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第六話「期待と不安と」3
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そして、昼休みが終わった後の部活会議、キャストの提案が行われた。
照明を消した教室で、私はスライドショーを使って指揮棒を手に説明する。
主人公の四方晶子役は稗田知枝さん。
主人公の幼馴染の男の子、佐藤隆之介役は黒沢研二さん。
晶子のピアノ先生役である桂式見役を永弥音唯花さん。
晶子の入院する病院の医師役に内藤達也さん。
メインキャストである4名の発表を終え、沈黙が流れる。
表情一つ変えない黒沢さんに対して、稗田さんは私の話しに疑問が浮かんでいる様子で俯き加減になって不安そうな表情を浮かべている。
予想通りではあるけど、実際目の当たりにすると罪悪感を覚えてしまう。
でも、これは勝つための選択、稗田さんには悪いけど、覚悟を決めてもらわないと。
「黒沢さんは、いいかしら?」
私は黒沢さんへ視線を向けて確かめる。互いに脚本を手に掴み、黒川さんはすでに覚悟を決めた演者の表情をしていた。
「問題ありません。お望みとあらば、ご期待にこたえましょう」
クールにそう言い切る黒沢さん、役者として自信に満ちた表情は、クラスメイト達の期待感を惹きつけると共に、相手役の稗田さんに対して大きなプレッシャーを与えるものだった。
彼は稗田さんに向けて、あえてこんな演技を? 何のために? 二人の関係についてはまだ調査不十分だったかしら……。
私から見れば、転校生の彼が、同じく転校生の稗田さんを挑発しているように思えた。
考えすぎかもしれないが、そう考えても仕方ないくらい、二人のリアクションは対照的なものであった。
「ありがとうございます、黒沢さん。転校して早々、大役を引き受けていただき感謝します」
「いえいえ、委員長さんの考えは分かります。お気になさらずに」
海外暮らしながら流暢な日本語でクールにそう答える黒沢さん。深く理由などを追求することなく、稗田さんの感情を考えると邪悪にも見える含みのある笑みを浮かべながら、彼は迷いなく私の提案を受け入れた。
おそらく私の考えていることは、彼にはお見通しということだろう。さすが、侮れない。今回のケースでは頼りがいあるが、同時に注意すべき相手でもある。ここは軽く見られないよう、気を付けないと。
私は一呼吸おいて、息を整え、次に稗田さんの方に視線を向けた。
稗田さんが私から送る視線に気づく、その表情はすでに怯えた子どものようであったため、さすがに心が痛んだ。
純粋な子を困らせたいわけではない、でも、一度決めたこと、簡単に引き下がることは出来ない。
「稗田さん、突然の主役で申し訳ないのだけど引き受けてくれるかしら? 無理強いするつもりはないけど、そのなりに考えての提案なのだけど」
真剣に私は稗田さんに語り掛けた。
私の言葉を聞いて稗田さんの視線が泳いでいる、不安でいっぱいの表情をしていた。
「私が……ですか、考えてなかったので、どう返事してよいのか……」
なんとか返事をするために辛そうに答える稗田さんの姿に、私は心が痛んだ。
「うん、分かった、すぐには決めなくていいから、また、一晩考えて返事を聞かせてくれるかしら?」
「はい……」
力なく返事をする稗田さん。
私はとりあえず、一旦稗田さんのことはおいて、他のキャストの事を決めることにした。
唯花さんと内藤君は与えられた役を迷わず引き受けてくれて、メインキャストは稗田さんの返事を待つだけとなった。
照明を消した教室で、私はスライドショーを使って指揮棒を手に説明する。
主人公の四方晶子役は稗田知枝さん。
主人公の幼馴染の男の子、佐藤隆之介役は黒沢研二さん。
晶子のピアノ先生役である桂式見役を永弥音唯花さん。
晶子の入院する病院の医師役に内藤達也さん。
メインキャストである4名の発表を終え、沈黙が流れる。
表情一つ変えない黒沢さんに対して、稗田さんは私の話しに疑問が浮かんでいる様子で俯き加減になって不安そうな表情を浮かべている。
予想通りではあるけど、実際目の当たりにすると罪悪感を覚えてしまう。
でも、これは勝つための選択、稗田さんには悪いけど、覚悟を決めてもらわないと。
「黒沢さんは、いいかしら?」
私は黒沢さんへ視線を向けて確かめる。互いに脚本を手に掴み、黒川さんはすでに覚悟を決めた演者の表情をしていた。
「問題ありません。お望みとあらば、ご期待にこたえましょう」
クールにそう言い切る黒沢さん、役者として自信に満ちた表情は、クラスメイト達の期待感を惹きつけると共に、相手役の稗田さんに対して大きなプレッシャーを与えるものだった。
彼は稗田さんに向けて、あえてこんな演技を? 何のために? 二人の関係についてはまだ調査不十分だったかしら……。
私から見れば、転校生の彼が、同じく転校生の稗田さんを挑発しているように思えた。
考えすぎかもしれないが、そう考えても仕方ないくらい、二人のリアクションは対照的なものであった。
「ありがとうございます、黒沢さん。転校して早々、大役を引き受けていただき感謝します」
「いえいえ、委員長さんの考えは分かります。お気になさらずに」
海外暮らしながら流暢な日本語でクールにそう答える黒沢さん。深く理由などを追求することなく、稗田さんの感情を考えると邪悪にも見える含みのある笑みを浮かべながら、彼は迷いなく私の提案を受け入れた。
おそらく私の考えていることは、彼にはお見通しということだろう。さすが、侮れない。今回のケースでは頼りがいあるが、同時に注意すべき相手でもある。ここは軽く見られないよう、気を付けないと。
私は一呼吸おいて、息を整え、次に稗田さんの方に視線を向けた。
稗田さんが私から送る視線に気づく、その表情はすでに怯えた子どものようであったため、さすがに心が痛んだ。
純粋な子を困らせたいわけではない、でも、一度決めたこと、簡単に引き下がることは出来ない。
「稗田さん、突然の主役で申し訳ないのだけど引き受けてくれるかしら? 無理強いするつもりはないけど、そのなりに考えての提案なのだけど」
真剣に私は稗田さんに語り掛けた。
私の言葉を聞いて稗田さんの視線が泳いでいる、不安でいっぱいの表情をしていた。
「私が……ですか、考えてなかったので、どう返事してよいのか……」
なんとか返事をするために辛そうに答える稗田さんの姿に、私は心が痛んだ。
「うん、分かった、すぐには決めなくていいから、また、一晩考えて返事を聞かせてくれるかしら?」
「はい……」
力なく返事をする稗田さん。
私はとりあえず、一旦稗田さんのことはおいて、他のキャストの事を決めることにした。
唯花さんと内藤君は与えられた役を迷わず引き受けてくれて、メインキャストは稗田さんの返事を待つだけとなった。
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