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第9話 視察
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王宮の空気が変わり、城下町に風が通い始めてから、ひと月が経った。 路地には笑い声が戻り、ギルドの掲示板には新しい依頼が並び、果実の香りが風に乗って広がっていた。
その朝、アデルが少し緊張した面持ちで私を呼んだ。
「アイリス、外国から視察団が来る。 我々の“改革”が、海を越えて噂になったらしい」
「視察…ですか?」
「彼らは、王族が城下町で何かをしていると聞きつけて、直接見に来る。 君の目と言葉が、また試されることになる」
私は、深く息を吸った。
「わかりました。 でも、私はいつも通り、素直に話します。 それが、私のやり方ですから」
数日後、視察団が到着した。 異国の衣装に身を包んだ使節たちは、王宮ではなく、まず城下町へと足を運んだ。
「王族が、路地に風を通したと聞いた。 それを、我々の目で確かめたい」
団長の女性――リュシアは、鋭い目をしていた。
私は、彼女を案内しながら、路地の変化を語った。
「ここは、かつて笑い声のない場所でした。 でも、名前を呼び合い、仕事を分け合うことで、少しずつ空気が変わりました」
リュシアは、果実を干すルースの姿を見て言った。
「彼は、かつて働く意欲を失っていたと聞いた。 何が彼を動かした?」
「名前です。 “あなたを知っている”という言葉が、心を動かすことがあります」
リュシアは、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。
「我が国では、王族が民に近づくことは“弱さ”と見なされる。 だが、ここではそれが“強さ”に変わっているようだ」
その言葉に、アデルが答えた。
「王宮の空気を変えたのは、毒を食べたメイドだ。 彼女の素直さが、我々を動かした」
リュシアは、私を見て言った。
「あなたは、王族ではない。 だが、王族以上に国を動かしている。 それを、我が国にも伝えたい」
私は、少しだけ笑った。
「私は、ただの“空気係”です。 でも、風は誰でも起こせます。 名前を呼び、話を聞き、手を差し伸べるだけで」
その夜、視察団は王宮での晩餐に招かれた。 セレナは、紅茶を淹れながら言った。
「あなたの言葉が、国境を越えたわね」
「でも、私は変わらず、渋みも甘みも正直に伝えるだけです」
「それが、風の本質なのよ」
私の素直な気持ちが国境を越えた。とても嬉しい。
晩餐の夜、王宮の広間には異国の香りが漂っていた。 リュシアは、静かに紅茶を口にしながら、周囲の様子を見つめていた。
「この空気…柔らかいですね」 彼女がぽつりと呟いた。
「はい。渋みと甘みのバランスが、ちょうどいいです」
私は、笑いながら答えた。
その後、リュシアは私に声をかけてきた。
「アイリスさん。少しだけ、外を歩きませんか?」
私は頷き、月明かりの庭へと向かった。
「我が国では、王族と民の距離が遠すぎるのです」
リュシアは、静かに言った。
「民は王族を“見上げるもの”としてしか見ていない。 そして王族は、民を“管理するもの”としてしか見ていない」
私は、しばらく黙っていた。 そして、そっと言った。
「それは…昔の王宮に似ています。 私が“毒を食べたメイド”だった頃、王族は遠い存在でした。 でも、名前で呼び合うようになってから、少しずつ距離が縮まりました」
リュシアは、私の顔を見て言った。
「あなたは、どうしてそんなに素直でいられるのですか?」
「母が、私にパイを焼いてくれたんです。 “あなたのため”に作られたものを食べたとき、 私は“誰かに必要とされる”って、初めて思えたんです」
リュシアは、目を細めた。
「それが、あなたの風の種なのですね」
「はい。だから私は、誰かの名前を呼ぶことで、 “あなたはここにいていい”って伝えたいんです」
リュシアは、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。
「我が国にも、風を通したい。 でも、どう始めればいいのか…わからない」
私は、庭の果実の木を見ながら言った。
「風は、まず“窓”から入ります。 誰か一人でも、心の窓を開ければ、そこから風が通ります」
「その窓を、私が開けるべきですか?」
「はい。でも、無理に開ける必要はありません。 まずは、誰かの名前を呼んでみてください。 それが、最初の一歩です」
リュシアは、深く頷いた。
「では、あなたの名前を呼ばせてください。 アイリス。あなたの風を、我が国にも届けたい」
私は、少しだけ照れながら答えた。
「リュシア。あなたの国にも、きっと風は吹きます。 その種は、もうあなたの手の中にありますから」
その夜、王宮の庭には、国境を越えた風がそっと吹いていた。 名前で呼び合うことで、心がつながる。 それは、言葉よりも深く、静かに広がるものだった。
その朝、アデルが少し緊張した面持ちで私を呼んだ。
「アイリス、外国から視察団が来る。 我々の“改革”が、海を越えて噂になったらしい」
「視察…ですか?」
「彼らは、王族が城下町で何かをしていると聞きつけて、直接見に来る。 君の目と言葉が、また試されることになる」
私は、深く息を吸った。
「わかりました。 でも、私はいつも通り、素直に話します。 それが、私のやり方ですから」
数日後、視察団が到着した。 異国の衣装に身を包んだ使節たちは、王宮ではなく、まず城下町へと足を運んだ。
「王族が、路地に風を通したと聞いた。 それを、我々の目で確かめたい」
団長の女性――リュシアは、鋭い目をしていた。
私は、彼女を案内しながら、路地の変化を語った。
「ここは、かつて笑い声のない場所でした。 でも、名前を呼び合い、仕事を分け合うことで、少しずつ空気が変わりました」
リュシアは、果実を干すルースの姿を見て言った。
「彼は、かつて働く意欲を失っていたと聞いた。 何が彼を動かした?」
「名前です。 “あなたを知っている”という言葉が、心を動かすことがあります」
リュシアは、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。
「我が国では、王族が民に近づくことは“弱さ”と見なされる。 だが、ここではそれが“強さ”に変わっているようだ」
その言葉に、アデルが答えた。
「王宮の空気を変えたのは、毒を食べたメイドだ。 彼女の素直さが、我々を動かした」
リュシアは、私を見て言った。
「あなたは、王族ではない。 だが、王族以上に国を動かしている。 それを、我が国にも伝えたい」
私は、少しだけ笑った。
「私は、ただの“空気係”です。 でも、風は誰でも起こせます。 名前を呼び、話を聞き、手を差し伸べるだけで」
その夜、視察団は王宮での晩餐に招かれた。 セレナは、紅茶を淹れながら言った。
「あなたの言葉が、国境を越えたわね」
「でも、私は変わらず、渋みも甘みも正直に伝えるだけです」
「それが、風の本質なのよ」
私の素直な気持ちが国境を越えた。とても嬉しい。
晩餐の夜、王宮の広間には異国の香りが漂っていた。 リュシアは、静かに紅茶を口にしながら、周囲の様子を見つめていた。
「この空気…柔らかいですね」 彼女がぽつりと呟いた。
「はい。渋みと甘みのバランスが、ちょうどいいです」
私は、笑いながら答えた。
その後、リュシアは私に声をかけてきた。
「アイリスさん。少しだけ、外を歩きませんか?」
私は頷き、月明かりの庭へと向かった。
「我が国では、王族と民の距離が遠すぎるのです」
リュシアは、静かに言った。
「民は王族を“見上げるもの”としてしか見ていない。 そして王族は、民を“管理するもの”としてしか見ていない」
私は、しばらく黙っていた。 そして、そっと言った。
「それは…昔の王宮に似ています。 私が“毒を食べたメイド”だった頃、王族は遠い存在でした。 でも、名前で呼び合うようになってから、少しずつ距離が縮まりました」
リュシアは、私の顔を見て言った。
「あなたは、どうしてそんなに素直でいられるのですか?」
「母が、私にパイを焼いてくれたんです。 “あなたのため”に作られたものを食べたとき、 私は“誰かに必要とされる”って、初めて思えたんです」
リュシアは、目を細めた。
「それが、あなたの風の種なのですね」
「はい。だから私は、誰かの名前を呼ぶことで、 “あなたはここにいていい”って伝えたいんです」
リュシアは、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。
「我が国にも、風を通したい。 でも、どう始めればいいのか…わからない」
私は、庭の果実の木を見ながら言った。
「風は、まず“窓”から入ります。 誰か一人でも、心の窓を開ければ、そこから風が通ります」
「その窓を、私が開けるべきですか?」
「はい。でも、無理に開ける必要はありません。 まずは、誰かの名前を呼んでみてください。 それが、最初の一歩です」
リュシアは、深く頷いた。
「では、あなたの名前を呼ばせてください。 アイリス。あなたの風を、我が国にも届けたい」
私は、少しだけ照れながら答えた。
「リュシア。あなたの国にも、きっと風は吹きます。 その種は、もうあなたの手の中にありますから」
その夜、王宮の庭には、国境を越えた風がそっと吹いていた。 名前で呼び合うことで、心がつながる。 それは、言葉よりも深く、静かに広がるものだった。
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