つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)

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第6話 王様

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 王宮の空気が、少しだけ張り詰めていた。 春の終わり、風は穏やかでも、廊下の空気はどこか緊張していた。

「アイリス、王様がお呼びです」 侍女の声に、私は思わず手を止めた。

「…私が、ですか?」

「はい。王妃様と王子様の最近の振る舞いについて、話を聞きたいとのことです」

 私は、胸がざわついた。 セレナとレオが、私を守るように振る舞ってくれた日々。 それが、王様の目に“変化”として映ったのだろう。

 謁見の間は、静かだった。 王様は、背筋を伸ばして玉座に座り、鋭い目で私を見ていた。

「君が…毒を食べたメイド”か」 
 
 低く、重い声だった。

「はい。味見のつもりでしたが、結果的に…」

「王妃と王子が、君に随分と心を許しているようだ。 その理由を、君自身の言葉で説明してもらおう」

 私は、深く一礼してから、まっすぐ王様を見た。

「私は、ただ正直に話しているだけです。 紅茶が渋ければ渋いと言い、果実が甘ければ甘いと言う。 それが、王妃様と王子様の心を少しだけ軽くしたのかもしれません」

 王様は、眉をひそめた。

「正直であることが、王宮で許されると思うか?」

「許されるかどうかは、わかりません。 でも、私は“誰かの役割”ではなく“私自身”としてここにいたいと思っています」

 沈黙が流れた。 玉座の上で、王様はじっと私を見ていた。

「君は…変わっているな」

「よく言われます。母にも、食べ方が変わってる”と」

 王様の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

「王妃が笑うようになったのは、君の影響か?」

「そうだとしたら、光栄です。 でも、セレナ様はもともと、優しくて茶目っ気のある方です。 私は、それを引き出すきっかけになっただけかもしれません」

「王子が君を“大切な人”と呼んだそうだな」

「…はい。驚きましたが、嬉しかったです」

 王様は、深く息を吐いた。

「君のような者が、王宮にいることに最初は疑問を感じた。 だが、話してみると…不思議と、空気が柔らかくなる」

 私は、少しだけ笑った。

「それ、よく言われます。 “空気係”だと、王子様にも言われました」

 王様は、玉座から立ち上がり、私の前まで歩いてきた。

「君は、王宮の秩序を乱す者ではない。 むしろ、秩序に風を通す者かもしれんな」

 私は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます。 私は、ただ素直に生きているだけです」

 王様は、私の赤毛を見て、ぽつりと言った。

「夕焼けのようだな。 だが、沈むのではなく、照らしている」

 その言葉に、胸が熱くなった。

 謁見の間を出たあと、セレナとレオが待っていた。

「どうだった?」 

 レオが、心配そうに聞いた。

「…王様、少しだけ笑いました」 

 私は、そう答えた。

 セレナは、目を細めて微笑んだ。

「それは、王宮にとって大きな一歩よ」

 セレナの言葉に私は自分を誇らしく思えるようになった。

 王宮の庭に、初夏の陽射しが差し込んでいた。 果実の香りが風に乗り、紅茶の湯気がふわりと立ち上る。 私は、セレナといつものようにお茶を楽しんでいた。

「今日の紅茶、少しだけ甘いですね」 

 私がそう言うと、セレナは笑った。

「あなたが戻ってきてから、甘みを足すようになったの。 渋みだけじゃ、物足りなくなって」

 そのとき、庭の奥から足音が聞こえた。 重く、でもどこか控えめな足取り。

「…王様?」 

 私は思わず立ち上がった。

「父上が、来るって言ってた」 

 レオが、果実の籠を持って現れた。

 王様は、少しだけぎこちない様子で庭に入ってきた。 でも、その目はどこか柔らかかった。

「茶会に、参加してもよいか?」 

 その言葉に、セレナがにっこりと微笑んだ。

「もちろん。あなたが来てくれるなんて、嬉しいわ」

 王様は、椅子に腰を下ろし、紅茶を受け取った。 しばらく沈黙が続いたあと、彼はぽつりと言った。

「君たちは、名前で呼び合っているのか?」

 私は、少しだけ緊張しながら答えた。

「はい。セレナとレオは、私にそう呼ばせてくれています」

 王様は、紅茶を見つめながら言った。

「私も…名前で呼ばれたい」

 その言葉に、三人とも目を見開いた。

「え?」 

 レオが、思わず声を漏らした。

「父上が…?」

「“王様”では、距離がある。 君たちのように、柔らかい空気の中で、名で呼ばれるのも悪くないと思った」

 セレナは、目を細めて微笑んだ。少し得意げで私は笑ってしまう。

「では、あなたの名前を教えてくださる?」

 王様は、少しだけ照れたように言った。

「…アデルだ」

 私は、紅茶のカップを持ったまま、そっと言った。

「じゃあ…アデル様、今日の紅茶はいかがですか?」

 王様――いや、アデルは、ふっと笑った。

「渋みと甘みのバランスが、ちょうどよい。 君の味見は、信頼できるな」

 その言葉に、セレナとレオが顔を見合わせて笑った。

「父上が笑ったの、久しぶりに見た」 

 レオが、果実を差し出しながら言った。

「アデル、これも味見してみてください」

 アデルは、果実を受け取り、一口かじった。

「甘い。だが、芯に少し酸味がある。 …君のようだな、アイリス」

 私は、思わず吹き出した。

「それ、褒め言葉ですか?」

「もちろん。素直で、芯がある。 それが、王宮に風を通す理由だ」

 その午後、王宮の庭には、四人の笑い声が響いていた。 “王妃”“王子”“王様”という肩書きではなく―― “セレナ”“レオ”“アデル”として、ただの人として。

そして私は、赤毛のアイリスとして、 その輪の中に、自然と座っていた。
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