できそこないの幸せ

さくら怜音/黒桜

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第十一章 愛されるより、愛したい

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新人アイドルが大手事務所の社長に拉致され、身代金を要求された――そんな事件は、被害者側の新人よりも加害者と密告者が大物だったことから、マスコミのWINGSへの興味関心は薄れていった。
連日流れてくる芸能ニュースは、助けてくれたロックバンド《コア・M》の進退と、ガイアプロダクションの暴かれた悪事でもちきりだ。

『実は事件当日、彼らの活動復帰の新曲解禁日だったんですよ』
『これは新事務所への妨害行為かと思うのですが、千堂社長はこれまでにどれだけの妨害行為を行って来られたんでしょうか』
『逆に自らの所属事務所を通報した人気バンド、コア・Mはファンの心を鷲掴みにしましたね。見てください、売上チャートはWINGSの新曲《未来予想図》が初登場7位にランクインしていますし、トップ10をほぼ独占しているのはコア・Mです。すごい!』
『ファンのみならず、一般の音楽ファンが彼らを応援しているのがよくわかりますね』
『続報です。コア・Mはガイアプロダクションとの契約を切ってライブ活動を自粛すると発表しました』
『このままでは周囲は黙っていないでしょう』
『しかも彼らはWINGSの新曲をファンに向けて絶賛しているそうで。これ、裏ではやらせだったんじゃないかって話も出てましたけど、どうなんですかね』
『コア・Mは元々WINGSと同じ事務所の先輩なんですよ。ところがガイアに引き抜かれた――それもどうやら、千堂社長の妨害行為だと告発されています。実は被害者だったんですよ』
『彼ら自身はWINGSが出るライブにコラボ出演したこともあるほど、仲良かったとファンが証言……』


「コア・Mの連中にはライブ台無しにさせちまって、悪いことしたなあって思ってたんだけど。なんかあの人らも被害受けてたみたいだし、みんなも分かってくれてるみたいで、よかった」

病棟ロビーで昼の芸能ニュースをぼんやり観ながら、光はぽつりと呟いた。隣に座ってコーヒーを飲んでいた勝行も、「俺も感動した。あんな風に助けてもらえるなんて」と笑みを零す。

「一度事務所で会って挨拶して……七月にライブ行った時の感想を伝えたんだ。すごく腰が低くて、優しい方たちだったよ。歌うと凄い攻撃的で激しいロッカーなのに」
「勝行はあいつらのファンなの?」
「うん、結構好きだし、憧れてる。CDも全部持ってるよ、今度聴いてみる?」
「そうだな。俺も好きな曲見つけてから、礼を言いに行きたい」

三月末をめどに、このまま順調であれば退院できそうだ。
ゴールデンウィーク前に調整し直した復活ライブを含め、四月からの本格始動が決まる。同時に勝行の大学生活も、四月一日から始まる予定だ。
光は無事高卒の証書を手に入れ、保の事務所と個人契約した。しょっぱなに入っているのは殆どが音楽そっちのけの写真撮影、動画撮影ばかりだが、これもWINGSを宣伝するためだと聞いたので文句は言わない。合間には全国の小さなショップを巡るリリースイベントも予定されているという。勝行はスケジュール帳いっぱいに予定を書き込みながら、当分は忙しいぞと呟いた。

「コア・Mにもう一度会って一緒にライブできる日は、もう少し先になりそうだ」

コア・Mが推す期待の新人、という扱いで都合よく新曲が売れているWINGSだが、『未来予想図』のプロモーションビデオだけでなく、以前出した光の高校生活ドキュメンタリーの評価が一緒に上がってきている。それらは新生WINGSへの序章として。等身大の高校生が音楽と青春を楽しんでいる姿が美しく表現されていた。元々AVデザイナーとして評価の高かった置鮎保の本領を発揮した代表作とも言えるだろう。

動画から入った新規ファンと、コア・Mからのおこぼれ人気のおかげで、WINGSの名は確実に音楽界に浸透していく。クリスマスの三夜連続ライブからわずか三か月。それでもファンは彼らの復活を待ち望んでいた。

「ねえ二人とも。未来予想図の衣装、できたんだけど。ちょっと合わせてくれない」

大きなボストンバッグを抱えて保が病棟に上がって来た。
ようやく点滴が外れた光は、勝行と一緒に病室で袖を通してみる。スーツのような上下セットだが、袖口や裾、大きな襟に派手な装飾がたっぷり施されている。光は白と銀がベースの衣装に水色の差し布とシルバーチェーンの飾りがたっぷり。勝行には黒ベースの重厚な衣装に赤と金で模様を彩られ、王様のようなマントまでついていた。

「うわすご……どっかの王族っぽい」
「あのう……もうちょっと地味なのがいいんですけど」
「何言ってんの。コア・Mのおかげで、四月はテレビの音楽番組にもじゃんじゃん出るんだからね。これぐらい派手にいっとかないと! 男アイドルの最大手・アニーズ軍団に負ける」
「……何だそれ?」
「対抗する相手を間違ってる気が」
「年頃的にもそれでいいの。その前にボンズのイメージキャラクターが決まったことの記者会見もあるからね。光が退院したらすぐよ。これ着て局をハシゴするから覚悟しときな。あ、動くな、まだ仮止めピンついてるから!」

保は有無を言わさぬ勢いで次々と袖や裾をチェックして回る。二人は顔を見合わせ、呆れたため息をついた。ビラビラしたアイドル衣装になるという勝行の予想は的中したようだ。

「これも保さんの手作りなんですか?」
「そうよ。思ってた通り、勝行の衣装を黒にしたらかなり暗黒大魔王っぽくなるわね」
「魔王……」
「光のピアノデビューのために、暫くは白と黒の担当チェンジね。光は爽やか繊細路線で売っていくことにしたから!」
「なるほど……じゃあ俺は大魔王でいいですよ」
「ははは、なんか勝行の衣装ってコア・Mっぽいじゃん。いい加減チャラい王子様キャラやめて、ちょっと悪かっこいいオトナ勝行を見せたら、ファンも喜ぶんじゃね?」
「悪カッコいいってどんなんだよ」
「大学生になって、ついに不良になっちまった勝行?」
「……父さんの反応が怖いな……」

さらに背中には、可愛いサイズの羽がついた。白と黒が片翼でひとつずつ。
どうして片方だけなのかと保に聞くと、二人で立ってと強引にポーズを決めさせられる。

「こうやってお互いの背中を少し合わせて演奏すれば……ほら、ちゃんと両翼になるでしょ」
「おお、なるほど。二人でひとつな。俺らっぽい」
「は、恥ずかしい……」
「なんで、いいじゃん、俺気に入った!」
「光、そこで勝行にチューしにいったら、翼がぶっ壊れるからダメよ」
「え……ええええ!?」
「今度は背中合わせのアイコンタクトだけで、より信頼しきった熟年コンビ感を演出しなさい。大丈夫、今のあんたたちならパフォーマンスなんてしなくても十分、音楽だけで売れる」

不思議なもので、こんなふざけた衣装に安全ピンを通しながらドヤ顔で語る保の言葉は、二人の不安をするするとかき消していってくれる。光は不貞腐れながらも、しょうがねえなあと独り言ちた。
直後、ガラガラッと病室の扉が開いた。衣装を広げたままの病室に、何人もの足音が入り込んでくる。

「おおい光くん、そろそろ退院できそうなんだよね。面会制限もなくなったよね! クラスのみんなが会いたいっていうから連れて来たよー!」
「……え、今?」
「えっ、ちょ、まっ」
「今西ぃ、生きてるか? 卒業式こなかったから、いっぺん見舞いに来たくて……ってなんだその恰好」

晴樹の声に合わせて入って来たのは、つい最近まで学校で一緒にバカ騒ぎしていたクラスメイトたちだった。勝行を姫、姫と呼んで親しんでいた男や光とバスケで率先してタッグを組んでくれた男など、補習組の殆どが顔を揃えていた。しかし光と勝行は、お人形のように固まって動けない。

「お……おい、なんで皆がここに」
「なんでよりにもよってアポもなく……今来るんだよ……村上先生……っ!」

がっくり項垂れ、恨めしそうな声を絞り出す勝行を見て、晴樹が「あ……なんかごめん」と罰の悪そうな顔をしていた。これはきっと後で勝行にこってり絞られるだろう。晴樹ご愁傷様、と心の中で呟いておく。

「すっげえ何これ、これ次のWINGSの衣装か? 姫が王様になってるー!」
「言っとくけどその姫、機嫌悪いから。手出ししたらボコボコの再起不能にされるぞ」
「なんだよ、今西は護衛の騎士じゃないのかよ」
「んー、だって王様だぜ。俺よりめちゃんこ強いもん。誘拐犯も返り討ちにするくらい」
「その武勇伝、聞かせてくれよう!」

みんなは誘拐されたニュースを知っていて、何なら勝行を庇って大けがを負ったと勘違いしているようだった。それは本物の護衛の方なんだけどなと苦笑しつつ、面倒なので訂正せずに放置した。
病室の人口密度が上がって一気に酸素も薄くなる。だが会いに来てくれる友だちが勝行以外にいるとは思わなかったし、悪い気はしなかった。
動いては保に怒られ、衣装合わせが終わるのを待ちながら、光はくしゃくしゃの笑顔を零し続けていた。

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