つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)

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第8話 風を吹かせる

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 王宮の庭に、初夏の風が吹いていた。 果実の香りが漂い、紅茶の湯気がやさしく揺れる。 その日、アデルは静かに私の隣に座った。

「アイリス。君が王宮を変えたことで、私は一つの希望を見つけた」 彼の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。

「希望…ですか?」

「王宮が変われば、国も変えられるかもしれない。 君の目で、城下町を見てほしい。 そして、私に“風の通し方”を教えてくれ」

 私は、深く頷いた。

「わかりました。 でも、王様が城下町に出るなんて…人々が驚きますよ」

 アデルは、ふっと笑った。

「それも、変化の一部だ」

 その日の午後、私とアデルは控えめな衣装に身を包み、城下町へと足を運んだ。 セレナとレオは、少し離れた場所から見守っていた。

 表通りは、にぎやかだった。 果物を売る声、子どもたちの笑い声、パンの焼ける香り―― そこには、王宮と同じような“光”があった。

「ここは、風が通っているようですね」 

 私は、笑いながら言った。

「だが、路地は違う」 

 アデルが、静かに言った。

 私たちは、表通りを外れて、細い路地へと入った。 そこには、別の空気があった。

 壁は黒ずみ、窓は割れ、子どもたちは静かに座っていた。 笑い声はなく、風も通らない。

「…ここが、国の“影”ですね」 

 私は、胸がぎゅっとなるのを感じた。

「王宮と同じだ。 光が強くなるほど、影も濃くなる。 だが、君は王宮の影に光を差した。 だから、ここにも風を通せるかもしれない」

 私は、路地の隅でパンを売る老婦人に声をかけた。

「こんにちは。パンの香りが、とても優しいですね」

 老婦人は、驚いた顔で私を見た。

「…こんな路地に、王宮の人が来るなんて。 でも、ありがとう。このパンは、孫のために焼いてるの」

 私は、そっと一つ買って、アデルに渡した。

「王様、味見をどうぞ」

 アデルは、パンを一口かじり、静かに言った。

「…素朴だが、心がこもっている。 君の母のパイを思い出すな」

 私は、思わず笑った。

「それなら、渋みは少なめですね」

 そのやりとりに、老婦人がくすりと笑った。

「あなたたち、風みたいね。 通り過ぎるだけじゃなく、空気を変えていく」

 その言葉に、アデルは深く頷いた。

「この国に、風を通したい。 君の目と言葉が、その道を照らしてくれる」

 私は、路地の空を見上げた。 狭くて、歪んでいて、でも確かに空はあった。

「じゃあ、まずは窓を開けましょう。 風が通るには、入口が必要ですから」

 空を見上げ光り輝く太陽を仰ぐ。誰にでも平等に降り注ぐ光を感じて希望を描いた。

 城下町の路地に、風が通り始めていた。 
 アデルの命で、王宮から職人たちが派遣され、壊れた窓や壁が少しずつ修復されていく。 
 でも、家があっても、仕事がなければ人は生きていけない。

「アイリス、住まいは整いつつある。 だが、働く場がない。特に、子どもや年配者にとっては難しい」 

 アデルが、地図を広げながら言った。

「それなら…冒険者ギルドに相談してみませんか?」 

 私は、ふと思いついた。

「ギルド?」 

 レオが目を丸くした。

「はい。王宮の外で、物資の運搬や採集、簡単な依頼を受けている人たちが集まる場所です。 子どもでもできる仕事もあるし、やる気をなくした大人にも、少しずつ関われる機会があるかもしれません」

 セレナは、静かに頷いた。

「それは、王宮では思いつかない発想ね。 あなたの“外の目”が、今こそ必要なのね」

 その日、私はギルドの門を叩いた。 中には、剣を磨く若者、地図を広げる老冒険者、そして受付で忙しく働く人々がいた。

「すみません。王宮から来た者です。 路地の人々に、仕事の機会を作りたいんです」

 受付の女性は私に応対して名前をミラと名乗った。彼女は私の提案を聞いて驚いた顔で見つめてくる。

「王宮の人が、路地を? …話は聞きましょう」

 私は、路地の現状を話した。 子どもたちが笑わず、大人たちが目を伏せていること。 家はあっても、心が空っぽなこと。

 ミラは、静かに言った。

「子どもには、薬草採集や荷物運びの仕事がある。 大人には、依頼の管理や地図の整理もできる。 でも…やる気をなくした人に“仕事”を渡すのは、簡単じゃない」

「わかっています。 でも、誰かが“あなたを必要としてる”って言えば…少しだけ、動けるかもしれません」

 その言葉に、ミラは目を細めた。

「…あなた、ただのメイドじゃないわね」

「毒を食べたメイドです。 でも、今は王宮の“空気係”です」

 ミラは吹き出した。普通の人の反応で少し安心する。

「面白い人ね。じゃあ、ギルドとして協力する。 ただし、彼らが“自分で選ぶ”ことが条件よ。無理強いはよくない。どちらにとってもね」

 私は、深く頷いた。

「それが一番大事です。 誰かに“やらされる”のではなく“やってみようかな”と思えること」

 数日後、ギルドの掲示板に、路地の人々向けの依頼が貼り出された。 「荷物の仕分け」「薬草の選別」「果実の乾燥」―― どれも、力がなくてもできる仕事だった。

 子どもたちは、少しずつ集まり始めた。 でも、大人たちは動かなかった。

「…やっぱり、難しいですね」 私は、路地の隅でつぶやいた。

 そのとき、アデルが静かに言った。

「君が、彼らに“名前”を呼んでみてはどうだ?」

 私は、目を見開いた。

「名前…ですか?」

「王宮が変わったのは、名前で呼び合うようになったからだ。 君が、彼らを“誰か”として呼べば――心が動くかもしれない」

 私は、古びた椅子に座る男に近づいた。

「…ルースさん。果実の乾燥、得意だって聞きました」

 男は、驚いた顔で私を見た。

「俺の名前…知ってるのか?」

「はい。ギルドの人が教えてくれました。 あなたの乾燥果実は、保存がきいて、味もいいって」

 ルースは、しばらく黙っていた。 そして、ゆっくりと立ち上がった。

「…久しぶりに、やってみるか」

 その瞬間、路地に風が吹いた気がした。
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