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第五話「ロマンスの残響」3
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「随分前に書かれたエッセイ本なんだけど、一度、地方の有志達の間で映画化されたことがあって、それを見て私は知ったの。自主製作映画だから全国的に知られているわけではないのだけど」
今では配信自体が打ち切られていて、この映画は視聴すること自体が困難なものになっている。
事情は深く知らないが、著作権者の都合というのもあるのかもしれない。
題材になっている震災自体が随分前の過去の話しでもあり、話題に上がることは近年は減ってきたことから、配信や販売が再開される可能性は低いだろう。
次に私は浩二にこのエッセイ本の簡単なあらすじを説明した。
“震災のピアニスト”
両想いだった主人公の少女と想い人であった男の子は、小学校の卒業をきっかけに離れ離れになってしまう。
お互いにピアニストを目指して切磋琢磨し合ってきた二人はいつかピアノコンクールの舞台で再会しようと別れ際に約束をした。
だが、離れてから二人は再会の機会に恵まれないまま、4年後に起きた大きな震災に女の子は巻き込まれ、主人公の女の子は両親を亡くし、多くのクラスメイトを失くした精神的ショックから口を開いても声を出せなくなって、声を出して会話が出来なくなってしまった。
ニュースの報道を通じて女の子が両親を亡くしてしまったことを知った彼は4年ぶりの再会を願いながら病院まで訪れて、失意の中にあった少女になんとしても生きる勇気を与えるために、自分がピアノコンクールを受けることを告げる。
失意の中、彼の演奏を聞いた少女は被災した多くの人に勇気を与えるため、出場を諦めていたピアノコンクールに出場する決意を固める。
予選を二人は無事に勝ち抜き、そして、ピアノコンクール本選の幕が開かれ、テレビ中継もされる中、二人の演奏は被災者達に勇気を与えると共に多くの感動を呼ぶこととなった。
これが舞台演劇化を目指すエッセイ本の簡単なあらすじだ。
実際には原作のエッセイ本はインタビューなどが中心になっていて、映画の方が物語としての体裁を取っているのでそちら側が脚本にしやすいものとなっている。
「映画の方は見てないからハッキリとは言えないが、このエッセイ本を見ただけでも、今まで作ってきた舞台演劇とも内容は被らないし、濃密なドラマで演じ甲斐も十分にあるな。これが羽月の勧めなら、準備に費やせられる時間は多く残されてはいないが、頑張ってみるか」
エッセイ本に目を通し、概要を聞いた浩二が私のアイディアに納得したようで、大変なことであるのを承知で協力をしてくれると言ってくれた。
「うん、ありがとう」
浩二は私の気持ちを受け止めてくれた。
頑張らないわけにはいかない。
「準備は大変だけど、まずは脚本を仕上げるのと、みんなにも作品を知ってもらわないとな」
浩二は浮かれる様子もなく、もう前を見ていた。
「そうね、私はこの作品で勝ちたい。我が儘なことだと思うけど」
「いいんじゃないか、やってみないと結果は分からないんだから」
こうして湧き上がった感情を優先して突き進もうとしているこの状況を鑑みると、とても学生らしいことをしているようにも見えた。
俗にこういう事を青春というのだろう。でも、むしろこういう意欲的な挑戦の方が観客からウケがいいことだってあるから、やってみないと結果は分からない。
少し考えてみると浩二の意見も一理あると思った。
「忙しくなるわね」
「そういうのは、羽月は得意だろ?」
ちょっと茶目っ気も込めて浩二は言った。
「好きかどうかでいうと、好きではないけどね」
楽しみである気持ちは隠せず、私は微笑みながら浩二に言った。
ここから本格的に動き出す、私たちの戦いが。
題材も決まり、それから数日間、早く全体で準備に取り掛かれるように、脚本化するための作業が夜通し続いた。
今では配信自体が打ち切られていて、この映画は視聴すること自体が困難なものになっている。
事情は深く知らないが、著作権者の都合というのもあるのかもしれない。
題材になっている震災自体が随分前の過去の話しでもあり、話題に上がることは近年は減ってきたことから、配信や販売が再開される可能性は低いだろう。
次に私は浩二にこのエッセイ本の簡単なあらすじを説明した。
“震災のピアニスト”
両想いだった主人公の少女と想い人であった男の子は、小学校の卒業をきっかけに離れ離れになってしまう。
お互いにピアニストを目指して切磋琢磨し合ってきた二人はいつかピアノコンクールの舞台で再会しようと別れ際に約束をした。
だが、離れてから二人は再会の機会に恵まれないまま、4年後に起きた大きな震災に女の子は巻き込まれ、主人公の女の子は両親を亡くし、多くのクラスメイトを失くした精神的ショックから口を開いても声を出せなくなって、声を出して会話が出来なくなってしまった。
ニュースの報道を通じて女の子が両親を亡くしてしまったことを知った彼は4年ぶりの再会を願いながら病院まで訪れて、失意の中にあった少女になんとしても生きる勇気を与えるために、自分がピアノコンクールを受けることを告げる。
失意の中、彼の演奏を聞いた少女は被災した多くの人に勇気を与えるため、出場を諦めていたピアノコンクールに出場する決意を固める。
予選を二人は無事に勝ち抜き、そして、ピアノコンクール本選の幕が開かれ、テレビ中継もされる中、二人の演奏は被災者達に勇気を与えると共に多くの感動を呼ぶこととなった。
これが舞台演劇化を目指すエッセイ本の簡単なあらすじだ。
実際には原作のエッセイ本はインタビューなどが中心になっていて、映画の方が物語としての体裁を取っているのでそちら側が脚本にしやすいものとなっている。
「映画の方は見てないからハッキリとは言えないが、このエッセイ本を見ただけでも、今まで作ってきた舞台演劇とも内容は被らないし、濃密なドラマで演じ甲斐も十分にあるな。これが羽月の勧めなら、準備に費やせられる時間は多く残されてはいないが、頑張ってみるか」
エッセイ本に目を通し、概要を聞いた浩二が私のアイディアに納得したようで、大変なことであるのを承知で協力をしてくれると言ってくれた。
「うん、ありがとう」
浩二は私の気持ちを受け止めてくれた。
頑張らないわけにはいかない。
「準備は大変だけど、まずは脚本を仕上げるのと、みんなにも作品を知ってもらわないとな」
浩二は浮かれる様子もなく、もう前を見ていた。
「そうね、私はこの作品で勝ちたい。我が儘なことだと思うけど」
「いいんじゃないか、やってみないと結果は分からないんだから」
こうして湧き上がった感情を優先して突き進もうとしているこの状況を鑑みると、とても学生らしいことをしているようにも見えた。
俗にこういう事を青春というのだろう。でも、むしろこういう意欲的な挑戦の方が観客からウケがいいことだってあるから、やってみないと結果は分からない。
少し考えてみると浩二の意見も一理あると思った。
「忙しくなるわね」
「そういうのは、羽月は得意だろ?」
ちょっと茶目っ気も込めて浩二は言った。
「好きかどうかでいうと、好きではないけどね」
楽しみである気持ちは隠せず、私は微笑みながら浩二に言った。
ここから本格的に動き出す、私たちの戦いが。
題材も決まり、それから数日間、早く全体で準備に取り掛かれるように、脚本化するための作業が夜通し続いた。
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