことじゃないよ。《素敵》だ」
「さあ、ゆっくり扱いて」

晴樹はうっとりするような甘い声で褒めながら、舌で口の中を何度も舐め回す。むずむずしていた光の前張りをスウェット越しに擦り、泣きそうな声で拒みかける光の頭を何度も撫で、やんわりと自慰行為を誘導してくれる。

「は、あ、あぅ……っ」

あっという間に前だけの刺激で達してしまった光は、はあはあと息をつきながら困惑した。晴樹のキスと声に合わせて扱いただけで、こんなにあっさりイッてしまうなんて。
しかし晴樹は嬉しそうな笑顔で「後ろ触らずにイケたね、タチもいけるんじゃない?」と手放しに誉めてくる。恥ずかしいという気持ちすら忘れてしまいそうだ。

「物足りなさそうな顔してるけど、どうしたい?」
「……」

肩で息をしながら、どんなに痴態を晒しても全く動じない晴樹を見つめる。彼も少し熱っぽい表情をしている気がした。人の自慰ばかり手伝ってくれるけれど、この男は一体どこまで付き合ってくれるつもりなのだろうか。このまま自分だけが気持ちよくなるのは不公平な気がする。

「お前に……」
「ん?」
「か……貸しは作りたくねえから。お前のも出せ」
「僕の……? え、なに、舐めてくれんの? それとも、僕のオナニーも見せろってことかな」

そう言って気さくに笑いながらベルトを外す晴樹の下半身に、光は釘付けになっていた。勝行のものでもない。桐吾のものでもない。赤の他人のそれを、自分から咥えようと思うだなんて、どうかしている。けれど手で上手く奉仕できる自信もないし、もしかしたらこの男なら。

(褒めてくれるかな……)

光は茫然とピアノ前の椅子に座ったまま、目の前に現れた晴樹の一物に触れ、躊躇うことなく一気に呑み込んだ。


**
いつの間にか眠っていたようだ。うっすらぼやけた視界に見えるものが天井で、身体は自室のベッドで寝ていることに気付く。

「ハルキ……?」
「残念だったな、あいつじゃなくて『オレ』で」

聞き覚えのあるその声に、光の身体はびくんと跳ねた。心臓がばくばくと唸り出す。
周囲を見渡そうとするも、両腕は不自然に持ち上がり、ある一定の場所から動かせない。動かすたび、じゃらりと鎖のような音が聴こえるし、手首が重い。でもここは確かに自分の部屋で。さっきまで晴樹と互いの自慰に耽っていて――それから暫くの記憶が完全に吹き飛んでいる気がする。

薄暗い電球タイプのベッドサイドランプに照らされた男は、いつも通りにベッドの上に腰掛けた。ぎし、とパイプフレームがしなる。

「かつゆき……」
「クソバカ、いい加減気づけよ。オレはお前の望む『勝行』じゃない」
「……あ」

ブラックだ。
声と話し方で察知した。桐吾を殺そうとした男。旅館でフェラする光にキレ散らかして、気絶するまで執拗に愛撫してきた男。勝行の中に潜む、好戦的で短気な性格の方だ。

「なんでお前……ここに。勉強、は」
「はっ……光までそんなこと言うんだな……」
「……?」
「……は、はは……ちくしょう……みんな、オレのことはどうせ嫌いなんだ……こんなに苦しんでるのに、要らない感情だからって全部捨てて、なかったことにしやがって……っ」
「何、言って」
「お前だけは、オレを愛してくれるって信じてたのに……!」

勝行の様子が明らかにおかしい。けれど腕が拘束されていて動けない。抱きしめることもできない。
何を言っているのか、何に対して怒っているのかもわからないが、次の瞬間には首をぐっと捕まれ、全体重でのしかかられた。息苦しさに耐えていると、「ほらそうやって嫌そうな顔をする!」と目の前の少年が泣き喚く。

(かつゆき、どうして)

「オレだけを見ろよ……オレ以外、何にも見るな。触るな! 片岡も、ピアノも、変態教師にも!」

(誰が、嫌そうな顔をしてるって……?)

血の色かと思うほど真っ赤にぎらつかせた男の瞳には、今にも窒息しそうな光の青白い顔が映っていた。喉を塞がれ、反論することすら許されない。ぼたぼたと顔に零れてくるのは涙だろうか。

「知ってる。お前のこの喉に、あのクソ教師の汚いものが入っていったこと。オレ以外のクソ汚物、旨そうに食いやがって」
「……!」
「許さねえ……許さねえ、オレのこと好きって言ったくせに……!」

怒りに震えるその腕から、ふいに力が抜けた。解放された喉に慌てて酸素を取り込むと、ゲホゴホとざらつく咳が一気に噴き出す。

「ああ、可哀そうに。俺以外のものを体内に取り込んでしまったから、こんなにひどい咳が。今すぐ細胞ごと全部塗り替えて綺麗にしなくちゃいけないね?」
「……!?」

勝行の口調がふいに変わる。どこかで聞いたような――ゾクッとするほど怖い低音ボイス。さっきまで泣きそうな顔をしていた勝行の口角は、にんまりと不自然に上がっていた。

(え、さっきのブラック、どこいった……)

「あいつは本当に乱暴でダメだ。これじゃ俺の光が傷ついてしまう。……ああ、あいつがどこに行ったか気になる? 引きずりおろしたからもう大丈夫、それより口を開けて」

有無を言わさず口に指を詰め込んでこじ開けると、勝行は眉間に皺を寄せながら見下し、チッと舌打ちをする。

「……悪い子にはまずお仕置きをしなければね」
「んっ……ん、ぅ……っ!?」

確認するかのように口の中を蠢いていた指が、やがてゆっくりと引き抜かれた。すると今度は鼻を摘ままれ、強制的に開いたその口めがけて勝行のそそり立つ竿が喉奥を貫いた。それはなんの予告もなく、ねじ込むように。

「ぅっ……うっ、んっ」
「飼い主以外のものを食ったお前の行儀悪い口を清掃するよ」

寝転がって拘束されたままの光は、上から押し込められる凶悪な武器に再び喉を塞がれ、白目を剥いた。息が詰まる。だがそれが晴樹との行為に対する怒りと逆襲であることは、うっすら気が付いた。
そう、悪いのは自分だ。
真面目に勉強を頑張る勝行を差し置いて、自分だけあの男と気持ちよくなって――。悪くないわけがなかった。口車に乗せられて都合よく解釈していた自分がなんとも情けなくて、涙が零れ落ちる。

(ごめん、なさ……)
「ほらしっかり受け止めて。お前、コレがしたかったんだろ」

声にならない声を零しながら、勝行のそれを必死に慰めようとした。けれどごぼごぼと耳元で卑猥な水音が鳴り響く中、光は物理的に息をすることができず、再び意識を手放した。

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