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第一章

第4話 急な別れ

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 ウィンドウが出たままルガさんに続いて布で出来た小屋に入る。

「ルガさんお帰りなさい。どうでした?」

「おう。大収穫だ」

 瓶を掲げて見せるルガさん。他のおじさん達は大喜びで跳ねまわる。

「ハヤトのおかげだ」

「ありがとなハヤト」

「あっ、いえ、こちらこそ」

 ゴミを漁っていたおじさんがもじゃもじゃの髭を押し付けて喜んでくれる。すでに匂いは嗅覚疲労で感じなくなっているので大丈夫だが、おじさんに抱き着かれるのは抵抗あるな。
 しかし、おじさんがいっぱいいるのに名前を知ってるのはルガさんだけだ、みんなの名前も教えてほしいな。

「皆さんの名前って?」

「名前は教えない決まりだ。さっきも言ったが追われてるものの方が多いからな」

「でも、ルガさんは」

「俺は偽名だからな」

 え? じゃあ、みんなも偽名を作れば? と思ったが睨まれたので言うのをやめた。

「ルガさん。そんなことよりも飲みましょう」

「おう、そうだな。ハヤトも飲むか?」

 おじさん達が酒を見つめながらルガさんに話すと彼は僕を見て誘ってきた。僕は首を振って断る。飲んでる暇はないからね。だって、異世界商店が気になりすぎてるから。

「えっと? 衣服、道具か。あ~なるほど、なんでウィンドウが大きいのか分かった。ウィンドウショッピングになってるんだ」

 布で出来た小屋から出て異世界商店をまじまじと見つめる。【衣服】【道具】というボタンがあるから衣服に触れたら僕の姿がウィンドウに映った。これで売られている衣服を選ぶと試着できるんだろう。ネットで見たことがあるぞ。その時はマネキンだったけどね。

「しかし、お金を持っていないから買えないよな。と言うかお金があっても入れかたわからないし……どうすりゃいいんだ?」

 ウィンドウの右上に0Gという文字が出てる。たぶん、お金の単位だと思うんだよな。この世界のお金はガロって言ってたしね。って言葉と文字は違うから違うかもしれないのか。

「とにかく、商品を選んでみるか。えっと旅人? その服ってことかな?」

 一番安い服を選ぶとウィンドウの中の僕の衣装が変わる。思っていた通り試着できるみたいだ。購入を選ぼうと思ったらやっぱり、Gが足りないって出た。ダメかと思って見るとウィンドウにお金になるものを入れてくださいって出た。むむむ、

「お金になるものか……」

 あたりを見回す。ゴミしか落ちてない。とりあえず入れてみるか。たまたま落ちていた骨を拾う。ウィンドウに触れると勝手に入って行く。自販機のお札を入れる時みたいだな。

「ゴミの骨だからそんなに高くないよな~」

 そう思って半信半疑で右上を見る。すると、

「100G? オークの骨?」

 入れたものの情報も書かれている。どうやら、貴重な骨だったようだ。
 捨てられているものはどれも普通の人たちの物。腐っても鯛と言ったものばかりということか。ということはこのゴミを全部入れれば……。

「大金持ち?」

 口角が上がるのを感じてワクワクが止まらない。とにかく、ルガさん達がお酒を楽しんでいる間にちゃっちゃと済ませてしまおう。

「ふぃ~。久々の酒はうまかったな~」

「ほんとですね~。って何だこりゃ!」

 しばらくすると、ルガさん達が小屋から出てきた。周りにあったゴミがなくなっていて驚いてる。
 全部のゴミを入れたら5万Gになった。ゴミと言っても価値が出るんだな。

「ハヤトおめえ……」

 もちろん綺麗な服を買ったので姿が変わってる僕。ルガさんは驚いて声をもらす。

「俺達を騙してたのか?」

「え?」

「俺達を憐れんで裏で笑ってたのか?」

「ち、違いますよ」

 ルガさんはワナワナと狼狽える。違うと弁解しても震えは止まらなかった。

「ハヤト。俺達はゴミに隠れてたんだ。ゴミが俺達を守ってくれてたんだよ。それをおまえ」

 最初に見たおじさんが泣き出しながら話してきた。そうか、隠れてるんだっけ。でも、このお金で少し楽できる。
 僕はすぐに声をあげようと口を開くとすぐに遮られる。

「出てけ」

「え!? いえ、恩を」

「出てけ!」

 ルガさんはかなり怒って声を荒らげる。鼻息も凄くて何も聞いてくれない様子だ。

「ルガさん……」

「……」

 みんな布で出来た小屋に帰っていってしまう。この世界の常識を教えてくれたみんなに少しでも恩を返したいと思っていた。だけど、ここまで嫌われちゃうとは思わなかった。
 ゴミ山を綺麗にしてお金にしても喜んではくれなかった。

「すみませんでした……」

 僕は異世界商店で1万Gで生活用品を買った。買ったものは置いていく。洋服、お酒、食べ物……食べ物はあんまり保存効かないと思うから早めに食べてほしいな。

 僕は寂しく路地の外へ歩く。喜んでくれると思ったんだけどな。
 トボトボと俯きながら歩いていると不意に何かに当たった。

「てめ~! 前見て歩け!」

 前を見てなかったから人に当たってしまったみたいだ。犬の獣人が大きな声で怒ってくる。
 あれ? この獣人スーツ着てる。

「あ? こいつ、この服の?」

「あ! 本当だな。金づるじゃねえか!」

 見覚えがあると思ったら僕からすべてを奪って行った獣人だ! 取り巻きが僕に気が付いて話してる。

「おめえ、裸にしてやったのにまだ足りねえのか?」

 今は言葉が分かる。こいつら僕の事を金づるって言ってたんだな。
 胸ぐらを掴んでくる犬の獣人。あの時は動揺していてよく見ていなかったけど、4人でつるんでるのか。

「また金づるになってもらうか」

 へへへと笑う男達。あの時から少しだけ立派になった。今なら何とかなるはずだ。

「この手を離せ!」

「いで!」

 胸ぐらを掴む手を叩く。思いっきり叩いたけど、いたがる程度だな。
 離れると木の棒を構える。

「このヤロウ!」

 怒りに任せて殴りかかってくる獣人。すかさず伸ばしてきた手を木の棒で叩き落す。
 ボキッ! 鈍い感触が手に響く。

「いでぇ~! 手が! 手が~」

 軽く叩いたつもりだったんだけど、折れてしまったみたいだ。流石にやり過ぎたか、そう思っていると仲間の男達がナイフを持ち出す。

「てめ~。よくも」

 流石に刃物は怖い。そう思っていても来るものは叩き落す。
 三人のナイフを避けてナイフを持つ手を叩き落す。全員もれなく手の骨折。
 この世界に来る前に剣道をしていた、というわけじゃないけど上手く立ち回れてる。これはスキルのおかげだろうか?
 剣術と棒術のスキルが重複して攻撃力をましているのかもしれないな。とりあえず、戦利品としてナイフを没収っと。

『短剣術を習得しました』

「え?」

 ナイフを拾っただけでスキルが手に入ってしまった。学習アシストさん、張り切りすぎだよ。

「てめ~。覚えてろよ」

「ごめんね。覚えていられないよ」

「ちぃ」

 これが本当の負け犬の遠吠え。それに答えて路地を出る。ルガさん達もあいつらの被害にあってた、これで少しは恩を返せたかな。
 さて、ここからが僕の異世界生活の始まりだ。まずは体を洗いたいな……。
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