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第三十二話 みんなの時間
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この日の天気は快晴だった。
雲一つない青空の下、俺たちは家の外へと出る。
みんな動きやすい軽装だ。
「ピクニック! パパ、はやくいこっ」
サキちゃんが楽しみで待ちきれないと言わんばかりに、俺の手を引っ張る。
その無邪気さに頬が緩んだ。
「サキちゃん、危ないから走ったらダメだよ。あんまり離れないようにしてね?」
「わかった! パパにくっつく!!」
聞き分けの良い彼女は俺にぴったりと密着してくる。
腕を抱きしめるようにもたれかかる彼女の笑顔はとてもかわいかった。
――ピクニック当日である。
俺たちは、お昼のちょっと前くらいから出発していた。
「こっちこっち! 少し歩くとね、いい感じの丘があるの! 見晴らしもいいし、ピクニックにはおススメだよっ」
案内はマニュがしてくれる。
彼女は散歩を日課にしているだけあって、周囲の地形を把握しているらしい。ピクニックに適した場所も見つけていたようだ。
「おにーちゃん、迷わないようにわたしのことちゃんと見ててね? あ! スカートも短くしてるから、パンツ見えちゃうかもしれないけど、気にしないで見ていいからね?」
「……なんでピクニックにスカートなの?」
「おにーちゃんにパンツ見せるために決まってるよ~」
「そっか。じゃあ行こう」
「むぅ……スルーかっ。いっぱい見せてこーふんさせてやるもーんっ」
努めて無表情を装ったが、パンツや裸を見るのはいつまで経ってもドキドキするのでやめてほしい。いくら子供だからって、女の子なのだ。気を付けてほしいものである。
「ぱんつ? パパ、サキのぱんつもみるっ?」
「見ません。マニュは悪い子だから、真似したらダメだよ」
「うん! じゃあ、パンツはかない!!」
「それも違うなぁ……パンツが悪いってわけじゃないから」
説明が難しいな。
まぁ、後できちんと説明することにして、今はピクニックを楽しもう。
先を歩いて時折わざとらしくスカートを捲し上げるマニュはさておき。
「暑いわね……肌が焼けちゃうわ」
俺の少し後ろでは、日傘を差して呻くエレオノーラがいた。
肌が異常に白い彼女は見た目通り陽の光に弱いらしい。
彼女は白いワンピースを着ている。この前俺がお土産で買って来たやつなのだが、これは露出が多いので今日のような快晴に着るのはちょっと適さないような気がする。
「きちんと、長そでと長ズボン履いた方が良かったんじゃない?」
そっちの方が過ごしやすいと思うんだけど。
「下僕、脳みそ溶けちゃってるのかしら?」
おっと。静かに罵倒されてしまった。
でも、この言葉が悪意によるものではないと、この一週間で俺は学んでいる。
「あなたからもらった服を着たかったのよ。肌が焼けても、構わないわ」
そう。エレオノーラは、こういう子なのだ。
なんか嬉しいような、もう少し自分のことにも気を遣ってほしいような。
でも、俺への愛情は確かに感じる。
その愛情を否定するよりも、喜んだ方が良いことは理解していた。
「かわいいよ、エレオノーラ」
なので、率直な感想を伝えておく。
そうすれば彼女は、当然と言わんばかりに微笑むのだ。
「分かってるじゃない、下僕。さては私のかわいさで脳みそが溶けていたのね?」
「……そうなのかなぁ」
「ふぅ。かわいいのも罪だわ……」
表情には照れ隠しとうっとりした色が入り混じっていた。
あ、こうなると彼女は話しかけても反応が薄くなるので、少し放置しておこう。恍惚に浸っているというか、そんな感じである。
エレオノーラのことは一旦そばに置いて、俺はバスケットを抱えるルーラに意識を向けた。
「ルーラ、荷物はやっぱり俺が持とうか?」
そう。彼女は弁当を用意してくれている。
四人分で、かつ気合を入れて作っても居るようなので、結構な重さになっていたはずだ。
俺が持てるなら、持ちたいと思ったのである。
「いえ、大丈夫です。ご主人様は、サキ様としっかり手を繋いでおいてくださいませ」
だが、ルーラは頑なに首を横に振る。
実は家を出る負けら俺が持つことを提案しているのだが、彼女が絶対に断るのだ。
「これは家事を任されているわたくしの仕事ですので……ご主人様が『おいしい』と言う前に、疲れてしまわれては困ります。ごはんをおいしくいただくためにも、持つのは我慢してくださいませ」
「え、あ、うん……そこまで言うなら」
謎の理論で論破されてしまった。
とにかく荷物のことは気にせず、ピクニックに集中しろということなのだろうか。
ともあれ、俺のことを思っていくれているのは感じ取れる。
ここは素直に甘えておくのが、俺の仕事だ。
「じゃあ、荷物はお願い。ルーラ」
「はい。お任せください」
お願いするとルーラはコクリと頷いた。
甘えられていることに喜んでいるのか、表情も柔らかい。
反応や言動は四者四様である。
でも、みんなピクニックは楽しもうとしてくれているみたいだった。
俺も、精一杯楽しむことにしようかな――
雲一つない青空の下、俺たちは家の外へと出る。
みんな動きやすい軽装だ。
「ピクニック! パパ、はやくいこっ」
サキちゃんが楽しみで待ちきれないと言わんばかりに、俺の手を引っ張る。
その無邪気さに頬が緩んだ。
「サキちゃん、危ないから走ったらダメだよ。あんまり離れないようにしてね?」
「わかった! パパにくっつく!!」
聞き分けの良い彼女は俺にぴったりと密着してくる。
腕を抱きしめるようにもたれかかる彼女の笑顔はとてもかわいかった。
――ピクニック当日である。
俺たちは、お昼のちょっと前くらいから出発していた。
「こっちこっち! 少し歩くとね、いい感じの丘があるの! 見晴らしもいいし、ピクニックにはおススメだよっ」
案内はマニュがしてくれる。
彼女は散歩を日課にしているだけあって、周囲の地形を把握しているらしい。ピクニックに適した場所も見つけていたようだ。
「おにーちゃん、迷わないようにわたしのことちゃんと見ててね? あ! スカートも短くしてるから、パンツ見えちゃうかもしれないけど、気にしないで見ていいからね?」
「……なんでピクニックにスカートなの?」
「おにーちゃんにパンツ見せるために決まってるよ~」
「そっか。じゃあ行こう」
「むぅ……スルーかっ。いっぱい見せてこーふんさせてやるもーんっ」
努めて無表情を装ったが、パンツや裸を見るのはいつまで経ってもドキドキするのでやめてほしい。いくら子供だからって、女の子なのだ。気を付けてほしいものである。
「ぱんつ? パパ、サキのぱんつもみるっ?」
「見ません。マニュは悪い子だから、真似したらダメだよ」
「うん! じゃあ、パンツはかない!!」
「それも違うなぁ……パンツが悪いってわけじゃないから」
説明が難しいな。
まぁ、後できちんと説明することにして、今はピクニックを楽しもう。
先を歩いて時折わざとらしくスカートを捲し上げるマニュはさておき。
「暑いわね……肌が焼けちゃうわ」
俺の少し後ろでは、日傘を差して呻くエレオノーラがいた。
肌が異常に白い彼女は見た目通り陽の光に弱いらしい。
彼女は白いワンピースを着ている。この前俺がお土産で買って来たやつなのだが、これは露出が多いので今日のような快晴に着るのはちょっと適さないような気がする。
「きちんと、長そでと長ズボン履いた方が良かったんじゃない?」
そっちの方が過ごしやすいと思うんだけど。
「下僕、脳みそ溶けちゃってるのかしら?」
おっと。静かに罵倒されてしまった。
でも、この言葉が悪意によるものではないと、この一週間で俺は学んでいる。
「あなたからもらった服を着たかったのよ。肌が焼けても、構わないわ」
そう。エレオノーラは、こういう子なのだ。
なんか嬉しいような、もう少し自分のことにも気を遣ってほしいような。
でも、俺への愛情は確かに感じる。
その愛情を否定するよりも、喜んだ方が良いことは理解していた。
「かわいいよ、エレオノーラ」
なので、率直な感想を伝えておく。
そうすれば彼女は、当然と言わんばかりに微笑むのだ。
「分かってるじゃない、下僕。さては私のかわいさで脳みそが溶けていたのね?」
「……そうなのかなぁ」
「ふぅ。かわいいのも罪だわ……」
表情には照れ隠しとうっとりした色が入り混じっていた。
あ、こうなると彼女は話しかけても反応が薄くなるので、少し放置しておこう。恍惚に浸っているというか、そんな感じである。
エレオノーラのことは一旦そばに置いて、俺はバスケットを抱えるルーラに意識を向けた。
「ルーラ、荷物はやっぱり俺が持とうか?」
そう。彼女は弁当を用意してくれている。
四人分で、かつ気合を入れて作っても居るようなので、結構な重さになっていたはずだ。
俺が持てるなら、持ちたいと思ったのである。
「いえ、大丈夫です。ご主人様は、サキ様としっかり手を繋いでおいてくださいませ」
だが、ルーラは頑なに首を横に振る。
実は家を出る負けら俺が持つことを提案しているのだが、彼女が絶対に断るのだ。
「これは家事を任されているわたくしの仕事ですので……ご主人様が『おいしい』と言う前に、疲れてしまわれては困ります。ごはんをおいしくいただくためにも、持つのは我慢してくださいませ」
「え、あ、うん……そこまで言うなら」
謎の理論で論破されてしまった。
とにかく荷物のことは気にせず、ピクニックに集中しろということなのだろうか。
ともあれ、俺のことを思っていくれているのは感じ取れる。
ここは素直に甘えておくのが、俺の仕事だ。
「じゃあ、荷物はお願い。ルーラ」
「はい。お任せください」
お願いするとルーラはコクリと頷いた。
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