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第一章 新しき世界
第1話 マモル
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私の名前は湯浅真守(ユアサ マモル)。しがない45歳のサラリーマンだ。
私は今、目の前の光景が信じられなくて心の中で呟いている。現実逃避と言っても差し支えないと思います。
「……異世界? 中世ヨーロッパ?」
そうとしか思えない建物。石造りの城壁に囲まれた中に更に石造りな家々。まるで何かに怯えて作られているような街並み。
「さっきまで家の近くにいたと思ったんですけど」
この景色になる前に時は遡る。
◇
「はぁ~、14連勤をこなしました。この年になると厳しいですね~。私も年です」
会社からの帰り道、一人寂しく虚空へと言葉を投げる。代わり映えしない毎日の一つ。
「さて、朝ご飯の具材を買って帰りますか」
誰かが作ってくれることもないので毎日スーパーでお買い物。自炊しか取り柄がない私は毎日自分で作っている。偶には贅沢して外食と言うのもいいのですが最近では朝に開いているお店も少なくなってきましたしね。致し方ありません。
「ありがとうございました~」
具材を買い終わって店員に見送られる。眩しいほどの店員の若さ、少し元気をもらえたような気がします。
「おはよ~」
「おはよう。あの人のヨオチューブ見た?」
スーパーから出て、家への帰り道。学生の登校時間になったみたいですね。次々と学生とすれ違う。
「私もあんな時代があったな~」
若々しさに目を擦る。するとお腹に衝撃が走る。
「いった~。おじさん! 道の真ん中で何やってるの!」
衝撃に目を向けると小学生の少女が頭をぶつけてきていた。自分からぶつかってきたのに文句を口にしてます。
「こら! サクラ! すみません」
「あ~いえいえ。この子のいう通りですよ、こちらことすみません」
少女のお母さんかな? 謝ってくれて頭を下げてくれる。私も答えると少女が睨みつけてきた。
「お母さんは謝るけど、サクラは謝らない!」
「こら! 本当にすみません」
胸を張って言ってくるサクラちゃん。お母さんは謝ってばかり。はて、サクラちゃんは初めて見ますけど、お母さんは見たことがあるような? まあ、他人の空似ですかね。
「いいんですよ。では」
「すみません。……え?」
「「え?」」
立ち去ろうと背中を向けるとサクラちゃんとそのお母さんが光り輝く。そして二人に挟まれていた私も一緒に輝いていた。
◇
そして気がつくと、今に至る。
「これは……巻き込まれたってやつですか?」
若い社員が話していた小説のやつですね。巻き込まれて何も持たずに異世界に行ってしまうおじさんの話。私も何も持っていないのでしょうか?
「スーパーの袋。そして、日本銀行券とカード」
スーツ姿でいつもの持ち物。これは詰みでは?
「この世界の先立つ物、お金をどうにか手に入れないと。私は死にたくありませんからね」
仕事をうまく探さないと初手で死が確定してしまう。この世界の人手は足りているのでしょうか? 人手が足りないなら猫の手も借りたいお店があるはず。住所不定な私でも雇ってくれるはず。
「出店がいいかもしれません。市場を周ってみましょう」
そう思って街並みを歩く。すれ違う人はみんな私に振り返る。服がスーツだから目立つようですね。
「ミミズが張ったような文字。だけど普通に読める。ありがたいけど不思議ですね」
町を歩いているとお店の看板や値札が見える。全部知らない文字、日本語と英語を少々な私でも読めてしまう。見たことのない文字、異世界だと再確認しました。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ん、おっさん! 肉買うか?」
出店が立ち並ぶ噴水広場についた。市場と言うよりも公園と言った感じですね。出店のおっさんにおっさんと言われてしまった。
「買い物じゃないです」
「なんだよ。冷やかしかよ。買わねえならどっかいけよ。シッシ」
手で払われてしまった。ですが私は諦めません。
「働き口を探していまして」
「なんだよ。無職か。ん~そうだな。変わった服装だし、人がつくかもしれねえな。じゃあ、うちで働くか。肉焼いて客に売るだけだからだれでもできる」
「いいんですか!?」
頭を掻きながら呟くと出店のおっさんが私を雇ってくれるようです。初対面なのに雇ってくれるなんておっさんなんて言っちゃダメですね。
「いいに決まってるぜ。安く雇えるならおっさんでも歓迎だ」
「安く……」
「ん? いいんだぜ~俺はよ~。雇わなくても」
やはりおっさんみたいですね。私を安く雇うつもりみたいだ。ですが背に腹は代えられぬ。
「うそ! 嘘ですよお兄様」
「うげっ。お兄様なんてきもちわりい。俺の名前はカシムってんだ。名前で呼べ」
折角お兄様と呼んであげたのに顔を歪めるおっさんカシム。しかし、捨てる神あれば拾う神ありといいますが本当ですね。
「いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 美味しい美味しいファングディアのお肉ですよ~。はい、3本ですね~。毎度ありがとうございます」
声をあげるとすぐにお客さんがやってくる。しかし、ファングディアとはどういった動物なんでしょう。
「おいおい。素人じゃねえなマモル。頼もしいぜ」
「いえいえ、これでも社畜なので何でもできますよ」
「社畜? 意味はわからんが凄い自信だな。よし、明日からはマモル一人に任せて別の店を作るか」
カシムさんはそう言って考え込む。今日あったばかりの私に出店を任せるって、どんだけ私優秀なんでしょう。
「給料の話だけどよ。宿代が一日大銅貨2枚で泊れるから大銅貨10枚でどうだ?」
カシムさんは早速給料の話をしてくる。大銅貨とはどのくらいの価値なんでしょうか。
ファングディアの焼き肉が一本銅貨5枚、10枚で大銅貨になるようなのですが次は?
「もしや金の価値分かってないかマモル?」
「ははは、実はそうなんです」
「ん~、やっぱりそうか」
カシムさんに常識がないことがバレてしまった。結構お金に汚そうな彼にバレたのは結構危ないですかね?
「まずだ。大銅貨って言うのは銅貨の一つ上の硬貨だ。10枚で次の硬貨になるんだが銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあがる」
「ほうほう」
カシムさんは親切に教えてくれる。その間にもお客さんが来てファングディアの焼き肉を売っていく。
「ん~、マモルは結構商売上手だからな~、物怖じもしねえし……。銀貨1枚と大銅貨5枚をだそう!」
「ええ、あげてくれるんですか?」
ケチっぽいカシムさん。どうやら、私が出来る男と分かったようです。これは幸先いいですよ。
私は今、目の前の光景が信じられなくて心の中で呟いている。現実逃避と言っても差し支えないと思います。
「……異世界? 中世ヨーロッパ?」
そうとしか思えない建物。石造りの城壁に囲まれた中に更に石造りな家々。まるで何かに怯えて作られているような街並み。
「さっきまで家の近くにいたと思ったんですけど」
この景色になる前に時は遡る。
◇
「はぁ~、14連勤をこなしました。この年になると厳しいですね~。私も年です」
会社からの帰り道、一人寂しく虚空へと言葉を投げる。代わり映えしない毎日の一つ。
「さて、朝ご飯の具材を買って帰りますか」
誰かが作ってくれることもないので毎日スーパーでお買い物。自炊しか取り柄がない私は毎日自分で作っている。偶には贅沢して外食と言うのもいいのですが最近では朝に開いているお店も少なくなってきましたしね。致し方ありません。
「ありがとうございました~」
具材を買い終わって店員に見送られる。眩しいほどの店員の若さ、少し元気をもらえたような気がします。
「おはよ~」
「おはよう。あの人のヨオチューブ見た?」
スーパーから出て、家への帰り道。学生の登校時間になったみたいですね。次々と学生とすれ違う。
「私もあんな時代があったな~」
若々しさに目を擦る。するとお腹に衝撃が走る。
「いった~。おじさん! 道の真ん中で何やってるの!」
衝撃に目を向けると小学生の少女が頭をぶつけてきていた。自分からぶつかってきたのに文句を口にしてます。
「こら! サクラ! すみません」
「あ~いえいえ。この子のいう通りですよ、こちらことすみません」
少女のお母さんかな? 謝ってくれて頭を下げてくれる。私も答えると少女が睨みつけてきた。
「お母さんは謝るけど、サクラは謝らない!」
「こら! 本当にすみません」
胸を張って言ってくるサクラちゃん。お母さんは謝ってばかり。はて、サクラちゃんは初めて見ますけど、お母さんは見たことがあるような? まあ、他人の空似ですかね。
「いいんですよ。では」
「すみません。……え?」
「「え?」」
立ち去ろうと背中を向けるとサクラちゃんとそのお母さんが光り輝く。そして二人に挟まれていた私も一緒に輝いていた。
◇
そして気がつくと、今に至る。
「これは……巻き込まれたってやつですか?」
若い社員が話していた小説のやつですね。巻き込まれて何も持たずに異世界に行ってしまうおじさんの話。私も何も持っていないのでしょうか?
「スーパーの袋。そして、日本銀行券とカード」
スーツ姿でいつもの持ち物。これは詰みでは?
「この世界の先立つ物、お金をどうにか手に入れないと。私は死にたくありませんからね」
仕事をうまく探さないと初手で死が確定してしまう。この世界の人手は足りているのでしょうか? 人手が足りないなら猫の手も借りたいお店があるはず。住所不定な私でも雇ってくれるはず。
「出店がいいかもしれません。市場を周ってみましょう」
そう思って街並みを歩く。すれ違う人はみんな私に振り返る。服がスーツだから目立つようですね。
「ミミズが張ったような文字。だけど普通に読める。ありがたいけど不思議ですね」
町を歩いているとお店の看板や値札が見える。全部知らない文字、日本語と英語を少々な私でも読めてしまう。見たことのない文字、異世界だと再確認しました。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ん、おっさん! 肉買うか?」
出店が立ち並ぶ噴水広場についた。市場と言うよりも公園と言った感じですね。出店のおっさんにおっさんと言われてしまった。
「買い物じゃないです」
「なんだよ。冷やかしかよ。買わねえならどっかいけよ。シッシ」
手で払われてしまった。ですが私は諦めません。
「働き口を探していまして」
「なんだよ。無職か。ん~そうだな。変わった服装だし、人がつくかもしれねえな。じゃあ、うちで働くか。肉焼いて客に売るだけだからだれでもできる」
「いいんですか!?」
頭を掻きながら呟くと出店のおっさんが私を雇ってくれるようです。初対面なのに雇ってくれるなんておっさんなんて言っちゃダメですね。
「いいに決まってるぜ。安く雇えるならおっさんでも歓迎だ」
「安く……」
「ん? いいんだぜ~俺はよ~。雇わなくても」
やはりおっさんみたいですね。私を安く雇うつもりみたいだ。ですが背に腹は代えられぬ。
「うそ! 嘘ですよお兄様」
「うげっ。お兄様なんてきもちわりい。俺の名前はカシムってんだ。名前で呼べ」
折角お兄様と呼んであげたのに顔を歪めるおっさんカシム。しかし、捨てる神あれば拾う神ありといいますが本当ですね。
「いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 美味しい美味しいファングディアのお肉ですよ~。はい、3本ですね~。毎度ありがとうございます」
声をあげるとすぐにお客さんがやってくる。しかし、ファングディアとはどういった動物なんでしょう。
「おいおい。素人じゃねえなマモル。頼もしいぜ」
「いえいえ、これでも社畜なので何でもできますよ」
「社畜? 意味はわからんが凄い自信だな。よし、明日からはマモル一人に任せて別の店を作るか」
カシムさんはそう言って考え込む。今日あったばかりの私に出店を任せるって、どんだけ私優秀なんでしょう。
「給料の話だけどよ。宿代が一日大銅貨2枚で泊れるから大銅貨10枚でどうだ?」
カシムさんは早速給料の話をしてくる。大銅貨とはどのくらいの価値なんでしょうか。
ファングディアの焼き肉が一本銅貨5枚、10枚で大銅貨になるようなのですが次は?
「もしや金の価値分かってないかマモル?」
「ははは、実はそうなんです」
「ん~、やっぱりそうか」
カシムさんに常識がないことがバレてしまった。結構お金に汚そうな彼にバレたのは結構危ないですかね?
「まずだ。大銅貨って言うのは銅貨の一つ上の硬貨だ。10枚で次の硬貨になるんだが銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあがる」
「ほうほう」
カシムさんは親切に教えてくれる。その間にもお客さんが来てファングディアの焼き肉を売っていく。
「ん~、マモルは結構商売上手だからな~、物怖じもしねえし……。銀貨1枚と大銅貨5枚をだそう!」
「ええ、あげてくれるんですか?」
ケチっぽいカシムさん。どうやら、私が出来る男と分かったようです。これは幸先いいですよ。
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